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世界卓球ブダペスト大会

 女子シングルス決勝の第6ゲーム、10−9。劉詩ウェンが陳夢に対して迎えた、2回目のマッチポイント。半分、祈るような気持ちでコートを見つめていた。ここで10−10に追いつかれ、陳夢に逆転を許して最終ゲームにもつれれば、劉詩ウェンの勝機は限りなく薄いと感じたからだ。15年蘇州大会の女子シングルス決勝で、丁寧をあと一歩まで追いつめながら、丁寧の負傷で流れが変わり、逆転を許した試合が思い起こされた。4年前の蘇州の表彰台で、劉詩ウェンはあふれ出す涙をぬぐおうともしなかった。

 陳夢もこれまで世界選手権では辛酸を舐めてきた選手だが、彼女は恐らく、21年のヒューストン大会でもチャンスが残されている。しかし、若手の王曼昱や孫穎莎の台頭で、世代交代の波にのまれつつある劉詩ウェンは、今大会が最後の世界選手権個人戦になる可能性が高い。このラストチャンスは、悲運の天才プレーヤーにつかんでもらいたかった。優勝を決めた最後の一本、フォアクロスに突き刺したカウンタードライブには、万感の思いがこもっていた。

 劉詩ウェンは優勝後の会見で、優勝した瞬間の心境について、「まるで夢のようで、何も考えられなかった」と語った。17年6月の中国オープンでのボイコット事件に加担した馬琳が担当コーチを外れ、本人曰く「精神的に落ち込み、もうあきらめそうになったこともあった」という。しかし、劉国梁が中国卓球協会の会長としてカムバックし、馬琳も中国女子チームのヘッドコーチとして現場に復帰した。「馬琳コーチと劉国梁会長が復帰し、私に機会を与えてくれ、教え導いてくれたことに感謝したいと思います」(劉詩ウェン)。

 ちなみに劉国梁会長の復帰がもたらしたものが、もうひとつある。準決勝の丁寧戦、そして決勝の陳夢戦といずれも第5ゲームを11−0で制した劉詩ウェン。これまで中国では、スコアが10−0になったところで片方の選手がサービスをミスしたり、レシーブをわざとネットミスして相手に1点を与えるという、暗黙の「マナー」があるとされていた。世界選手権の大舞台でこのマナーを破った劉詩ウェンには、丁寧戦後に中国の報道陣から質問が飛んだ。

 「今回の世界選手権の前、劉国梁会長から特にこの(10−0での)ケースについて話がありました。『試合自体には、必ず相手に1点を与えるというルールのようなものはない』と。私はすべてのポイントでベストを尽くすことが、相手に対するひとつの敬意だと感じています」。そう答えた劉詩ウェン。決勝後の会見でも同様の質問があったが、やはり「ベストプレーこそ最大の敬意」だと繰り返した。

 思い起こせば前回の17年世界選手権個人戦の期間中、ギャンブルでの借金問題が報道された中国女子の孔令輝監督が中国に呼び戻された。その後、劉国梁総監督の退任やそれに抗議する中国オープンでの選手・コーチのボイコット事件などが発生。中国卓球界は大揺れに揺れた。もちろん、それでも強いことに変わりはなかったのだが……。
 しかし劉国梁の中国卓球協会会長への就任で、その混乱は過去のものとなりつつある。ふたつの「11−0」が、卓球大国・中国の完全復活を告げたように思えてならない。(柳澤)
  • 決勝後の会見での劉詩ウェン

  • 決勝の第5ゲーム、11−0を示すスコアボード