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中国リポート

トップニュース中国リポート

★★★ 2007中国超級リーグ 男子第13節 ★★★
[江蘇江南電纜 3-1 天山万杰隆]
[遼寧錦州万通 3-2 江蘇華都琥珀]
[海寧皮革城鵬翔 3-1 寧波北侖海天]
[四川全興 3-1 浙商銀行]
[八一工商銀行 3-2 魯能中超電纜]

◎王励勤が馬琳を粉砕。注目の一戦!
[海寧皮革城鵬翔 3-1 寧波北侖海天]
○王励勤 4、5、3 馬琳
○陳剣 -7、2、2、8 柳洋
 陳剣/金恩華 4、-5、-7、8、-4 柳洋/李静○
○王励勤 6、8、-5、3 李静

 前回の第4節では対戦しなかった王励勤と馬琳が、トップで激突した男子第13節。
 世界選手権ザグレブ大会決勝の再現を望むファンの期待とは裏腹に、出足からエンジン全開の王励勤が馬琳にまったくつけいるスキを与えず。3ゲーム合わせても12点しか得点を許さないという完勝劇だった。このトップでの先制に続き、2番で陳剣が柳洋を下した1点が海寧皮革城鵬翔にとっては大きく、4番で王励勤が李静を下してセオリーどおりの勝利を挙げた。
 会場の広東省深セン市体育館では午前9~10時が寧波北侖海天の練習時間、10~11時が海寧皮革城鵬翔の練習時間だったのだが、馬琳は部屋で寝ていて9時からの練習に現れなかったようだ。逆に王励勤はチームメイトとしっかり汗を流したようで、この両エースの姿勢が勝敗を分けたと報道されている。
 馬琳がビッグタイトルから見放されているのも、やはりこういう部分が原因なのかもしれない。王励勤と馬琳を比べると、若手の頃はむしろ馬琳のほうが精神的に強いイメージがあった。競った場面でも積極果敢な攻撃を見せる馬琳に対し、王励勤は大事な場面になると「弱気の虫」が顔を出していた。しかし、現在、ふたりの地位は完全に逆転してしまっている。ザグレブ大会決勝で優勝を目前にしながら、プレーが守りに入って大逆転を許した馬琳の姿は、かつての王励勤とダブって見えてくる。

 もっとも、王励勤や馬琳クラスの選手になると、超級リーグや国家チームの部内リーグでは、本気で試合をすることはほとんどない。そのため、今回のワンサイドゲームがイコール実力の差とは言えない。来るべきビッグゲームの決勝戦に備えて、サービスやレシーブでも手の内を見せたくないというのが本音だからだ。馬琳のような、変化サービスからの一発強打で勝負するタイプの選手ならなおさらだろう。
 その他の試合、首位の浙商銀行は、エースのハオ帥が邱貽可にストレートで敗れて四川全興に完敗。エース陳杞の不調が続く江蘇江南電纜は、ダブルスの名手でもある陳杞をダブルスに起用するオーダーで天山万杰隆を下す。朱江と單明杰がシングルスでそれぞれ勝利を収めた。

Photo上:試合後のホテルでの夕食中も、サインや写真を求めるファンに丁寧に対応したという王励勤
Photo下:馬琳、気合い不足か、それともライバルを相手に手の内を隠したか…

 8月8日から18日まで、タイ・バンコクで行われていた第24回夏季ユニバーシアード。卓球がユニバーシアードの正式種目に加わった記念すべき大会だ。
 昨年まで毎年開催されていた世界大学卓球選手権は、昨年のスロベニア・マリボル大会が最後の開催となった。ちなみにユニバーシアードでは、これまでにも2001年北京大会で卓球が特別種目として行われており、男子シングルスでは王励勤、女子シングルスでは準決勝で張怡寧を破った帖雅娜が優勝している。

