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世界卓球ブダペスト大会

深夜のブダペスト。痛恨の敗戦後に石川が見せた矜持。
「情けないなと思います。90%くらい勝っていた試合だった」


 時計の針は夜の11時20分を指していた。メダル候補と目されていた石川佳純がベスト8を決める4回戦で敗れた。
 彼女が選手のつとめとして、ミックスゾーンでテレビとペン記者の質問に答えていけば、時計の日付は24日から25日に変わっていくはずだ。

 私は石川佳純ほど純粋に卓球と向き合い、明るい光を放つ選手を知らない。
 世界選手権個人戦ブダペスト大会、4月24日の夜、 彼女は混合ダブルスとシングルスに出場した。吉村真晴と組んだ混合ダブルスでは、3大会連続のメダルを確定させ、その2時間後にシングルスの4回戦で香港の杜凱琹(ドゥ・ホイカン)に最終ゲーム、リードを奪いながら痛恨の逆転負けを喫した。

「情けないなと思います。90%くらい勝っていた試合だった。自分の力は出せたわけではないけれど、悪いなりに何とか粘って最後まで頑張った。でも、最後の詰めが甘かった」と彼女は絞り出すように言葉を発した。世界ランキングでは6位の石川と12位の杜。しかし、このくらいの差はトップ選手同士ではないに等しい。

 試合の出足から石川のプレーはしっくりこない。レシーブに迷いが出て、一気呵成に打ち抜いていく石川の卓球ではなかった。少しでも躊躇すれば、杜は強烈な両ハンドの連打で主導権を奪ってくる。混合ダブルスでメダルを決めてから、すぐの試合だったことが影響を与えたのかと問われると、「準備する時間が短いのは関係ない。みんなそうですから」と石川は語った。「バックハンドのミスが多かった。相手がゆっくりとしたタイミングで打ってきたのを焦って、打ち急いでしまった。レシーブがうまくいかなくて少し弱気な部分があったと思う。杜さんの手の内はわかっている。最後はミスが多かった。焦りと迷いがあった」(石川)。

 彼女は言い訳など用意していなかった。「うまくいかなかったのはどの部分なのか」と記者に問われると、数秒間の沈黙。そして、頭を抱え込みながらうずくまりそうになった。「自分でもわからないです。焦りかも、そして迷いも」と答えた。 この1年間、石川の戦いは自分との戦いだった。熾烈を極める五輪代表の選考レース、しかし、その先にあるのは今まで成し得ていない世界選手権と五輪のシングルスのメダルではなかったか。

 彼女の卓球は見るたびにアグレッシブになり、その打球点は明らかにボール1個、2個分は早くなっていた。この数cmの差は0.2秒から0.5秒の時間でボールが飛び交う現代卓球では大きな変革であり、アドバンテージになる。石川の飽くなき探究心、強くなることへの欲求が止められないのは手に取るようにわかった。だが、速い卓球、アグレッシブな卓球を追求すればするほど、焦りや迷いという心の揺れが生じた時に、その卓球はわずかな狂いを見せることが、このシングルスの敗戦で垣間見えた。

世界で最も美しいスイングであるがゆえの弱点がある

 石川佳純ほど、美しい身体の動きとボールの軌道を作る選手はいない。身体の左右のバランス、その無駄のないスイングは「世界で最も美しい卓球フォーム」を形成している。しかし、逆に対人競技の卓球ではそれが弱点になることもある。卓球はフォームの美しさを競う競技ではなく、相手のミスを誘う戦術的なスポーツなのだ。
 彼女の美しいフォームから放たれるボール軌道の美しさゆえに、相手はやりにくさを感じずに合わせやすくなる。

 新たに求められるのは、その美しさを壊すほどの「作戦としての意外性」という、一見矛盾するような高度なものだ。相手の逆を突くコース取りやモーション、相手を惑わす一撃……しかし、これらは彼女がジュニア時代に持っていたものだ。2009年の世界選手権で実質的な世界デビューを果たした石川が、その後、ストイックに自身の卓球を鍛えれば鍛えるほど、「より速くより強い卓球」を求めれば求めるほど、彼女の生真面目な性格ゆえに彼女の卓球は死角のない速い卓球の方向性に進んでいき、いつしか意外性の部分は消えていった。

 09年以降、石川は10年間、日本女子卓球の中核としてその屋台骨を支えてきた。その間、先輩である福原愛や平野早矢香とともに戦い、五輪んでメダルもつかんだ。そしてその二人が引退すると、彼女は後輩である伊藤美誠、平野美宇としのぎを削ってきた。
 彼女が中学生でいきなり全日本選手権の一般で3位に入り、日本のトップへ飛びだしてきた頃、「天真爛漫な天才少女」と卓球王国誌でも表現していた。そんな天才少女も大人になり、今や日本の顔として風格さえ漂う。そして、その肩には日本のエースとしての重圧がのしかかっていた。

 シングルスで敗れた瞬間、天をあおぎ、呆然とした表情でベンチに戻った石川佳純。ミックスゾーンで自分を責めるかのように「情けない」と言葉を発した石川。時間が経てば経つほど、「90%くらい勝っていた」自分を責め、「なぜ自分が負けるのか」という問いを自分へぶつけるのだろう。  しかし、石川のブダペストはまだ終わっていない。25日のブダペストの夜に吉村真晴との混合ダブルス準決勝が待っている。24日、朝10時から夜11時過ぎまでの長くタフなタイムスケジュールを記者に問われた時も、彼女はひと言も弱音を吐かなかった。「みんな一緒です。そういうタイムスケジュールで自分が救われたこともありますから」。日本の女王としての矜持は染みついたものだ。 パートナーの吉村は「自分のミスを石川さんがかばい、救ってくれた。彼女にボールを何とか回せば、決めてくれる」という絶対的な信頼感を寄せる。 勝った瞬間のあの可憐な笑顔と、試合中の鬼気迫る表情のギャップこそが「人間・石川佳純」を表す幅であり、魅力だ。彼女の、卓球を極め、勝利をつかもうとするひたむきな姿勢に心を打たれない人はいない。  石川佳純はまだブダペストの舞台にいる。その舞台から最高の笑顔を日本に届けるはずだ。(今野)
  • 世界一美しい石川のスイング

  • 「90%くらいで勝っていた」石川の敗戦

  • 吉村との混合ダブルスで期待がかかる。石川の笑顔が日本を勇気づけるはずだ

  • 吉村、石川の相手は昨日森薗、伊藤が敗れたフランチスカとゾルヤのペア