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中国リポート

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 前評判どおり、丁寧と李暁霞という中国勢同士の対戦となった、ロンドン五輪・卓球競技の女子シングルス決勝。李暁霞が4−1で丁寧を破って、中国女子5人目の五輪単金メダリストに輝いた。昨年のロッテルダム大会決勝では、丁寧の粘り強い攻守の前にイージーミスも出ていた李暁霞だが、今回の決勝でのプレーは完璧。丁寧のフォアサイドを切るシュートドライブのコースの厳しさ、打球点の早さは息を呑むほどで、同士討ちでありながらノータッチの山を築いた。

 そして今大会の女子シングルス決勝では、丁寧が思わず涙を見せる場面があった。すでに世界中で話題になっているが、サービスが主審からたびたびフォールトを取られ、さらに試合の遅延行為でレッドカードを提示されるなど、決勝1試合で4点を失ったのだ。
 まず丁寧は、第1ゲーム6−8、第2ゲーム5−8の場面で、「サービスのトスが斜めに上がっている」として、一発でフォールトを取られた。丁寧は第2ゲームには追いついてゲームポイントも奪ったが、結局この出足の2ゲームを落とす。さらに第3ゲームの開始前には、すでに台についていた李暁霞に対し、遅れて台に着こうとした丁寧にイエローカードが提示される(試合の遅延行為)。

 そして問題のシーンは、第4ゲーム、丁寧 2−6 李暁霞の場面。この試合で初めてバックのしゃがみ込みサービスを出した丁寧、サービスはネットを弾いて相手コートに入ったが、主審は「レット」のコールに続いて、トスが低かったとして「フォールト」のコール。
 丁寧、この3回目のフォールトでさすがに感情が抑えきれなくなった。あふれ出てきた涙を拭くためにタオルを取ると、そこに追い打ちをかけるように、「正規のタオリングの時間以外にタオルを使った」として、審判からレッドカードに相当する、2枚目のイエローカードが出る。スコアは2−6から2−8となり、このゲームの行方はほぼ決まってしまった。

 中国国内では、ネットで主審を務めたイタリア人の女性審判パオラ・ボンジェリさんへの批判が相次いだ。さらに「試合後に丁寧をなぐさめる気配もなかった」として李暁霞を批判する丁寧のファンが現れたり、ふたりの不仲を疑う報道すら流れた。ボンジェリさんから丁寧へ私的な謝罪がなされたという報道もあったが、丁寧はこれを否定している。その後の団体戦で中国女子は金メダルを獲得したことで、女子シングルス決勝での判定を巡る報道は収束しつつある。

 「どこの誰であっても、私はあの人(主審)を忘れることはできません。今回は私が参加した初めてのオリンピック、この一件は絶対に忘れないでしょう」(丁寧/出典『北青網』)
 女子決勝を戦った丁寧と李暁霞は手の内を知り尽くしたチームメイト同士で、サービスエースやレシーブでのイージーミスは非常に少ない。あくまで個人的な意見ではあるが、丁寧の3本のサービスフォールトは、試合の流れを大きく左右するような、重大なルール違反ではなかったように思う。一生に一度上がれるかどうかの五輪決勝の舞台、主役を務めるのはあくまで選手であるべきだった。

photo上:審判の判定に涙を浮かべる丁寧(上)、表彰台でも笑顔なし(下)
 男子シングルス決勝で張継科に1-4で敗れ、五輪3大会連続で銀メダルとなった王皓。中国リポートでも以前紹介したように、このふたりが決勝で対戦したら「(2大会とも銀メダルの)王皓に勝たせるのでは?」という中国の卓球ファンの懸念もあったが、杞憂に終わった。王皓得意の裏面ドライブ、裏面フリックは張継科の多彩なバックハンドに完璧にシャットアウトされ、フォアの打ち合いになっても、張継科が抜群のフットワークで王皓を制した。

