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 今この原稿をドイツの田舎町オクセンハウゼンで書いている。
 昨夜、ミュンヘンの空港についてスマホのWIFIをオンにしたら、多くの知り合いから「卓球レポート休刊」を伝えるメールが入ってきた。すぐに卓レポのサイトに飛んで、確認した。 
 本当は来週発表することだったらしいが、関係者を回るうちにSNSで一気に拡散されたらしい。

 正直、先生を失う気持ちだ。
 私は中学・高校と指導者らしい指導者と巡り会わずに、唯一の先生が「卓球レポート」だった。今の40代、50代以上の卓球愛好者からすれば、卓球のバイブルは「卓球レポート」だったはずだ。毎月20日に届くのを心待ちにして、小遣いが貯まればまとめてバックナンバーを買っていた。
 その思いや文字から得る卓球の情報の何たるかを卓球レポートから学び、それが小誌卓球王国の発刊につながったのは言うまでもない。

 卓球の雑誌編集を仕事として始めた時の先生は、卓球レポートの編集長だった藤井基男さんだったし、卓球レポートから何冊も本を出版された荻村伊智朗さんの著書もすりきれるほど読んだ。 

 卓球王国を発刊した直後には、当時タマスの相談役で、やはり卓球レポートの元編集長だった久保彰太郞さんに食事会を開いてもらい、「卓球レポートができなかった書店売りという夢を果たしてくれてありがとう。卓球界のために頑張ってください」と励まされた。

 取材の現場では、両誌のスタッフは仲が良く、何かあれば助け合う関係だったし、時にはタマスさんの卓球道場で卓球レポート対卓球王国の交流戦で「激しく」「熱く」戦い、その後の懇親会を楽しむ関係だった。本当に良い意味で切磋琢磨する仲間だった。

 中には「卓球レポートがなくなって、卓球王国だけになってうれしいでしょ」と言う人もいるが、それは全く的外れだ。
 卓球レポートは我々王国スタッフ、とりわけ私自身にとって、かつての先生であり、同志だったのだ。もちろん様々な状況分析と経営判断があって休刊という決断を下したと推測するが、60年以上続いたものを終わらせるのは苦渋の決断だっただろう。

 一方で、卓球レポート休刊は押し寄せる出版不況とも重なる。いわゆる若者の「紙離れ」の影響だ。お金を出して、月一回の紙の媒体ではなく、無料で動画や情報を収集できるインターネットへの押しとどめられない動きだ。
 それは小誌にとっても同じだ。同志を失い、悲しみに暮れるだけのことはできない。紙にとってのライバル、インターネットが立ちはだかっているのだから。しかも、卓球王国は紙と電子(ネット)の両方を抱えているのだから。

 速報性というスピード感や情報の量、そして動画で見えるという面がインターネットの最大の魅力であり、特性だ。
 紙の卓球王国の記事は速報性が薄くても、印象に残るはずだ。何ヶ月経っても、何年経っても記事や写真は記憶に残る。しかも、1冊を何人もの選手や指導者、そして親兄弟が読むという特性を持っている。
 卓球メーカーの商品の情報に関しても、ネットではレビューを含めてネットならではの情報量がある。紙メディアは印象に残るがゆえに、書く方も責任が強く発生し、その分、信頼度の高いものになっている。それが消費者(読者)の購買行動に向かわせることができる。ネットは情報が早い分、その情報はあっという間に目の前を過ぎていき、記憶に残らないものだ。
 
 そういう意味では、紙メディアと電子メディアは棲み分けもできるし、紙メディアならではの特性をこれからもできると信じている。
 卓球レポートのこの数十年間の功績に敬意を表し、その紙メディアの責務を卓球王国が受け継いでいこうと思う。 (今野)