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世界ジュニア選手権大会

 寒い日本に帰国した編集部タロー、大会閉幕後に遅ればせながら、今大会でセンスが光った選手たちを紹介します。

 まず、男子。率直に言うと、例年に比べると有望なプレーヤーは多くはなかった。このジュニアの年代では、完成度よりも何かひとつ、飛び抜けた能力やテクニックが欲しい。たとえば中国の徐瑛彬は、完成度では大会でもトップレベルで、髪型もプレースタイルも完全に馬龍を意識している。しかし、馬龍もジュニア時代はフォアをガンガン振る超攻撃的なスタイルで、そこから台上プレーやバックハンドを高め、現在の地位を築いた。ジュニア時代から今の馬龍を手本にしてしまうと、小さくまとまりすぎてしまう感がある。

 ……前置きが長くなりましたが、下の写真と照らし合わせてご覧ください。
 まずボールセンスが光ったのはアメリカのインド系プレーヤー、ニクヒル・クマル。決勝トーナメント1回戦でモーレゴードを2−1とリードして、モーレゴードをあわてさせた左腕。フラット系の打法とループドライブをうまく使い分け、どのプレー領域でもミスが少ない。

 続いて、ドイツのカイ・シュトゥンパー。こちらは母親が中国人の中国系プレーヤー。今年のヨーロッパユーストップ10で優勝しているので、今さら「有望新人」でもないですが……。シングルスは予選グループでベー・クンティン(シンガポール)に敗れて決勝トーナメントに進めなかったが、パワーと冷静な選球眼を持ち合わせた「クールなスナイパー」という印象だ。

 チリのニコラス・ブルゴスは、ボールを左右に曲げ、後陣ではロビングにカット。ボールのありとあらゆる面をとらえるセンス系プレーヤー。攻めの速さはないが、見ていて飽きない。

 地元タイの観客を熱狂させたのは、ヤナポン・パナギットグン。風貌は「のんびりした(吉村)真晴くん」という感じ。長身のバックハンド主戦型で、今後はもう少しフットワークも磨きたい。2回戦のピカール戦は最終ゲーム6−1と大きくリード。ベスト8まであと一歩だったが、気持ちが守りに入ってしまった。

 男子シングルスベスト8のポーランドのサムエル・クルチツキは、個人的に好きなタイプのプレーヤー。戸上には台上プレーと前陣での攻めの速さの差が出て完敗したが、両ハンドのバランスとバックハンドの攻撃力は光る。

 男子のトリは香港の鮑奕文(パウ・イクマン)。去年も紹介しましたが、何だか放っておけないその風貌。いわば「香港の小塩さん」。バックドライブにフォア面に反転しての粒高プッシュ、思い切り回転をかけるロビングなど、何でもアリのオールラウンド系チョッパー。まさにストリート卓球。

 女子ではもう有名人ながら、アメリカのエイミー・ワンのボールセンスには改めて驚嘆した。練習場でしばらく練習を見ていたが、試合よりさらに強烈な両ハンドドライブの連打をクールに決めていた。あとは本人にどれだけモチベーションがあるか、というところ。

 中国の蒯曼は、準々決勝でカットのキム・ウンソンに敗れたが、優勝した長崎美柚選手も「相手をよく見ていて、頭が良い」と語るサウスポー。予測能力が非常に高い。かつての名門・江蘇省チームから久々に現れた有望新人。

 同じく中国の呉洋晨は、準々決勝のクリスタル・ワン戦では「ラケットに当たれば何でも入る」というくらい、手の感覚の良さが光っていた。準決勝の長崎戦でそれを発揮できなかったのは、中国勢で唯一のベスト4というプレッシャーゆえだろう。もう少しアグレッシブな3球目攻撃がほしい。

 そして最後は、その頑張りに拍手を送りたいジャミラ・ロウレンティ。3位のキム・ウンソンから2回戦でマッチポイントを奪い、時間にして他のコート2試合分の壮絶な死闘を繰り広げた。バック面のアンチラバーをクルクル反転させ、ひたすら粘ってチャンスボールだけ叩く。涙の敗戦となったが、健闘に拍手。
 写真は男子ダブルス決勝後の表彰式の様子。最初に行われた混合ダブルス表彰で、大型ビジョンに映し出されたのは、3枚の五星紅旗を従えて昇っていく日の丸。流れ出す君が代のメロディ……それはなんと「歌付き」だった。表彰式で歌入りの国歌を聞くのは初めてだ。