 ユニバーシアードの参加資格は「大会が開催される年の1月1日現在で17歳以上28歳未満」で、「大学または大学院に在学中、もしくは大会の前年に大学または大学院を卒業した人」とのこと。プロ選手でも上記の規定を満たしていれば参加できる。
 中国からは男女5人の選手団が参加。男子はセン(瞻の右側)健・侯英超・高欣・林晨・王熹。いずれも上海交通大学に在籍している。女子が饒静文・劉娟・余静微・戴寧陽・蔡サンサン(女+冊)。こちらも中国を代表する強豪大学、上海・華東理工大学の単独チームだ。

 男子団体決勝、荘智淵・張雁書がいるチャイニーズ・タイペイの前に苦戦が予想されたが、セン健が2番で荘智淵をゲームオールで下す金星を挙げ、そのままストレートで押し切った。女子団体決勝は04年世界大学チャンピオンの福岡春菜(中国電力)を擁する日本と対戦し、こちらもストレートで完勝。左ペンドライブ型の劉娟が福岡に3-1で勝利した。
 男子シングルスで優勝したのは、決勝で昨年の世界大学チャンピオン・侯英超(世界ランク11位)をストレートで下した高欣。準決勝でも荘智淵に4-1で完勝しており、大健闘と言えるだろう。2005年の東京選手権に上海市チームの一員として来日し、準決勝で吉田海偉(日産自動車)に完敗しているが、それからかなり実力を伸ばしているようだ。
 女子シングルスは実力どおり、上海電信理工のチームメイトである饒静文と劉娟が決勝で対戦。ゲームオールの激戦を饒静文が制した。前回チャンピオンの余静微は4回戦(ベスト8決定戦)で福岡春菜に敗れている。
 女子ダブルスは劉娟/饒静文、混合ダブルスは林晨/饒静文が制し、中国は7種目のうち6種目で優勝。饒静文は出場した種目すべてで優勝し、4冠を獲得して今大会の女王となった。中国が唯一タイトルを逃がしたのが男子ダブルス。タイペイ勢同士の決勝となり、荘智淵/張雁書が優勝を決めた。前回大会でも中国は男子ダブルスだけタイトルを逃しており、タイペイが得意のダブルスで意地を見せている。
 次回の夏季ユニバーシアードは2009年にセルビアのベオグラードで開催される。

Photo上:ユニバーシアードの男子初代チャンピオンに輝いた高欣
Photo中:4種目を完全制覇した饒静文
Photo下:男子シングルス3位の荘智淵。2000年の世界大学卓球選手権にも参加しているのだが、まだ学生なのか…

☆☆☆ 2007中国超級リーグ 女子第12節 ☆☆☆

[北京首創 3-0 深セン長園新材]
[八一工商銀行 3-0 上海電信理工]
[河北金能 3-0 重慶康徳遠景]
[遼寧鞍鋼 3-1 山東魯能]
[北大方正 3-2 江蘇麗華快餐]

◎北京首創が第2節のリベンジ! 注目の一戦!
[北京首創 3-0 深セン長園新材]
○丁寧 9、6、-6、-9、5 周芳芳
○張怡寧 -9、-7、7、5、9 劉詩ブン(雨+文)
○郭炎/丁寧 10、10、-7、7 周芳芳/麦楽楽

 開幕直後の第3節で北京首創を破り、7連勝で首位を快走した深セン長園新材。しかし、下位チームに対する取りこぼしが響き、8勝3敗で3位にランクダウン。一方、北京首創は2番手の郭炎の不調などで予想外の苦戦が続いたが、9勝2敗で首位の座を死守している。

