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卓球王国ストーリ-

トップニュース卓球王国ストーリ-
 97年世界選手権マンチェスター大会の前の、日本代表合宿が宮崎で行われ、取材に赴いた。
 当時、男子監督は佐藤真二氏(現在日本リーグ専務理事)。実は今野編集長と佐藤氏は同じ「青卓会」という荻村伊智朗氏が主宰するクラブで汗を流した仲間(佐藤氏のほうが相当に強かったのは言うまでもない)で、彼は空港まで迎えに来てくれた。
 そして、運動公園内の小さな体育館で行われていた男女一緒の合宿の様子をひとしきり取材して、休憩時間になっていた。スタッフや選手たちは、卓球王国創刊号で今野が小山ちれ選手の試合ぶりを批判していたのを知っていた。
 まさにその時に、小山選手が50メートル先のほうから、我々がいるほうを見て、手招きしているではないか。「誰かを呼んでいるよ」とみんなで言いながら、スタッフではないらしい。誰かが「あれ、今野さんじゃないの?」と言った。
 まさかと思いながらも、自分で指さし「おれ?」と聞いたら、コクンとうなずく女王様。

 佐藤監督を含めスタッフは全員下を向いてクスクス笑っている。みんなの想像はひとつだった。「絶対、あの記事のことを怒られるんだね」
 今野は意を決して、女王様のほうに歩いていく。条件反射的に右手にはカメラが一台。武器になるだろうか……。
 女王様の目の前に行くと「ちょっと話があります」と、ぎごちない日本語で言われ、「あの部屋に行きましょう」と体育備品室を指さされた。鉄の扉を持つ個室だ。「変なことはされないだろうな」と一瞬思いながらスタッフのほうを振り向いたら、みんなは思いきっり笑っていた。冷たい連中だ。

 部屋に置かれていた体育用のマットの上に座らされた今野。次の女王様のひと言を待っていた。しばしの沈黙……。
「あの、卓球台を安く買いたいです」
「?」
「だから安く買えるでしょ?」
「?????」
「私、バタフライの卓球台ほしいです」
「あああっ……」
 言葉にならない。今野は卓球レポート、タマスの人と勘違いされたのだ。
「いや、私は卓球王国という雑誌の人間なので……もし必要ならタマスの人を紹介しますよ」
「わかりました。よろしくお願いします」

 ホッとした。正直。
 でも、女王様は卓球王国を読んでなかったことが判明。それも残念だ。
 鉄の扉を開けて、恨めしそうにスタッフのほうを見たら、一様に「意外と早く終わったな」という顔で笑っていた。
 「卓球台が欲しいと言われたよ。タマスの人と勘違いされた」と言うと、みんなイスから転げるくらいに笑ったのは言うまでもない。
  • 創刊号での全日本選手権の報道ページ

  • 女子チャンピオンのインタビューは創刊2号で掲載した