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中国リポート

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  北京五輪・卓球競技の女子シングルス3回戦。日本女子のエース福原愛は、ドイツのベテラン・シャールとの対戦が予想されていたが、そのシャールを4-2で破ったフー・メレク(トルコ)が勝ち上がってきた。このフーとはどういう選手なのか。筆者も実際にプレーを見たことはないが、現時点で判明している情報を速報でお伝えしたい。

 フー・メレクは中国名:侯美玲(ホウ・メイリン)。現在の世界ランキングは80位、トルコから卓球の五輪代表となった初めての女子選手だ。年齢は中国超級リーグのホームページでは1990年1月27日生まれ、ITTFの北京五輪ページのバイオグラフィーでは1989年1月27日生まれ、また別の中国のホームページでは現在21歳とも…。年齢不詳だが、福原とは同い年くらいだろう。
 戦型は右シェークフォア裏ソフト・バック表ソフト速攻型で、遼寧省出身の選手。顔立ちもいかにも(中国の)東北部あたりの女の子という感じだ。昨年の超級リーグでは出場機会こそなかったが、遼寧鞍鋼の4番手として登録されている。福原が参戦した2005年のシーズンにはチームメイトではなかったが、福原はずっと遼寧省チームで練習を積んでいるだけに、お互い手のうちはよく知っているはずだ。

 フーは4月の五輪ヨーロッパ大陸予選では無敗で代表の座を獲得、カット主戦型のガニナ(ロシア)を4-1、シェーク速攻型のパスカウスキーン(リトアニア)を4-0で圧倒しており、かなりの実力の持ち主。ただし、福原は今年5月のITTFプロツアー・フォルクスワーゲンオープン韓国大会でフーと対戦し、4-0のストレートで勝利している。バック表の速攻型に対して、福原はバック対バックの打ち合いになってしまう傾向があるが、勝負所ではしっかりフォアを使って攻めたい。

 現在トルコ卓球チームを率いるのは、もともと陜西(せんせい)省チームのコーチで、1993年にトルコに渡った姜超監督。トルコ代表というと、長く世界の中堅で活躍したグルハン・ヤルディスという選手を思い出すが、現在はこのフー・メレクや男子のセム・ツォン(鄭長弓/03年世界ジュニア3位)、04年ヨーロッパユース選手権カデット優勝のジャン・パンフェイ(姜鵬飛)など、中国系選手が目立って増えている。ジャン・パンフェイは姜超監督の息子さんだ。

 福原愛 vs. フーの一戦は日本時間16:00にスタート。福原、勝利すれば4回戦で世界女王・張怡寧との対戦となる。


Photo上:ちょっと太めのフー・メレク選手。
※写真提供:ITTF
Photo中:05年全中国運動会ではダブルスでベスト8。右はペアを組んだ文佳
Photo下:同じく全中国運動会のダブルス。奇しくも福原愛の仮想選手・王シュアン(王+旋/手前右)のペアと対戦していた
 8月18日、中国男子チームは決勝でドイツを3-0で下し、五輪初開催となった団体戦でオールストレートの完全優勝を果たした。開会式の8月8日と同様、中国人にとって縁起の良い数字である「8」が並ぶこの日は、劉国梁監督にとっても二つの喜びが同時に訪れた一日になった。
 「今日は特別な日になりました。私たちのチームが優勝したこと、そして同時に、私たち夫婦の結婚2周年の記念日でもあるからです。2年前、蔡振華さんに挙式の日取りを決めてもらいました。その時はまだ、この日に北京五輪の男子団体決勝が行われるとは考えもしなかった。だから今日という日を、私は一生忘れないでしょう」。これは劉国梁監督の決勝戦後のインタビュー。彼は2006年の8月18日、北京で盛大な結婚式を挙げたのだ。中国では結婚記念日の「粋なプレゼント」だと話題になっている。