 両チームにとって負けられない戦いだけに、用兵も慎重。北京首創は3番手の丁寧をトップに、エースの張怡寧を2番に起用。一方の深セン長園新材は2番手の曹幸ニィ(女+尼)が不調のため、4番手の20歳、周芳芳(右シェークドライブ型)をトップに起用した。周芳芳はここまでシングルス2勝2敗、帖雅娜と姜華君を破っている。ゲームオールにもつれたが、接戦での勝負強さには定評のある丁寧が最終ゲームを5本で制した。
 2番は注目のエース対決、張怡寧vs.劉詩ブン。第1ゲームは張怡寧の強引な攻撃にミスが出て、11-9で劉詩ブン。第2ゲームも4-4から速攻が冴えた劉詩ブンが11-7で連取する。第3ゲーム、劉詩ブン4-3のリードで張怡寧がたまらずタイムアウト。ここから2本のエッジボールに救われた張怡寧が第3ゲームを辛くも制すると、第4ゲーム以降は緩急をうまく使って劉詩ブンの速攻をしのぎ、第5ゲームも5-0、10-2と大きくリードする。ここで劉詩ブンも驚異の粘りを見せ、7本連取で10-9まで追いすがるが、最後は攻撃にミスが出て張怡寧が逆転勝利。第3節で敗れた雪辱を果たした。
 3番ダブルスは第1ゲーム2-9のビハインドから12-10とまくり返した郭炎/丁寧が押し切って、北京首創が3-0で深セン長園新材に勝利。しかし、2ゲームを連取しながらゲームオールに持ち込まれたトップの丁寧、10-2から7本のマッチポイントを生かせなかった張怡寧など、チャンピオンチームとしてはやや不満の残る内容に、周樹森ヘッドコーチのコメントは厳しい。「今日の試合内容は悪かったね。一歩間違えていたら、勝利を収めていたのは相手のチームかもしれない(周樹森)」。

 その他の試合。首位を走るもう1チーム、遼寧鞍鋼は王楠が単複2点を奪う活躍で山東魯能に勝利。山東魯能はこれで第9節から4連敗、優勝戦線から完全に脱落してしまった。現在11連敗中の江蘇麗華快餐、またしても2-3の接戦に敗れ、これで12連敗。抜けられないトンネルどころか、このままでは「地下鉄」のままシーズンが終わってしまう…。

Photo上:張怡寧、勝利は収めたものの、五輪連覇に向けてモチベーションの維持が難しそうだ
Photo中:劉詩ブン、五輪女王に互角の戦いを見せたが…
Photo下:「勝って兜の緒を締めよ」。張怡寧にアドバイスを与える周樹森ヘッドコーチ(05年全中国運動会)

★★★ 07中国超級リーグ・男子第12節 ★★★
[遼寧錦州万通 3-2 天山万杰隆]
[江蘇江南電纜 3-2 四川全興]
[寧波北侖海天 3-2 江蘇華都琥珀]
[浙商銀行 3-1 八一工商銀行]
[海寧皮革城鵬翔 3-0 魯能中超電纜]

◎39歳の馬文革、なんと王皓を破る。注目の一戦
[浙商銀行 3-1 八一工商銀行]
○李平 10、8、-5、5 徐克
 ハオ帥 -8、-10、-7 王皓○
○李平/馬文革 8、-11、8、-7、7 徐克/ジャク(曜の右側)一鳴
○馬文革 -11、10、-6、9、7 王皓

 8勝3敗で単独首位に立つ浙商銀行と、7勝4敗と星ひとつ差で追う八一工商銀行の対戦は、浙商銀行のホームである浙江省での開催。会場となった金華市体育館には1,000名を超える卓球ファンが詰めかけた。