 男子シングルス決勝の終了後、王皓が母親の劉志英さんに長いメールを送ったことを、『中国体育報』が伝えている。父親の王忠全さんはこう語っている。「息子からのメールは、私たちをなぐさめ、励ましてくれるものだった。本来なら私たちが息子をなぐさめるべきなのに。三回の五輪で三枚の銀メダル。息子は全力を尽くしたのだと私は思っている」(出典『中国体育報』)。
 男子団体決勝の韓国戦では、王皓の故郷である長春市の長春全民健身センターに、王皓の両親や母校である長春市体育学校の生徒などが100人ほど集まり、王皓を応援。劉国梁の母親である文玉香さんも同席した。王皓にとって劉国梁は、八一解放軍チームの先輩。家族ぐるみのつきあいがあるそうで、王皓の両親を励ますために河南省から駆けつけたのだという。王皓は決勝3番のダブルスに出場して、中国男子の優勝を決めた。パートナーはシングルス決勝で敗れた張継科だった。

 王皓は男子団体決勝後に行われたインタビューで、次のように語っている。
「ずいぶん年を取ってしまったね。ぼくにこんなことを言う人もいるかもしれない。馬琳や王励勤は北京五輪が終わってからも、次の五輪を目指して努力を続けただろうと。でもぼくは、考え方は人それぞれ違うと思う。少なくともぼくにとっては、今回のロンドン五輪が最後のオリンピックになるだろう。
 中国男子チームからは次々と人材が輩出されて、張継科や馬龍のような若い選手もいる。安心してチームを去ることができると感じているよ」

 ……まるで引退会見のようだが、王皓は最後に「すぐに引退することはできないだろう。チームの事情もあるだろうしね」と付け加えている。
 国家男子チームで王皓と馬琳を指導してきた呉敬平コーチも、今回のロンドン五輪を最後にコーチングスタッフから外れる。その呉コーチは、王皓の現役続行を求めるファンの声に対し、微博(中国版ツイッター)で「王皓は簡単に引退したりはしない」と述べている。来年、パリで行われる世界選手権個人戦。ベルシー・スポーツホールに果たして王皓の姿はあるのか。

photo:五輪3大会連続の銀メダル。王皓の胸に去来するものは……
photo:団体金メダルを決め、劉国梁監督とともに敬礼
 日本女子チームが、女子団体で史上初となる銀メダルを獲得したロンドン五輪。準決勝でシンガポールを一蹴した戦いぶりは素晴らしかった。中国リポートといえども、まずはこの偉業に盛大な拍手を送ります。恭喜恭喜!

 そして今大会の卓球競技でも、4種目すべてで金メダルを獲得した中国。男子シングルスでは、張継科が決勝で王皓を下し、初出場・初優勝を飾った。張継科は2011年5月の世界選手権優勝から、わずか15カ月ほどで「大満貫」を達成してしまった。08年北京五輪では馬琳や王励勤のトレーナー、そして09年世界選手権ではシングルス出場もかなわなかった選手が、10年世界団体選手権での活躍をきっかけに、鮮やかなサクセスストーリーを完結させた。

 これまで中国リポートでもたびたび登場してきた「大満貫」という言葉。オリンピック・世界選手権・ワールドカップの3つのタイトルを獲得することで、カードゲームのブリッジの用語である「グランドスラム」を、麻雀の用語で代用したもの。テニスで四大大会すべてを制することも、海外や日本ではグランドスラムだが、中国では大満貫と呼ばれている。
 これまで大満貫を達成しているのは、ワルドナー(スウェーデン)以外ではいずれも中国選手。トウ亜萍、劉国梁、孔令輝、王楠、張怡寧、そして今回の張継科。いずれも中国卓球界の「レジェンド」ばかりだが、張継科は『新京報』のインタビューに対し、次の目標は『もう一度大満貫を取ること』と言い切っている。偉大な先輩たちの中でも、「ダブル大満貫(3大大会で2回以上の優勝)」を達成しているのは張怡寧だけ。張継科は男子で初めてのダブル大満貫を狙うというのだ。まだまだこの男の辞書に満足の文字はない。

