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 今まで卓球関係者でインタビューしたのは何百人、いや千人を超えるのか・・数えたことはないが、その中でも非常に印象深い人が何人かいる。
 そのうちの一人が荘則棟氏(故人・元世界チャンピオン)だ。世界選手権を3回連続制覇した人である。1960年代、全盛期の中国は国内の権力闘争とも言われた文化大革命のために67、69年の世界選手権を欠場した。
 1971年名古屋大会で復帰した中国。復帰しただけでなく、大会期間中にアメリカ選手との交流を通して、その後の米中国交締結に世界の政治を変えるきっかけとなった。それがいわゆる「ピンポン外交」だ。その舞台の主役は荘則棟氏だった。
 
 2003年、中国の北京を取材で訪れた。当時の世界チャンピオン、王励勤、王楠、蔡振華、各氏のインタビュー。そして中国国家チームを見学。しかし、この時のメインの仕事は「荘則棟のインタビュー」だった。
 新華大酒店というホテルの一室でそのインタビューは始まった。午前10時から始まり、8時間に及ぶロングインタビューは、まるで荘氏という俳優の舞台を見るようだった。卓球を始めた頃から、北京から追放され、山西省で指導するまでの波瀾万丈の話は強烈な物語だった。

 それから6年後の2009年。カリスマ指導者であり、中国卓球協会会長、国際卓球連盟会長を務めた徐寅生氏のインタビューも非常に引き込まれた。世界の卓球、中国の卓球を知り尽くした知的なリーダーの言葉は重かった。

 しかし、その二人に聞いてはならないタブーがあった。それは中国卓球界に吹き荒れた「文化大革命」という不条理な権力闘争での実態だった。
 卓球仲間を引き裂き、あるコーチは自殺まで追い込まれた。粛清の嵐だ。
 『ピンポン外交の陰にいたスパイ』(柏書房)は膨大な取材に基づき、その頃の中国卓球界や人間関係、そしてスポーツ大臣まで上り詰め、そこから四人組とともに追放される荘則棟氏の壮絶な人生の一端を描いている。

 二人のインタビュー、そしてその後に行った張燮林氏(元世界団体・ダブルスチャンピオン)のインタビューで、話が文化大革命のことに及ぶと、三者同様に口をつぐみ、避けるようにした意味がこの本を読んでわかった。
 本来政治と無関係な卓球というスポーツだが、中国における卓球は国球と呼ばれるほど、政治的なものだった。ゆえに、結果としてピンポン外交という国際政治の流れを変える出来事に発展していくのだ。
 1971年の名古屋。ピンポン球は世界を変えた。   (今野)