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 10月6日に掲出した水谷隼選手(木下グループ)のTリーグに関する提案は、「今さら、そこか」というものだった。
 この時期になって「Tリーグは団体戦ではなく個人戦にすべき。なぜなら未だにその内容が見えてこないから」(水谷)というものだった。
 この提案には賛否両論があるだろう。Tリーグが社団法人として立ち上がり、参加チームの条件提示等も説明会で行われた時期に、全日本チャンピオン、五輪メダリストが「来年の開催に懸念」を表明すると、より選手たちの不安が増幅される。

 しかし、彼の発言にはふたつの側面が見えてくる。
 ひとつは、前から言っているように選手へのTリーグに関する情報が絶対的に不足していること。ましてや、水谷選手のように卓球界を代表する顔でもある選手にとっても「Tリーグとはなんぞや」の状態なのだ。
 本当に来年Tプレミアが開幕するのであれば、「卓球界の顔」には直接説明し、協力を仰ぐべきだろう。

 もうひとつは、水谷選手が「団体戦より個人戦の方がベター」と言ったことの意味だ。日本の、というか世界のトッププロである水谷選手からしてみれば、プロ選手にとって良いのは直接賞金が稼げる個人トーナメントだという考えだ。これは当然のことだ。
 「団体戦のリーグ戦よりはゴルフのような個人トーナメントのほうが卓球のプロ化に合っている」という意見は以前から協会内にもあって、Tリーグの松下浩二代表理事は今までも「個人戦ではなく団体戦」という考えに固執し、「個人戦推進派」を説得してきた。

 「個人トーナメントでは単なる興行になってしまい、その地域に卓球が根付くとか、卓球界全体の活性化につながらない」というのが松下代表理事の主旨だった。その意味もわかる。ただ個人戦で巡業のように地方を回り、スポンサーを集めることは、ただお金が選手と関係者の中で回るだけのこと。プロ選手にとってはよいことだが、卓球界全体にとってのプラスは大きなピラミッド構想と比べれば大きくはない。
 強いてプラス面を挙げるとすれば、プロ選手が潤い、卓球のプロ選手を目指す人が増えることと、もしそういった個人トーナメントにテレビ局がつけば(団体のリーグ戦にはつかずに個人戦の方につくという前提)、それが卓球の普及につながる可能性があることだ。それに、運営するほうも個人トーナメントのほうが労力が小さくて済むだろう。

 もともと4月の新法人立ち上げの会見で、松下代表がこだわったのは、ピラミッド型のTリーグ組織で全国津々浦々に卓球クラブを作り、日本全体を活性化させていくことだった。そこには興行としての個人トーナメントではなく、団体戦にして多くの卓球ファンを取り込むという理想があったはずだ。
 その理想からすれば、水谷選手の提案は筋違いということになる。ところが、ここに来て、スケジュールが遅れ、本当にチーム戦が編成できるのかという不安が起き、なおかつ全体のピラミッド組織が見えてこない状況では、水谷選手の指摘も見当違いではなくなっている。

 松下代表理事には、早急に選手が納得できる説明をする必要があるし、4月のスタート地点に立ち戻り、全体のピラミッド構想を語るべきだろう。卓球ファンはスポンサーマネーありきのTプレミアの姿ではなく、将来に夢を託せるピラミッド組織を語ってほしいと思っている。現時点で、裾野を広げる施策を語れないとしても、夢は語れるはずだ。
 そしてトップ選手たちには、ただ受け身に回るのではなく、自ら行動して、水谷選手のようにTリーグに物申したり、松下氏に突っ込んだ質問を投げかける姿勢を求めたい。 (今野)


  • Tリーグの松下浩二代表理事 専務理事

  • 選手として堂々と意見を言う水谷選手(写真は17年1月の全日本選手権)