 15カ月で大満貫を達成したことも、本人は決して早いとは思っていないようで、「むしろごく正常だと思うよ。これはぼくの実力の現れだから、何も特別なことはないと思うけど」と答えている。ロンドン五輪の男子シングルスで最も苦戦した4回戦の後で、試合後に「良い練習になった」と言い放ったビッグマウスは、これからどんな名言・珍言を残すのか。

 ちなみに張継科に対しては、ロンドン五輪・閉会式で中国選手団の旗手を務めるのではないかという中国国内での報道もあり、張継科自身も「そのような大役を任されたら非常にうれしい」とコメントしていた。しかし、結局はヨット・女子レーザーラジアル級の徐莉佳が旗手を務めた。張継科は「テレビで観たって一緒だろう」と選手村の部屋で閉会式を観たそうだ。これまでの張継科のパフォーマンスの“実績”から言って、「アイツには安心して任せられない」というのが、中国選手団幹部の本音なのかもしれない(あくまで推測デス)。

photo上:バックブロックも抜群の安定感を見せた張継科
photo下:張継科、会場のエクセルでインタビューを受ける
 7月9~11日に四川省成都市の成飛体育館で行われた国家チームのエキシビションマッチ。ロンドン五輪の卓球競技会場「エクセル」がそのまま成都に引っ越してきたかと思うほど、競技環境の再現は完璧だ。

 女子シングルスでは、現世界女王で、郭炎とのエントリー変更で五輪団体・シングルスへの出場権を得た丁寧が、A組で優勝。決勝で宿命のライバル・劉詩ウェンを4-2(11-4、9-11、11-8、11-3、5-11、11-6)で破った。昨年11月のプロツアー・グランドファイナルでは、劉詩ウェンの緩急をつけた攻めにストレート負けを喫した丁寧だが、この試合では攻守に抜群の安定感を見せた。
 「五輪のようなビッグゲームを経験すると、選手の実力は30%くらいアップする。ライバル関係にある丁寧と劉詩ウェンも、丁寧が五輪を経験することで、両者の間にはっきりと明暗が分かれていくかもしれない」。88年ソウル五輪・男子ダブルスで金メダルを獲得した偉関晴光さんの言葉だ。果たして劉詩ウェンの逆襲はあるのか

 「五輪さながらの雰囲気の中で集合訓練を行うことで、普段の練習や練習試合でも、五輪をイメージしながらプレーできた」と試合後に語った丁寧。ロンドンにはスペアラケット5本、ラバー30枚を持ち込み、「マイ枕」まで持参。五輪本番への備えは完璧とも思えるが、このエキシビションマッチのA組初戦でカットの胡麗梅に1ゲームを落としている。かつて丁寧の弱点と言われたカット打ち。近年では完全に克服されたように見えるが、CCTVで卓球の解説を務める楊影(97年世界女子複優勝)は「丁寧は対カットが唯一の不安」と指摘する。

 女子シングルスB組で優勝したのは李暁霞。決勝で楊揚(07年世界ジュニア優勝)を4-1で下している。ただ、集合訓練中に古傷である足首のケガが再発し、エキシビションマッチの終了後は、出発まで軽めの調整で済ませている。「ロンドン五輪に向けて、とても良い準備ができている。十分な準備期間があったし、あとは自分の実力を示す機会を待つだけ」(李暁霞)。
 李暁霞の最大の不安要素は「慢熱(スロースターター)」だろう。勢いがつけば、その豪打は丁寧に勝るとも劣らないものがあるが、うまくエンジンに点火できるかどうかが課題。中国女子チームの施之皓監督も、「出足の2試合について、より慎重に、細かく準備をしておく必要がある。特に心理面の準備は重要だ」と語っている。

