女子個人戦の決勝 スッチvs.馮天薇のカードは、ほとんどの人が馮天薇の勝利を疑わなかっただろう。
馮天薇は世界ランキング11位であり、2010年世界選手権モスクワ大会で中国の丁寧、劉詩ウェンを破り、シンガポールの金メダルを決めた強豪だ。オリンピックでも北京、ロンドンと2大会続けてメダルを獲得している。
対するスッチの世界ランキングは57位。馮天薇から見れば格下の選手だろう。直近のワールドツアーでは15年ベルギーオープンで対戦しており、その時は馮天薇が4−0で勝利している。
試合も例にもれずに馮天薇のペースで進んでいった。
しかし、そこにT2ならではの特殊ルールがあれば過去の対戦経験は意味を持たない。
24分間の時間制限、ジュースなしの11点制、5点で決まるキルゲーム、非常に近い観客席、ワールドツアーとは違うプラボールなど、T2ルールが試合の行方を変えていく。
団体戦後半で無類の強さをみせるスッチは、とにかく「見られるのが好き」な選手だ。
会話が聞こえるほど近い観客席を味方につけ、会場をまるごと「スッチワールド」へ引き込んだ。
両者が緊張するキルゾーンでも強気のプレーを選択し、それが通れば勝ち、通らなければ負けというギャンブル制の強さがあり、観客の心拍数を上げていく。
もちろん通ったならば、大拍手の押せ押せモードが会場を包む。
もし11点制7ゲームで行っていたら馮天薇が勝っていたかもしれないが、今日のスッチは強かった。
優勝を決め、パーソン監督をはじめ、会場裏で練習をしていた団体戦のチームメイトとひとりひとりハグ。観客との写真撮影にも笑顔で対応し、スッチワールドは表彰式が終わっても会場を支配していた。
これがT2だ。と言わんばかりの試合だった。
10日の団体戦では早田がスッチと対戦予定だが、「スッチはチャンピオンなので、思い切りぶつかるだけです!」(早田)とコメント。
ノリノリのスッチは、団体戦ではどんなパフォーマンスを見せてくれるだろうか。
しかも試合は全試合のラスト。これはまた何かが起こるかもしれない。