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フォルティウスFT ver.D

新素材デュアルウェブが革新的ラケットを生み出した

ミズノは今、『フォルティウスFT』が絶好調だ。
7 枚合板特有の硬さと弾み。そして添芯に桧を使った独特の打球感が人気となっている。

そして2017 年6 月。
新たな『フォルティウスFT バージョンD』が発売された。
一体何が違うのか、そしてどんなパワーアップを遂げたのか。
ミズノの開発担当の高山幸洋さん、平野勝久さんに話を聞いた。

まずこのラケットの特徴を教えてください。

名前を冠していますから、もちろんベースになっているのは『フォルティウスFT』です。
板厚、重量などは『フォルティウスFT』そのままです。
『フォルティウスFT』の打球感や操作性を極力変えずに、弾みをアップさせたラケットが『バージョンD』なのです。

合板構成も同じですか?

アウター(上板のすぐ下)に特殊素材が入っています。それ以外の合板構成は同じですが、『バージョンD』は特殊素材に秘密があります。「デュアルウェブ」というポリエステルの繊維で、非常に薄くて軽い素材です。そのため、特殊素材が入りながらも板厚も重量も変わらないのです。この「デュアルウェブ」に行き着くまでに相当な時間を要しました。

フォルティウスFT/フォルティウスFTバーションD

見比べると木材が違うように感じますね。

同じ木材を使っていますが、「バージョンD」は染色、つまり色を染めています。見た目の違いを出したかったというのもあるし、何より特殊素材の「デュアルウェブ」が薄くて、白いので普通の白木に入れると見えないのです。「デュアルウェブ」を見せるという意味でも染色は必要でした。
デザインは大島選手とも相談して決めました。開発段階では有名なクッキーの断面にちなんで通称「オレオ」と呼んでいました(笑)。格好良くリニューアルできたと思います。

側面図/デュアルウェブ

これほど薄くて軽いデュアルウェブですが、どれくらい性能に影響を及ぼすのでしょうか?

一般のカーボンを使用したラケットはカーボンの種類にもよりますが、約2 ~7% 弾みが向上することがわかっています。非常に弾みが上がっているように感じますが、実は大きくても7% 程度なのです。デュアルウェブを使用することで約2% 弾みが向上します。
しかも、木材の打球感は損なわず、重量も板厚も変わっていません。

それはすごいですね。しかし、実際には薄くても特殊素材が入っているし、重量も変わっているのでは?

デュアルウェブは2 枚で0.05mm 程度。重量も1g あるかないかです。厳密に言えばわずかに厚くなってしまいますが、板厚表記は6.4mm から変わりません。

他にもデュアルウェブの特徴はありますか?

デュアルウェブは縦横の方向がある繊維なので、板の木目に繊維の方向を合わせることができます。つまり、縦目の上板には縦方向の繊維、その下の横目の添芯には横方向の繊維を合わせています。デュアルウェブは縦目と横目の2 層が合わさっているのです。
この工夫により、打球時に木材のしなる動きを邪魔しないので、木材特有のしなる打球感を損なわないのです。

DUAL WEBは縦と横の2層で裏と表がある

なぜそのようなラケットを目指そうと思ったのですか?

ミズノの契約である大島祐哉選手(木下グループ)の要望です。彼はもともと木材ラケットが好きで、『フォルティウスFT』を使用していました。しかし、国際大会に出場することが多くなり、木材ラケットでは下がった時の打ち合いで押されてしまうので、「もっと弾むラケットがほしい」という要望をいただきました。
大島選手の条件は「『フォルティウスFT』の打球感や操作性などをできるだけ変えずにパワーアップしたラケット」。弾みを上げるだけならば、合板構成を変えたり、板厚を上げたり、カーボンを入れることで解消できますが、打球感が変わってしまいます。そこにはかなり苦労しました。試打ラケットを作っては打ってもらう作業を繰り返し、少なくとも50 ~60本は試打してもらいました。苦労を重ねた末、デュアルウェブにたどり着いたのです。

DUAL WEBは縦と横の2層で裏と表がある
ミズノ 平野勝久さん

 上の図は打球時のラケットの振動を計測したものです。右端が普通のカーボンラケットですが、打ってからの振動が高周波数帯にあり、振動が長く残ります。これにより、カーボン特有の硬い打球感・打球音になります。
 振動が減衰する時間が短いほど手に振動が残りません。それがいわゆる木材特有の打球感になります。左端が「バージョンD」で、真ん中が「フォルティウスFT」です。振動の周波数帯がほぼ同じなので、2本の打球音・打球感はほとんど変わりません。

実際に世界卓球で大島選手は使っていたのですか?

使っていただきました。厳密に言えば、グリップが旧『フォルティウスFT』になっていますが、ブレードは同じものです。試作品の時から使っていたもので、本人は「ラケットは長く使って育てるもの」と語っています。そのため、新しいラケットに変えられなかったのです。8 月の国際大会から今のデザインの『バージョンD』に変更予定です。

いきなり世界卓球の銀メダル獲得ラケットになりましたね

そうです。ミズノの用具を使って大島選手が活躍してくれることは、本当にうれしいですね。おかげ様で発売直後から好調です。

新たなミズノの看板ラケットになりそうですね。
詳しく話していただき、ありがとうございました!