 3チームの総当たりリーグ戦で行われた女子団体は、丁寧・李暁霞・郭躍の「奥運主力隊」が力の差を見せつけて優勝。現在の国家女子チームは、攻撃型の中堅選手の層がやや薄くなっているようだ。
 いよいよロンドン五輪の開幕は目の前。シングルス・団体戦のドローが今日25日の現地時間14時(日本時間22時)から行われるので、その結果に注目しよう。

Photo:中国女子・五輪代表の3選手、丁寧(上)、李暁霞(中)、郭躍(下)
 皆様、大変ご無沙汰を致しました。すでに1カ月あまりに及ぶ集合訓練を終え、大会前の最終調整を行うイギリス・リーズへ到着している国家男女チーム。集合訓練の締めくくりとして行われた、男女チームの「熱身賽(エキシビションマッチ)」の結果をお伝えします。

 7月9~11日に四川省成都市で行われたこのエキシビションマッチ。卓球台からフロアマット、使用球から照明の明るさに至るまで、すべてロンドン五輪本番に合わせる徹底ぶり。エキシビションマッチの時だけでなく、男女チームとも集合訓練の段階から、五輪本番と全く同じ環境で訓練を積んでいる。卓球人には少々違和感のある、スカイブルーのフロアマットにも、すでに対応済みというわけ。前半の2日間でシングルス、最終日に団体を行うタイムテーブルも五輪と同様だ。
 シングルスは男女ともA組とB組のふたつのグループに分け、ふたりの優勝者が誕生した。主な結果は以下のとおり。

★★★ “国酒茅台杯” 中国卓球チーム五輪エキシビションマッチ ★★★

〈男子シングルス〉
[A組]
●1回戦

張継科 4-2 劉イ
閻安 4-1 馬琳
馬龍 4-1 尚坤
●準決勝
張継科 4-2 徐晨皓
馬龍 3、9、5、-8、5 閻安
●決勝 馬龍 9、-10、10、-8、-9、9、9 張継科

[B組]
●1回戦

王皓 4-1 馬特
●準決勝
王励勤 -5、8、9、-5、7、10 王皓
●決勝 許シン 4-1 王励勤

<男子団体>
●準決勝

〈奥運主力隊 3-1 国家四隊〉
※国家四隊の方博/閻安ペアが3-1で張継科/馬龍ペアに勝利
●決勝
〈奥運主力隊 3-0 国家二隊〉

○馬龍 -9、9、-8、7、4 許シン
○王皓 7、-9、5、9 馬琳
○王皓/張継科 8、8、-5、8 王励勤/許シン

 …詳細な記録がなく、なんとも中途半端な記録でスミマセン。
 まず男子シングルスでは、A組の決勝で馬龍と張継科のライバル対決が実現。全くスコアが離れないシーソーゲームとなり、張継科が最終ゲーム2-5から5点連取で7-5と逆転したが、最後の最後でプレーが消極的になった。9-8から馬龍に3点連取を許し、惜敗。最後はフォア前へのサービスに対するレシーブが浮き、馬龍に豪快な3球目シュートドライブで打ち抜かれた。
 「五輪でのプレッシャーは誰にでもあるものだし、心身のバランスを保つことが最も大事。気持ちを静め、雑念を払って試合に向かうだけだよ」と試合後に語った張継科だが、初出場のロッテルダム大会で見せた思い切りの良いプレーが、果たしてロンドンで見せられるのか。五輪の前年に行われた世界選手権の優勝者が、翌年の五輪を制したケースは、男子ではまだない。

 一方、男子シングルスB組で周囲を心配させたのが王皓。近年は圧倒的に分の良かった王励勤に敗れた。女子シングルスでは丁寧と李暁霞が、A・B組でそれぞれ優勝しているため、ロンドン五輪のシングルス代表でタイトルを逃したのは王皓だけ。コートサイドから鋭い視線で試合を見つめた劉国梁監督は「王皓は技術面では問題はないが、大力(王励勤)の状態が素晴らしかった。プレッシャーに打ち勝つメンタルの強さが、まだ王皓には足りない」と述べている。プレーヤーとしては下り坂に差し掛かりつつある王皓、3回目の出場となるロンドン五輪は、まさにラストチャンスだ。