 この試合、まずポイントになったのは2番のハオ帥vs.王皓のエース対決。第1ゲームはお互いにサービスからの展開が作れず、シーソーゲームになったが、最後に3球目攻撃を決めた王皓が先制。続く第2ゲームも王皓は2-6のビハインドから10-6と逆転し、デュースに追いつかれたものの2ゲーム連取。第3ゲームも同じく2-6から追いついて一気に勝負を決めた。
 しかし、この試合の主役になったのは王皓でもなく、もちろんハオ帥でもなかった。浙商銀行の頼れるアニキ、馬文革だ。3番のダブルスでゲームオールの接戦を制すると、なんと4番では超級リーグ最高勝率を誇る王皓にも競り勝ち、一気にチームを勝利へと導いた。一発勝負のシングルスならば、国家チームを引退して10年になる大ベテランでも、現役バリバリの選手に勝つチャンスがあるということだが、いまだに高い技術力をキープしているのはさすがと言わざるを得ない。
 敗れた八一工商銀行のヘッドコーチで、かつての国家チームのチームメイトである王涛は「今日の王皓はフォアのミスが多く、リズムを掴めなかった。試合をコントロールできていなかった。馬文革のプレーは本当に素晴らしかったね」とコメント。かつての僚友に賛辞を惜しまなかった。
 若手も真っ青の活躍を見せている馬文革だが、この第12節が超級リーグの今季ラストゲームになる模様だ。14日に自宅のあるドイツ・シュツットガルトへ戻り、今年もフリッケンハオゼンのメンバーとして17日のブンデスリーガ開幕戦に参戦。フリッケンハオゼンはユーリッヒと5-5で引き分けたが、馬文革はロスコフを3-0、高木和卓をゲームオールデュースの3-2で破り、エースとしての重責を果たした。浙商銀行としては、馬文革が抜けた残り8試合をいかに戦っていくかが、優勝へのポイントになりそうだ。

 現在39歳の馬文革、連戦を戦い抜く体力があれば、世界選手権に出場してもベスト8くらいに入るかもしれない。まことに、とんでもないオッサンである(失礼)。

Photo上:最後の世界選手権となった97年マンチェスター大会での馬文革。シングルスでベスト8に入った
Photo下:大先輩にキツい洗礼を受けた王皓。勝率トップの座を馬龍(四川全興)に譲る
 1997年の世界選手権マンチェスター大会で団体・シングルス・ダブルスの3冠を制したのを最後に、トウ亜萍は現役を引退した。まだ24歳だったが、猛練習に次ぐ猛練習で、マンチェスター大会では腰にコルセットをはめながらのプレー。しかし、闘志あふれるその姿からは、故障の影響を微塵も感じさせなかった。

  トウ亜萍の競技人生の中で、不本意であろう敗戦が2試合だけある。
 1試合目は91年世界選手権千葉大会の女子団体決勝、中国vs.コリア戦2番の対ユ・スンボク戦。ユの重いフォアドライブとバック強打の前に1-2で敗れた。この試合、2-3でコリア(韓国と北朝鮮の合同チーム)に敗れ、大金星を献上した中国は9連覇の夢を断たれた。75年カルカッタ大会から優勝を続けていた中国女子、この試合で敗れていなければ、2006年のブレーメン大会で団体16連覇を達成していたことになるのだから、中国卓球史に残る敗戦のひとつには違いない。
 もう1試合は93年世界選手権イエテボリ大会、女子シングルス3回戦のジン・ジュンホン(シンガポール)戦。断トツの優勝候補筆頭だったが、のちにシドニー五輪でベスト4に入った帰化選手、ジン・ジュンホンの連続ドライブの前にまさかの敗戦を喫した。

 そして現在、現役を引退して10年が経ち、トウ亜萍はイギリスのケンブリッジ大学で経済学の博士号を取得しようとしている。現役引退後、中国でも屈指の名門・清華大学に入学、英語と管理学を学んだ。特に英語はまったく喋ることができなかったのが、清華大学で学んだ後、イングランドのノッティンガム大学に留学。今では北京市民の英語普及活動のイメージ大使を務めるほどになっている。超一流の努力は、どの分野においても花開くということだろう。
 プライベートでは、93・95年世界選手権男子ダブルス3位の林志剛(リン・ジィガン)と10年越しの交際を経て2004年に結婚。昨年3月にパリで3400gの元気な男の子を出産し、「林瀚銘(リン・ハンミン)」と名付けている。

 今年4月には北京五輪のオリンピック村選手村部門の副部長に就任、「金メダリストが村長に」と大きく報道された。慈善活動にも積極的に参加しており、たとえば視力回復の手術費が払えない学生に対して、2005年からすでに100名以上の手術費を寄付してきた。
 学生として、母親として、さらには北京オリンピックの顔として。ラケットを置いたとはいえ、中国が生んだ偉大な女傑・トウ亜萍は、現役時代と少しも変わらぬ輝きを放ち続けている。

※来週20日からは、いよいよ佳境を迎えた超級リーグも再びリポートします!