 そういえば、大会の4日目くらいのこと。メディアシートにいた「卓レポ.com」の佐藤さん(世界ジュニア取材歴ほぼ10年)と私のところに、表彰式の準備をしている組織委員会の女性が「日本の国歌はこれでいいのか、チェックしてもらえる?」と言ってきた。ものの数秒聞いて「OK!」と言ってしまったが……あれは前奏だったのかもしれない。なかなか貴重な体験でした。

 とにもかくにも、コラートの夜空(屋内ですけど)に君が代はみたび流れた。今大会の獲得タイトル数は、日本が「3」、中国が「4」。男女団体のタイトルを獲得することはできなかったが、個人戦に入ってからの日本チームは、完全に中国を圧倒していた。男子シングルス2回戦で戸上隼輔が徐英彬に勝ってから、会場全体の雰囲気が変わり、各種目で中国勢を破るチームが現れた。世界ジュニアという大会の歴史の中で、ひとつの転換点に成り得る大会かもしれない。

 ……普段ならこのあたりで速報を締めるところですが、大会で見つけた有望選手やナーコンラーチャシーマー卓球クラブとの交流など、もう少し続きます。
●女子ダブルス決勝
木原/長崎 5、6、10 蒯曼/石洵瑶(中国)

●男子ダブルス決勝
劉夜泊/徐英彬(中国) 3、6、2 シドレンコ/ティホノフ(ロシア)

 大会最終日、ラスト2試合は女子ダブルス&男子ダブルス決勝!
 女子ダブルスで木原美悠/長崎美柚が優勝。今大会、日本は女子シングルス、女子ダブルス、混合ダブルスの3種目で優勝を果たした。世界ジュニアで行われる7種目のうち、今まで日本勢の優勝がなかったのがこの3種目。「史上初×3」の快挙だ!

 木原/長崎は強かった。バック表ソフトの小さく切れたストップとフリックで、レシーブから対戦相手を翻弄する木原。一方の長崎はチキータとバックドライブでグイグイ攻める。ラリー戦になれば、両サイドからストレートに攻撃できるのもこのペアの強み。あまりの快勝ペースに、3ゲーム目に4−3としたところからやや余裕が出て、4−9と離されたが、ここからジュースに持ち込んで鮮やかなストレート勝ちを収めた。
 
 日本勢初優勝の快挙に加え、長崎は女子シングルスと女子ダブルスの2冠、木原は女子ダブルスと混合ダブルスの2冠。ともに2冠を手にして、満面の笑顔で大会を終えた。

 最終試合の男子ダブルス優勝は劉夜泊/徐英彬。ロシアペアを台上で翻弄し、中国勢不調の鬱憤(うっぷん)を晴らすように豪快なカウンターを連発。前回大会のグレブネフ/カツマンに続いて、2大会連続のロシア勢の決勝進出となったシドレンコ/ティホノフだが、為す術なく敗れた。
●男子シングルス決勝
向鵬(中国) 10、3、8、5 モーレゴード(スウェーデン)

 女子シングルス決勝に続いて行われた、男子シングルス決勝。16歳の向鵬がモーレゴードを4−0のストレートで下し、前回大会の3位からステップアップの初優勝を決めた。

 モーレゴードのバックプッシュと強烈なフォアのカウンターを、向鵬が台から距離を取ってしのぎ、カウンターで応戦する。1ゲーム目から「肉を切らせて骨を断つ」ような激しいラリー戦となった男子シングルス決勝。
 1ゲーム目、モーレゴードが2−5のビハインドから7−5と逆転し、9−9まで競り合ってから10−9とゲームポイント。しかし、向鵬に10−11と逆転され、バック対バックから強烈な回り込みドライブで打ち抜かれる。

 この1ゲーム目をゲームポイントを握りながら落としたことで、モーレゴードのプレーに余裕がなくなり、2ゲーム目も3−2からまさかの9点連取を許す。集中力が落ちたモーレゴードは、台上に浮いたチャンスボールにもイージーミスを連発。「信じられない」という表情で頭を抱えた。

 一方の向鵬は、そのモーレゴードの焦りを見透かすように、コースを読み切ってカウンターで待ち受ける。向鵬がゲームカウント3−0とした4ゲーム目も5−0と出足で一気に離し、そのまま勝負を決めた。2年前の「忘れ物」を受け取ることができなかったモーレゴード。自らのキャリアに加わったのは、2枚目の銀メダルだった。
●女子シングルス決勝
長崎美柚 4、7、5 −8、−5、7 小塩遥菜

 女子シングルス優勝は長崎美柚!
 17回目の世界ジュニアで、ついに日本から女王が誕生した!