 小さいニュースとしては、五輪2連覇への道が絶たれた馬琳が、今回の集合訓練で82kgから72kgへ、10kgの減量に成功したとのこと。食事を果物メインにした「フルーツダイエット」だそうだが、これはセカンド・ライフのための布石か? 体が軽くなりすぎたせいか、肝心のプレーはまったく冴えがなかった。

Photo上・中:張継科(上)、やはり馬龍(中)は天敵か
Photo下:馬琳、ダイエットは少々遅すぎた…?
 国家チームの選手たちが一番好きなスポーツは何か。一番はおそらく卓球……のはずだが、二番目に来るのは間違いなくサッカーだ。人民解放軍チームの師弟コンビ、王涛と王皓は英プレミアリーグの人気クラブであるマンチェスター・ユナイテッドの大ファン。張継科はポルトガルのエース、クリスチアーノ・ロナウドのファンだという。ふたりともプライドが高くて筋肉自慢(失礼)、何となくうなずけるものがある。

 ヨーロッパのサッカー選手にも、中国国内で微博(マイクロブログ)のアカウントを持っている選手もいる。そのひとりがスペインのジェラール・ピケ。193cmの長身でスペインの守備陣を支えるピケが、チームメイトのセスク・ファブレガスとの卓球動画をアップし、中国でも話題を呼んでいる。卓球選手顔負け、とは言い難いが、ピケのフォアドライブの安定感はなかなかのものだ。

 現在、ヨーロッパではサッカーの欧州選手権「UEFA EURO2012」が佳境を迎えている。27日にポルトガルとの準決勝を控えるスペインは、試合が行われるウクライナのドネツィクで調整中で、動画は練習の合間に撮影されたようだ。ピケは子どもの頃から卓球が大好きだったそうで、「騰訊体育」の取材に対して次のようにコメントしている。「卓球はエキサイティングだし、知力と反射を試されるスポーツ。ぼくはサッカー選手になったけど、卓球をやっていたことがサッカーにも非常に役立っているし、卓球好きなサッカー選手は多いんだ」。

 国家男子チームの劉国梁監督も、早速このピケの動画をチェック。微博で「ピケは打球センスが良いし、セスクは打球にスピードがある。ふたりが試合をやったら、どちらのツッツキがより切れているかが、試合のカギになるな」といたってマジメなコメント。「使っているラケットと台が良くないな。卓球の普及のためにも、スペインサッカーチームに紅双喜の五輪公式卓球台を送ることを考えてもいいね」(劉国梁)。

 ピケも「劉国梁、ありがとう。問題があるのは卓球台じゃないと思う…(笑)。いつの日か、あなたの指導を受けられる日が来るといいな。そうなったら最高だね」とコメントを返している。長身で男前のピケが卓球を選んでくれなかったのは残念だが、彼が超一流のサッカー選手になる過程で、卓球が果たした役割は小さくない。「サッカー選手向けの卓球プログラム」「ボクシング選手向けの卓球プログラム」などを作り、他のスポーツ選手の強化に役立てれば、卓球というスポーツのステータスを違う角度から高めていけるのではないだろうか。

↓ピケとセスクの卓球動画はこちら(youtube)
 http://www.youtube.com/watch?v=PmCtsy_Mq1U

photo:劉国梁の微博は、驚異のフォロワー600万人超え(!)
 シンガポール女子卓球チームのエースである馮天薇が、ロンドン五輪・シンガポール代表選手団の旗手を務めることになった。08年北京五輪では、同じく女子卓球チームのリ・ジャウェイが旗手を務めており、2大会連続で女子卓球チームから旗手が選出。名実ともにシンガポール・スポーツ界の顔であることを印象づけるものだ。