Photo上:91年世界選手権千葉大会で敗れた鬱憤を晴らすように、圧勝で王座に返り咲いた93年イエテボリ大会団体表彰
Photo下:2004年アテネ五輪で、卓球会場を訪れたトウ亜萍
 トウ亜萍が世界選手権にデビューした1989年、女子卓球はよりパワフルな方向へ進みつつあった。87年世界選手権ニューデリー大会で優勝した何智麗(中国/現:小山ちれ)、そしてこの89年ドルトムント大会で優勝した喬紅(中国)は、恵まれた体格を生かした威力ある両ハンドドライブで世界の頂点に立った。
 そんな中で頭角を現してきた16歳の少女・トウ亜萍。その身長はわずかに150cm。これは公称だったから、実際にはもう少し低かったようだ。プレースタイルはフォア裏ソフト・バック粒高ラバーの異質速攻型。では、トウ亜萍のプレーを、三つのキーワードで紹介しよう。

1.すばやい戻りからの連続スマッシュ

 前陣でのすばやい動きから「ゴムまりのようだ」と評されたが、常に細かいステップを踏んでいたので、本当にゴムまりのように弾んで見えた。とにかく戻りが抜群に早く、したがって打球のピッチも非常に早かった。ヨーロッパの選手とは、ワルツとロックというくらいピッチの差があった。身長の低い選手に対しては、両コーナー、特にフォアサイドを切って有利な展開に持ち込むのがセオリー。しかし、トウ亜萍を前にすると、左右に揺さぶられるのはいつも相手選手のほうだった。
 決定打はミート打ちとスマッシュが主体。卓球を始めて1年間は徹底的に基礎技術をやり込んだというだけあって、スマッシュにもまず凡ミスは出ない。そして要所で混ぜる、巧みな逆モーションの流しドライブは、相手をあざ笑うかのようにノータッチで抜けていった。

2.魔術師のようなフォアサービス

 トウ亜萍のサービス練習の練習量は相当なものだったようだ。第1球目攻撃であるサービスを徹底的に強化し、“魔術師”と形容されるほど巧みな変化サービスを駆使した。
 また、中国の女子選手の中で、フェイクモーションを多用した最初の選手でもある。それまでにも中国では、手首を曲げて戻す一連の動きの中で、横回転と逆横回転のサービスを出し分けるモーションの工夫はあった。しかし、たとえば下回転を出したあとにラケットを上に引き上げ、上回転に見せるような意図的なフェイクモーションを使ったのは、トウ亜萍が最初だったのだろう。このフェイクモーションを交えたアップダウンサービスから、少しでも返球が浮けばすかさず3球目強打を叩き込んでいった。

3.バック粒高面で時間をコントロール

 抜群のピッチの早さを誇るトウ亜萍とはいえ、すべてのボールを強打するわけにはいかない。左右に大きく動かされれば、不利な展開になる場面も出てくる。無理に攻撃すると不利になる場面では、バック面に貼ったツブ高ラバー(変化系表ソフトに近い、ややツブの低いもの)での巧みなカット性ショートを使い、ラリーを一旦リセットして再び有利な展開に持ち込んでいった。また、相手が中陣に下がった時にはうまくバック面でのドロップショットを使い、相手がようやく返してきたボールを打点の早いスマッシュで打ち抜いた。

 これらの多彩な技術を支えていたのは、苦境に陥るほど燃える彼女のファイティング・スピリット。勝負所でスマッシュを決めたあとに「シャーッ」と拳を固めて叫ぶ姿は、まさに「闘神」だった。
 トウ亜萍のプレーを見たことがない方は、ぜひ一度観てほしい。卓球というスポーツの持つ限りない可能性を、改めて感じることができるはずだ。