 日本勢同士の対戦ということもあり、ベンチコーチのいない試合は序盤から静かな立ち上がり。準決勝の呉洋晨戦で、相手の持ち味を殺すことに徹した長崎は、この決勝でも中盤まで強打は数えるほど。ドライブを送ると変化をつけられる小塩のバックサイドにはツッツキを送り、ドライブはフォアサイドに集める。静かに、確実に得点を重ねていく長﨑。強心臓の小塩もさすがに動きが硬く、カットのミスが多かった。息詰まるような緊迫感の中で、長崎が3ゲームを連取する。

 しかし、4ゲーム目はやや長崎に打ちミスが多くなる。小塩も次第に硬さが取れ、1ゲームを返した5ゲーム目には、大きく曲がるバックカットで長﨑をバックに寄せておいて、大きく空いたフォアへ「横入れ」を狙うようなストレート攻撃を連発。小塩が2ゲームを返したが、長崎もここで踏ん張った。小塩のフォアへ確実にドライブを打ち込み、最後は11−7。

 優勝の瞬間、同士討ちということで硬かった長崎の表情に、笑顔の花が咲いた。団体戦の初戦でいきなり黒星を喫してから、迎えた見事なハッピーエンド。残る女子ダブルス、木原とのペアで2冠を狙う。
●混合ダブルス決勝
宇田/木原 9、1、7 徐英彬/石洵瑶(中国)

 やりました!
 混合ダブルス決勝で宇田幸矢/木原美悠ペアが、中国の徐英彬/石洵瑶にストレートで完勝。この種目で日本勢初の優勝を成し遂げた!!

 宇田/木原は宇田の変化のあるチキータと、木原の強烈な変化サービスが中国ペアにも存分に威力を発揮。1ゲーム目を5−7から9−7と逆転し、宇田がチキータを決めて11−9で競り勝つと、2ゲーム目は意気消沈した中国ペアから8−0までリードを広げる。3ゲーム目も4−1から一時は4−4に追いつかれたが、6−4、8−5と突き放した。
最後は10−7から、宇田が鮮やかなバックドライブをバッククロスに突き刺して勝負あり。宇田幸矢、3大会を戦った世界ジュニアのラストを飾るに相応しい、鮮やかな一撃だった。

 ともにシングルスで敗れている徐英彬と石洵瑶はプレーに精細を欠き、観客席の中国選手団の応援もまばら。対照的に日本は、観客席の日本選手団から大きな声援が送られ、宇田/木原を後押しした。
●女子ダブルス準決勝
木原/長崎 4、6、2 Ca.ルッツ/パヴァデ(フランス)
蒯曼/石洵瑶(中国) 9、8、7 A.ヴェグジン/K.ヴェグジン(ポーランド)

●男子ダブルス準決勝
劉夜泊/徐英彬(中国) 8、−8、11、8 チュア・シャオハン/パンイエウエン(シンガポール)
シドレンコ/ティホノフ(ロシア) 8、5、10 向鵬/曾蓓勲(中国)

男女シングルス準決勝に続いて、男女ダブルスも準決勝が行われ、女子ダブルスで木原/長崎が決勝進出。驚異の身体能力を誇る左腕パヴァデを擁し、ラリーになると強いフランスペアに対し、サービス・レシーブからの速攻で圧倒した。長崎は女子シングルスとダブルスの2種目で決勝進出。2冠に向けて突き進んでいる。

男子ダブルスは中国ペアとロシアペアが決勝進出。ロシアペアに敗れた向鵬/曾蓓勲は、向鵬のシングルス決勝が控えているからか、消極的なプレーに終始した。
 男子シングルス準決勝の5ゲーム目、スコアは5−9。劣勢は明らかだったが、戸上隼輔の目はまだ死んでいなかった。ここから強烈なチキータとラリーでの連続ドライブで、一気に9−9。しかし、ここで向鵬は、3球目でわざとタイミングを外した緩いフォアドライブを、戸上のミドルに打ち込んできた。顔つきにはあどけなさの残る向鵬が見せた、老練なテクニックだった。