 その国を代表するスポーツ選手だという「認定証」とも言える、五輪選手団での旗手。前回の北京五輪では日本の福原愛をはじめ、リ・ジャウェイ(シンガポール)、プリシラ・トミー(バヌアツ)、ボセ・カッフォ(ナイジェリア)、ゼイナ・シャバン(ヨルダン)の5人が旗手を務めた(いずれも女子選手)。

 北京五輪に参加した国・協会の数は204で、競技数は28。卓球選手の5人という数字はやや少ないようにも思えるが、たとえばテニス選手で旗手を務めたのは2人だけだった。陸上競技のように様々な種目が含まれている競技もあり、5人は平均的な数字かもしれない。ちなみに04年アテネ五輪で旗手を務めた卓球選手は、ジャン-ミッシェル・セイブ(ベルギー)のひとりだけで、00年シドニー五輪はゾラン・プリモラッツ(クロアチア)と蒋澎龍(チャイニーズタイペイ)のふたりだった。そして意外にも、中国からはまだ卓球選手の五輪旗手は現れていない。北京五輪では張怡寧が選手宣誓の大役を担ったが、五輪への参加が84年ロサンゼルス五輪まで遅れたことも影響している。

 ここしばらくは国際大会でも思うような成績が残せず、一時2位まで上げた世界ランキングも10位(12年6月)まで下降している馮天薇。旗手の大役を発奮の材料にして、再び中国と熱戦を展開してもらいたいところだ。

Photo上:7月27日の開会式で旗手を務める馮天薇
Photo下:美人旗手として話題を集めたゼイナ・シャバン(ヨルダン)。昨年、ヨルダン王室のラシド王子と結婚
(写真は上から12年世界団体選手権、08年北京五輪)
 5月29日~6月2日に中国・内蒙古自治区のフフハト(呼和浩特)体育館で行われた「2012中国卓球クラブ甲Aリーグ」の第1ステージ。女子のメンバーの顔ぶれを見ていると、実に見どころが多い。
 ジャパンオープン女子シングルス優勝のション・イェンフェイ(沈燕飛/スペイン)、ロンドン五輪韓国女子代表の石賀浄、タイペイの強打者・黄怡樺といった大物選手がいるかと思えば、日本リーグの現役プレーヤーである肖萌(アスモ)、彭雪(サンリツ)、高瑜瑤(十六銀行)もいる。戦型を見てみても、圧倒的に多いのはシェークドライブ型だが、右ペン両面裏ソフトの張薔、右ペン表ソフト速攻の王大琴なども頑張っている。

 第1ステージでは、日本からはMIKIHOUSEチーム(酒井春香・松本優希・成本綾海)と、谷岡あゆか(JOCエリートアカデミー/帝京)が出場。その戦績は以下のとおり。

MIKIHOUSE ……25チーム中25位
酒井春香 ……シングルス2勝5敗
成本綾海 ……シングルス3勝5敗
松本優希 ……シングルス0勝9敗
※酒井/松本ペア2勝2敗、酒井/成本ペア1勝3敗


・主な対戦成績
酒井 7、-4、7、8 袁雪チャオ(2009全中国ジュニア団体優勝)
酒井 -6、-9、-4 劉高陽(2011アジアジュニア優勝)
成本 6、8、-8、7 呉ジエ(2009U-17挑戦賽出場)
成本 6、4、-9、-6、4 史尖(元国家2軍チーム)
松本 -11、-7、-6 楊艶梅(2011ジュニアサーキット成都大会ベスト8)
松本 -6、3、-8、-8 江越(国家2軍リザーブ(集合訓練)チーム)

谷岡あゆか(江蘇中超電䌫) ……シングルス4勝4敗
・主な対戦成績
谷岡 7、-6、12、7 范思チィ(2011アジアジュニア団体優勝)
谷岡 -9、-10、-8 姚俊羽(2010ジュニアサーキット成都大会3位)