Photo上:91年世界選手権千葉大会でシングルスに初優勝
Photo中:96年アトランタ五輪でも単複優勝。表彰台の真ん中でも、両隣の陳静、喬紅より頭ひとつ低い
Photo下:中指に遊びがあり、レシーブ時には二本差しに近くなる独特のグリップ

※数回のラリーではありますが、卓球王国DVDライブラリーの
D-001『TABLE TENNIS BEYOND IMAGINATION! 1985~2000スーパープレー』
D-011『世界のスーパースターアクションDVD』
にもトウ亜萍のプレーが収録されています
 先月末、福建省の新聞にこんな記事が掲載された。
『9歳の少年をはじめ、福州市を訪れるトウ亜萍と「卓球がしたい」という200名を超える応募者の中から、抽選で男子25名・女子7名・少年8名が選ばれた。この3組でそれぞれ予選が行われ、優勝者3名は、これもまた抽選で選ばれた100名の観衆の中で、晴れてトウ亜萍とプレーする権利を得る』。

 引退してすでに10年、いまだにこれほどの求心力を持つトウ(登+おおざとβ)亜萍(デン・ヤァピン)。北京五輪を前に、再びマスコミへの露出も増えている。「トウ亜萍ってどんな選手だったの?」と聞かれたら、迷わずこう答えたい。「史上最高の女子卓球選手」だと。そして、少し時代は遡るが、この卓球史に永遠に残るであろうひとりの女子選手を、少し紹介してみたくなった。
 昔話ではあるが、興味のある方はお付き合い願いたい。

 トウ亜萍は1973年2月6日生まれ、湖南省新寧市の出身。生まれて間もなく両親とともに河南省に移住、父親の手ほどきで5歳から卓球を始めた。1983年にわずか10歳で河南省チーム入りすると、88年には15歳で早くも国家チームのメンバーに選出。初出場の89年世界選手権ドルトムント大会で女子ダブルスに優勝したのが初の世界タイトルだ。
 ここから97年マンチェスター大会を最後に引退するまで、世界選手権で9個のタイトルを獲得し、女子シングルスでは91年千葉、95年天津、97年マンチェスターの3大会で優勝。さらに92年バルセロナ五輪、96年アトランタ五輪で単複とも金メダルに輝き、五輪ではなんと一度も負けていない。ワールドカップやワールドダブルスカップ、ワールドチームカップも含めると、全部で18個の世界タイトルを獲得している。まさに90年代を代表する卓球界のスーパーヒロインだった。

 タイトルを例に出してしまえば、トウ亜萍より評価に値する人は他にもいる。5月の世界選手権ザグレブ大会で20個目の世界タイトルを手にした王楠(中国)がいる。不滅の世界選手権6連覇の記録を持つロゼアヌ(ルーマニア/故人)もいる。しかし、トウ亜萍の凄さというのは、人一倍どころか三倍、五倍の努力で体格面の不利をカバーし、他の誰にも真似できない独創的な卓球を築き上げた点にある。

Photo上:92年バルセロナ五輪表彰。「小さな女帝」は圧倒的な強さで金メダルを獲得した
Photo下:汚くてすみませんが、『卓球王国』14号のハイテク解剖『トウ亜萍の速攻』から。トウ亜萍の『トウ』を確認してください

☆☆☆ 07中国超級リーグ・女子第11節 ☆☆☆
[上海電信理工 3-1 北京首創]
[八一工商銀行 3-1 山東魯能]
[遼寧鞍鋼 3-0 江蘇麗華快餐]
[重慶康徳遠景 3-2 深セン長園新材]
[河北金能 3-0 北大方正]

◎まさかの2失点、どうした張怡寧? 注目の一戦!
[上海電信理工 3-1 北京首創]
○帖雅娜 9、6、-8、-5、9 張怡寧
 饒静文 -8、-6、6、-10 丁寧○
○饒静文/劉娟 12、-10、5、9 郭炎/丁寧
○劉娟 9、2、-9、-7、8 張怡寧

