2005年の発売から衰えぬ人気。
それの理由は
馬琳のネームバリューだけではない。

馬林カーボン

 次々と新製品が登場する卓球用具市場。特にラケットに関しては、毎年各社から多くの新製品が投入される一方で、ほぼ同数の商品が廃番となり、密かに姿を消していく。ラケットの商品サイクルは、ラバーのそれよりも短い傾向にあるのだ。

 そのような中、ヤサカ『馬林カーボン』は2005年の発売から不動の地位を築いている。一般的に選手モデルは、その選手が引退するとすぐに廃番になったり、あるいは売上げ低下によりしばらく後に廃番になるケースも多いが、このラケットは例外だ

 改めて『馬林カーボン』がロングセラーとなっている理由をまとめてみよう。

馬琳

成績だけでは語れない馬琳の人気

 やはり、馬琳の人気は絶大だ。世界選手権で3回準優勝、そして北京五輪で金メダルを獲得した、卓球史に残る名選手である。

 しかし馬琳という選手の魅力は、成績だけでは語れない。その魅力のひとつが、裏面打法にある。中国で開発され、発展を遂げたペンホルダーラケットの裏面打法は、劉国梁(96年五輪金メダリスト/前・中国男子総監督)が第一世代と言われる。プレーの軸はフォアハンド(またはバックショート)であり、それを補助する目的で裏面打法でのバックハンドが使用された。そのスタイルを継承、発展させ、より攻撃的な裏面バックハンドを確立させたのが、第二世代と言われる馬琳なのだ。その後、シェークのような自在な両ハンドプレーを見せた王皓が第三世代と呼ばれるが、王皓は中国でも例外的存在と言われ、馬琳の時点でペン両面スタイルは完成に近づいたと言ってもいい。

 裏面打法を高いレベルに引き上げた功労者である一方で、馬琳のプレーの軸足は「ペンドラ」ならではの強烈なフォアドライブにある。この点も、ペンホルダーのファンにとって大きな魅力だ。複雑なフェイクモーションを交えた強烈な変化サービスと、世界トップクラスのテクニカルな台上技術、そして台上のボールをフルスイングで持って行くエグいまでの3球目攻撃。裏面打法を駆使しながらも、「シェークの亜種」ではなく、ペンホルダーならではのダイナミックなプレーこそが、我々を惹きつけるのだ。

馬琳

ペン両面選手からの圧倒的支持

 『馬林カーボン』は発売当初から中国式ペンの人気が高く、シェーク(FLとSTグリップ)以上の売上げが続いている。

 ペンが売れているというのは、馬琳モデルだけに当然のこと。しかしこれほどまでにロングセラーになっているのは、ネームバリューだけでなく、性能に対する信頼感が市場で定着しているからだろう。

■5.7mmのスリムな板厚。

■平均85gという軽さ。

■面の広さと特殊素材がもたらす
スイートスポットの広さとパワーの両立。

 これらはすべて、ペン両面プレーにバッチリとマッチしている性能だ。また、薄いカーボンをインナーに配置した合板構成も、現在のトレンドに乗ったもの。ペン両面ユーザーにとっては選ぶ理由がズラリと並んでいるというわけだ。これらの性能が市場で認知されているからこそ、『馬林カーボン』人気は衰えないのだ。

シェークユーザーにも
波及する馬琳効果

 中国式ペンが売れている『馬林カーボン』だが、実は発売前にヤサカが予想していた以上に、シェークも売れているという。しかも馬琳の引退後も、シェークが売上げを落としていないというのは驚きだ。

 これは単純に、ペン、シェークを問わず、馬琳の人気が高いことが一因だろう。それに加え、絶妙な合板に対する高い評価が、シェークユーザーにも波及したことが考えられる。ボールのつかみと威力のバランスのとれたインナー・カーボン合板は、当然のことながら、シェークドライブ型にとっても魅力的なのだ。

ヤサカラケットの看板

 『馬林カーボン』の姉妹モデルとしては、よりソフトな打球感で球持ちの良い『馬林ソフトカーボン』、そして逆にややハードな打球感でスピード性能の高い『馬林ハードカーボン』がリリースされている。ユーザーは自分のプレーに合わせて3種類から選べぶことができる。

馬林シリーズ

 左から『馬林ソフトカーボン』(スウェーデン代表のM.カールソン使用)、『馬林カーボン』、『馬林ハードカーボン』だ。

 実はこれら『馬林カーボン』シリーズは、現在のヤサカラケットにとって基準となっているという。ヤサカでは、ラケットの新商品開発の際、特に特殊素材モデルに関しては、『馬林カーボン』を起点に合板開発を行っている。幅広い層に対応するバランスの取れた性能と、売上げ実績があるからこそだ。社内でも信頼が高いラケットなのである。

 卓球界で絶大な信頼を誇るスウェーデン製合板。また商品サイクルが長く、良い商品を長く売るというヤサカの姿勢に対する信頼感も、このラケットの人気を後押しする。

馬琳の魅力、そして信頼感。

 この2点こそが、『馬林カーボン』の人気の要因となるキーワードだ。移り変わりの激しい用具市場にあっても、容易に揺らがぬ信頼感が形作られており、しかも馬琳の人気が不変である以上、『馬林カーボン』はロングセラーであり続けるだろう。

<完>

文=高部大幹