 MIKIHOUSEチームは予選リーグで2-2ラストまでもつれる試合が2試合あったものの、健闘実らず25チーム中25位(結果は参考記録扱い)。左シェーク異質速攻で王子サービスの使い手である成本が3勝を挙げ、敗れた試合も惜しい内容が多い。「男性化」する中国の女子選手にはいないプレースタイルの強みか。
 全日本ジュニア王者の谷岡はシングルス4勝。トップで3勝を挙げるなど、主に前半で活躍したが、予選リーグの濮陽晨光実験中学戦ではラストでハン・ヘソン(北朝鮮/2010年世界団体代表)に敗れている。

 その他の外国選手に目をやると、ション・イェンフェイは2勝2敗と意外にも低調な成績。ションのチームメイトで、昨シーズンまで日本リーグの日本生命に所属した李佳が7勝1敗と活躍した。石賀浄は6勝3敗で、超級リーグ復帰を目指すチームの優勝(優勝は2チーム)に貢献。甲Aの常連である左シェークドライブ型のキム・ジョン(北朝鮮)は9勝3敗と大暴れ。08年世界団体選手権で王楠(中国)を破って以来、目立った成績を残していないが、その実力は未だ健在だ。

Photo上:シングルス3勝を挙げた、全日本ジュニアベスト8の成本綾海
Photo中:谷岡は帰国後、ジャパンオープンでリュウ・ジャを撃破
Photo下:甲Aリーグの常連であるキム・ジョン
(写真は上から11年度全日本、12年荻村杯、12年世界団体選手権より)
 少し前の話になってしまったが、5月29日~6月2日に行われた「2012中国卓球クラブ甲Aリーグ・第1ステージ」の結果をお伝えしよう。甲Aリーグは超級リーグのひとつ下のリーグで、男女とも全24チームで構成。甲B・甲C・甲Dリーグは全32チーム、乙Aリーグは全64チームで構成される。一番下の乙Bリーグはチーム数は流動的だ。
 近年、甲A以下のリーグには日本、韓国、北朝鮮、台湾などから多くの若手選手が登録。甲Bリーグの女子などは、登録された156名の選手中28名が外国選手と、まるで「アジア教育リーグ」の様相を呈している。日本からは甲A~乙Aまでの各リーグに男子3名・女子29名(!)が登録されており、中国以外では最も登録選手数が多い。スペインにイタリア、タイにニュージーランドなど世界14カ国から選手が集い、甲A女子のMIKIHOUSE(日本)、甲B女子のPOSCO ENERGY(韓国)など、外国選手のみで構成されたチームもある。

 ……前置きが長くなりましたが、まずは甲A男子の日本人選手の結果から。
 日本選手は吉田海偉(個人)、村松雄斗(JOCエリートアカデミー/帝京)、吉田雅己(青森山田高)の3名が登録し、吉田海偉と村松雄斗が出場した。結果は以下のとおり。

★吉田海偉(雲南電網) ……シングルス12勝2敗
・主な対戦結果
吉田 -9、10、9、4 村松
吉田 6、13、8 丁祥恩(韓国/天津恒景集団)
吉田 3、7、10 ジャン・ソンマン(北朝鮮/湖南広電金鷹)

★村松雄斗(濮陽晨光実験中学) ……シングルス10勝1敗
・主な対戦結果
村松 -5、9、4、4 ジャン・ソンマン(北朝鮮/湖南広電金鷹)
村松 5、8、7 林高遠(広州双魚)
村松 7、9、4 孔令軒(山東魯能・緑)

 吉田は名前がまぎらわしい山東魯能のホープ・孔令軒と、元国家1軍チームの劉吉康に敗れたものの、シングルス12勝を挙げてチームのベスト8進出(7位)に貢献した。そして、15歳の村松の10勝1敗という成績はセンセーショナル。吉田との日本人対決以外は全勝を守り、ジャン・ソンマンとのカット対決を制したことは驚きだ。昨年の世界ジュニアでは0-4で敗れた林高遠にも、ストレートで完勝した。今大会では、同じカット+攻撃型の劉イ(火×4)が13勝1敗、馬特(2011年全中国ジュニア優勝)が8勝1敗と活躍しており、ジャン・ソンマンも日本人選手2人に敗れたとはいえ、8勝を挙げている。
 パワーが発展途上の若手が多い甲Aリーグは、カット主戦型が勝ちやすいと言えるかもしれない。それでも、村松の将来への期待はふくらむ。