 ここまで9勝1敗で単独首位を走る北京首創。昨シーズンに続く2連覇に向けて視界良好かと思われたが、ホームで行われた第11節の対戦相手は前節で山東魯能を3-0で下し、3連勝中と勢いに乗る上海電信理工。

 トップに登場した張怡寧は、第1・2ゲームとも集中力を欠き、なんとか2ゲームを奪い返したものの、ゲームオール9本で惜敗。国際大会でもここ4年で8勝0敗と相性の良い相手だっただけに、北京首創としては波乱の幕開けとなった。2番では若手ながらピンチに強い丁寧が饒静文を破ったが、ダブルスで饒静文/劉娟が郭炎/丁寧に競り勝ち、上海電信理工が2-1とリードを奪う。
 4番に再び登場した張怡寧。対戦相手は中国リポートにも何度か登場している左ペンドライブ型の劉娟。この試合が始まった時点で、上海電信理工の臧玉瑛ヘッドコーチは「実はこの時、もうラストの試合に向けて準備をしていた」そうだ。世界ランク6位の帖雅娜はともかく、中国代表の経験もない劉娟にとって、張怡寧から勝利を挙げるのは不可能かと思えた。
 ところが、張怡寧はまたしても試合の出足で集中しきれず、第2ゲームはわずか2点で落とす。この試合もなんとかゲームオールに持ち込んだが、勝利は遠く最終ゲーム8本で敗れた。ラストの郭炎vs.帖雅娜の一戦を期待していた北京の卓球ファンにとっては、なんともあっけない幕切れとなった。

 ちょうど1年後の北京五輪で、トウ亜萍以来の五輪連覇を目指す張怡寧にとっては縁起の悪い2連敗。昨シーズンから、張怡寧には格下の選手に対し集中力を欠き、予想外の敗戦を喫することがしばしばある。中国の首脳陣にとっても不安材料だろう。
 これで北京首創は、ライバルの遼寧鞍鋼に9勝2敗で並ばれた。同じく2敗だった深セン長園新材も敗れ、3敗に後退している。いよいよ北京首創と遼寧鞍鋼の一騎打ちの構図になってきた。

Photo上:苦手の張怡寧に競り勝った帖雅娜
Photo中:大金星を挙げた劉娟。試合の翌日にはユニバーシアード大会代表としてタイ・バンコクに飛んだ
Photo下:現五輪女王の張怡寧。油断が出たのか…

★★★ 07中国超級リーグ・男子第11節 ★★★

[天山万杰隆 3-2 四川全興]
[江蘇江南電纜 3-2 八一工商銀行]
[浙商銀行 3-1 海寧皮革城鵬翔]
[寧波北侖海天 3-2 遼寧錦州万通]
[江蘇華都琥珀 3-1 魯能中超電纜]

◎劉国正が馬龍と激戦を展開。注目の一戦!
[天山万杰隆 3-2 四川全興]
○唐鵬 7、-6、3、9 邱貽可
 許シン -10、-10、-6 馬龍○
○許シン/劉国正 5、12、11 邱貽可/王建軍
 劉国正 7、9、-9、-7、-2 馬龍○
○唐鵬 -12、9、-3、13、7 王建軍

 中盤戦が進むにつれて、優勝チームが抜け出すどころか、ますます混戦の度を深めている男子超級リーグ。前節(第10節)で同率首位に立った四川全興も、下位に低迷する天山万杰隆に競り負け、あっさり首位の座から陥落してしまった。