 試合後、「団体戦で向鵬選手に負けた悔しさを、シングルスでぶつけたかったんですけど、最後は団体戦と一緒で勝ちきることができなかった。競った場面で1点の重みをさらに感じさせられました」と語った戸上。以下は試合後のコメント。

 「ぼく自身、向鵬選手とは何回も対戦していて、やりにくさはないですけど、最後はサービスの変化だったり、ボールにうまく対応できなかった。その少しのズレがミスへの恐怖につながって、ゲームポイントを奪った場面で思い切ってプレーできなかった。それが敗因だと思います。でもバック対バックで回り込んだ後の展開だったり、サービスが効いたことは自信につながりました。
 今年の世界ジュニアは団体戦からシングルスまで4種目出て、うれしいこともあったんですけど、地獄というか、自分にとってはつらいことのほうが多い大会だった。こういう大会を経験したからこそ、今後に生かせることが出てくると思う。将来につなげていきたいです」(戸上)

 コートサイドで見ていても、胸が痛くなるほどつらい試合もあった。しかし、最後の世界ジュニアを戦い終えた戸上の表情には、多くのものをじっと胸の内に抱えながらそれを乗り越えてきた、清々しさがあった。最後の世界ジュニアは3位。今後は自らの目標と語る2024年のパリ五輪に向けて、一歩ずつ階段をのぼっていく。
●男子シングルス準決勝
モーレゴード(スウェーデン) 7、10、7、9 馮翊新(チャイニーズタイペイ)
向鵬(中国) 12、10、11、−10、9 戸上

 無念……。戸上は男子シングルス準決勝で向鵬に1−4で敗れた。
 1〜3ゲーム目はすべて先にゲームポイントを奪う展開。しかし、競った場面での1点の重さをこの試合でも見せつけられた。ミスをすると表情を歪め、不安そうにベンチを振り返る向鵬だが、競った場面でも思い切って戸上のフォアに切ったロングサービスを出すなど、追い詰められると力を発揮するタイプ。戸上もバック対バックからすばやく回り込み、ラリー戦では優位に立っていたが、サービス・レシーブと緩急にわずかな差があった。

 準決勝のもうひと試合はモーレゴードが貫禄を見せ、馮翊新にストレート勝ち。馮翊新の強烈な両ハンドドライブに対しても、モーレゴードがあわてないのは、普段の練習相手のレベルがそれだけ高いからだろう。浅いグリップと驚異的なスイングスピードから、目にも留まらぬカウンタードライブを連発し、バックのプッシュが相手のフォアを抜く。追われる者のプレッシャーはあるはずだが、「モーレゴード・ワールド」に相手を引き込んでいる。
●女子シングルス準決勝
長崎 −10、1、11、6、−7、7 呉洋晨(中国)
小塩 6、8、9、−8、8 キム・ウンソン(北朝鮮)

快挙!!
女子シングルス準決勝で長崎美柚と小塩遥菜が勝利し、日本勢同士の決勝が実現。どちらが勝っても日本女子初の世界ジュニアチャンピオンだ!

 長崎は「中国最後の砦」呉洋晨を陥落させた。この試合、両ハンドドライブを全力でフルスイングした場面は皆無。レシーブは確実にストップ、そして3球目は裏面打法が堅い呉洋晨のフォアを中心に、徹底してループドライブで返球した。右ペンドライブ型の呉洋晨は、パワフルなフォアドライブ主戦というよりも、相手に攻めさせて両ハンドでカウンターを狙うタイプ。この長崎の「ループ作戦」にミスが続き、完全にリズムをくるわされた。

 ベンチに入った劉楽コーチが、長崎にひと言「勝ち方いっぱいあるよ、攻めるだけじゃない」。自らの特長を発揮するより、徹底して勝利にこだわった戦術が勝利を呼び込んだ。

 そして小塩は、9月のアジアジュニア団体準決勝で3−2で勝利していたキム・ウンソンとのカット対決を制した。1ゲーム目のラブオールの1本目が終わった時、隣の長崎と呉洋晨の試合は3−1になっていたほどの粘り合い。バックカットの変化と攻撃力にまさる小塩にとって、促進ルールのほうが確実に有利だった。4ゲーム目からスマッシュがミスになるケースが多く、5ゲーム目も3−7まで離されたが、ここから驚異の8点連取。
 
 勝利の瞬間をアップで撮影していたのだが、浮かない顔なのでミスをしたのかと思ったら、スタスタと相手のもとへ握手に寄っていく。勝利は予想の範囲内だったのか、クールに決勝進出を決めた。