 その他の注目選手では、先日のジャパンオープンでボル(ドイツ)を破った鄭栄植(韓国)は、単複とも6勝1敗の好成績。同じ韓国勢では、韓国オープンで馬龍(中国)に勝った李尚洙が6勝5敗、07年世界ジュニア優勝の丁祥恩が5勝6敗。
 中国の世界ジュニア代表組では、11年世界ジュニア2位の林高遠は9勝4敗と及第点だが、「王皓2世」こと呉家驥は3勝5敗と低迷。もうひとりのペンドラ・鄭培峰も、5勝4敗と今ひとつの成績に終わっている。

photo上:ブツ切りカットに加え、両ハンドの攻撃も非凡な村松雄斗
photo中:甲Aでさすがの貫禄を見せた吉田海偉
photo下:13勝をマークしたカットの劉イ
(写真は上から12年荻村杯、11年度全日本選手権、11年荻村杯)
 男子チームが福建省厦門市、女子チームが四川省成都市で40日あまりの集合訓練に入った国家卓球チーム。いよいよロンドン五輪への最終調整に入っている。

 この集合訓練に際し、選手より先に訓練基地へ大量に届けられたものがある。それは「肉」だ。大部分は豚肉と牛肉、さらに羊肉や鶏肉。男子チームは250キロ、女子チームは400キロの肉や肉製品を空輸している。もちろんこれは第一陣で、男子チームの肉250kgでは10日持つかどうか。肉製品や野菜などの食材は、現地では一切調達せず、すべて北京から空輸される。国家体育総局のアンチ・ドーピングセンターで、禁止薬物や毒素などが含まれていないか、厳格な検査が行われてから、晴れて訓練基地へ送り出されるのだという。

 国家チームが食材の管理に細心の注意を払うのは、主に豚肉に使用される「痩肉精(クレンブテロール)」の問題があるからだ。健康志向の高まりによって、脂身の多い肉よりも赤身肉のほうが高値を呼ぶ中国では、豚肉の赤身を増やす効果があるクレンブテロールの使用が常習化。各地で集団中毒を引き起こし、社会問題となっている。
 そして、スポーツ選手にとって何より怖いのは、このクレンブテロールがIOC(国際オリンピック委員会)の指定薬物であり、検出されるとドーピング違反になってしまうこと。オフチャロフ(ドイツ)が中国オープンの際、地元のホテルで豚肉を食べ、ドーピング騒動に巻き込まれたことは記憶に新しい。2年間の出場停止処分を辛くもまぬがれ、オフチャロフは「二度と中国で豚肉は食べない」と語った。

 国産食材への不信感がピークに達していると言われる中国。女子チームが集合訓練を行う四川省成都市は、中国でも有数の食の都だが、選手たちは外出しての食事は厳禁なのだという。先日行われた中国オープンに、ヨーロッパのトップ選手の参加が少なかったのも、食事への不信感があったのだろうか。

 時代は違えど、今回の「食材空輸」の逸話は、1961年北京大会での集合訓練を想起させる。中国全土が大飢饉に襲われ、都市部でも人々が街路樹の葉を食べて飢えをしのぐ中、荘則棟や邱鐘恵ら国家チームの選手たちには栄養豊富な食事と、恵まれた住環境が与えられていた。現在では世界一の食糧生産量を誇るまでになった中国だが、代表選手たちの食料を地元で調達できないというのは、なんとも残念な気がする。

photo:09年全中国運動会で出たお弁当、串焼きの串の部分になぜか「ねぎま」の文字が…。なにやら底深い闇を覗いたような気がシマシタ