 この試合で注目を集めたのは、シングルスで今シーズン3試合目の出場となった天山万杰隆の劉国正。同世代の王励勤や馬琳が華々しく活躍する中で、「そういえば劉国正は最近出てこないなあ」と思っていた方もいるのではないだろうか。
 この中国リポートでも開幕戦の記事でお伝えしたが、彼は2005年12月に練習中に右ひざ(膝蓋骨)を骨折、すぐに手術を受けたが失敗に終わり、二度目の手術と1年半に及ぶブランクを経て、6月9日の開幕戦で試合に復帰した。この間にも中国赤十字の慈善大使に任命されるなど、やはりこの“大逆転”男の存在感は別格のようだ。
 四川全興戦でもダブルスで今シーズン3勝目を挙げ、シングルスでも世界ランク7位の馬龍をあと一歩まで追いつめた。「ここ何試合かで、劉国正の状態はかなり良くなってきている。今日の馬龍との試合でも、2ゲームを先取して、第3ゲームも勝つチャンスは十分にあった(劉国棟ヘッドコーチ)」。ラストでは唐鵬が、最終ゲーム大きくリードしながら挽回されてヒヤッとしたものの、タイムアウトをうまく使って逃げ切った。

  天山万杰隆の劉国棟ヘッドコーチも「この試合が、国正にとって本当の意味でのリスタートと言えるのかもしれない」と、劉国正の本格復帰に太鼓判を押した。これで天山万杰隆は通算成績を5勝6敗として、ひとまず降格圏内から脱出した。
 その他の試合では、八一工商銀行が江蘇江南電纜に予想外の敗戦。エース王皓が、昨年まで日本リーグのグランプリに所属していた朱江にまさかのストレート負けを喫した。エース・ハオ帥が王励勤とのエース対決に完勝した浙商銀行が8勝3敗で単独トップに立った。

Photo上:中国男子チームの英雄、劉国正。01年世界選手権の団体準決勝、対韓国戦ラストで金擇洙の7度のマッチポイントを凌いで勝利
Photo中:バック表ソフトでパチパチ叩く、イキのいい卓球を見せる唐鵬
Photo下:天山万杰隆の劉国棟ヘッドコーチ。劉国梁中国男子チーム監督の実兄で、シンガポール女子チームの監督でもある。以前はあまり似ていなかったが、劉国梁が太ったら少し似てきたようだ

 昨日、北京オリンピックの開会式までちょうど1年の8月8日を迎え、様々なイベントが行われた北京の街。「8」は中国人にとってとても縁起の良い数字なのだ。開会式は午後8時8分スタートだというのだから徹底している。お金を儲けるという意味の「發財」の「發(ファ-)」と、「8(パー)」の発音が似ているから、だそうだ。なんとも現実的な理由がいかにも中国らしい。

 大会開幕までに世界135の都市を巡る聖火のトーチ。中国国内では、早くも聖火台に点火する最終ランナーの人選に注目が集まっている。他の候補を大きくリードしているのが04年アテネ五輪110mハードル金メダリストの劉翔(リウ・シァン)。陸上のトラック系種目ではアフリカ系選手以外で唯一の世界記録保持者であり、中国スポーツ界で最も人気のある選手だ。
 2番手としてそれを追うのがNBA(アメリカ・プロバスケットボール)のヒューストン・ロケッツで活躍する姚明(ヤオ・ミン)。NBA最長身の226cm、今月6日に上海で同じバスケットボール選手の葉莉さん(身長190cm)と結婚し、「4mカップル」と言われて話題になっている。
 劉翔と姚明、ともに上海出身の2人が、最終ランナー争いの二大候補になっているようだ。ちなみに候補には挙がっていないが、この2人に同じく上海出身の王励勤を加えて、国際スポーツ界の“三剣客”と言われることもある。

 この2人以外はドングリの背比べ状態だが、中国が初参加した1984年ロサンゼルス五輪で金メダリスト第1号になった射撃の許海峰(シュ・ハイフォン)、以前にも紹介した“李寧”ブランドの元体操金メダリスト・李寧、そして92年バルセロナ五輪・96年アトランタ五輪で単複4枚の金メダルを獲得した卓球のトウ亜萍の名前も挙がっているようだ。

Photo:あまり関係ないですが…、五輪ということでアテネ五輪のマスコットキャラクター・アティナくんです