 劉国梁監督夫人である王瑾さんは、遼寧省出身の卓球選手で、遼寧省チーム時代には王楠とダブルスを組んでいた。戦型は右ペン異質攻守型、日本リーグの松下電工彦根でプレーしたこともあるので、ご記憶の方もいるかもしれない。帰国後、上海交通大学で経済学を学び、現在は北京で父親の王吉新氏が設立した「北京華夏国球体育用品有限公司」の董事長を務める。劉国梁とは国家ジュニアチーム時代から交際を続け、なんと14年間の交際を経てゴールインしている。

  なんとも幸福な結婚記念日を迎えた劉国梁。その一方で、北京五輪は国家を挙げた一大事業だけに、「北京五輪が成功するまでは」と結婚や挙式を延ばしている人たちもいる。北京五輪を最後に引退を表明している王楠は、五輪終了後、すでに入籍している事業家の郭斌さんと盛大に結婚式を挙げる予定。どちらもかなりの「やり手」だけに、巨額を投じたド派手な式になるかもしれない。国家女子チームコーチの孔令輝も、交際している女優の馬蘇さんといよいよ結婚、秒読み段階だ。

Photo上:劉国梁、少し痩せたように見えるのは髪型のせいか?
Photo下:モノクロでスミマセン、劉国梁&王瑾さんのツーショット ※『Pingpang世界』提供
 8月13日、ついに北京五輪・卓球競技がスタートした。中国は男子チームがギリシャに3-0、女子チームがクロアチアに3-0。失ったゲームはあるものの、まずは順調なスタートを切った。
 開会式後、北京大学体育館での練習以外は、表立った動きのない国家チーム。8月11日には、バドミントンの試合を観戦するために北京工業大学体育館に姿を見せた。アテネ五輪ダブルス金メダリストの楊維/張潔ブンが日本の末綱/前田ペアに敗れた波乱の一戦も観戦しており、改めて気を引き締めたに違いない。

 8月11日、シングルスのドロー抽選会が行われ、男子シングルス第1シードの王皓は、順当なら4回戦(ベスト8決定戦)で韓陽(日本)、そして準々決勝で柳承敏(韓国)と対戦する組み合わせとなった。アテネ五輪男子シングルス決勝の再現、多くのマスコミが注目する「王柳之戦」。実現すれば多くのマスコミの注目を集めそうだが、国家チームの黄ピャオマネージャーは「アテネ五輪以降、ふたりはもう十何回も対戦しているし、私たちも柳承敏だけを警戒すれば良いわけではない。すべての対戦相手に注意を払わねばならない。アテネ五輪の時だって、柳承敏の優勝を予想した人がいただろうか?」とコメントしている。

 一方の女子は、シングルスの16シードすべてをアジア系選手が占めた。「純正」ヨーロッパ選手が16シードにひとりも入れなかったのは五輪史上初。04年アテネ五輪ではボロス(クロアチア)、シュテフ(ルーマニア)、Vi.パブロビッチ(ベラルーシ)の3人がシードに入っていた。
 五輪で2大会ぶりの優勝を目指す王楠は第3シード。予想される対戦相手は4回戦で朴美英(韓国)、準々決勝で帖雅娜(中国香港)。王楠はカット主戦型に強く、前陣攻守型の帖雅娜にも圧倒的に分が良い。初戦でつまづかなければ、準決勝まで勝ち上がる可能性は高そうだ。もし団体とシングルスで優勝し、5個目の金メダルを獲得すれば、トウ亜萍の4個を抜いて中国卓球選手の最多記録になる。

 ちなみに今大会の中国五輪代表選手団639人には、卓球の王楠以外にも王楠がふたりいる。「楠」というのはどちらかというと女性の名前に多く使われるイメージがあるが、残るふたりはいずれも男性。ひとりは男子野球、もうひとりは男子射撃の選手。男子野球の王楠は身長190cmを超える長身の左腕投手で、女王・王楠とは比較にならないものの、結構有名人だ。

Photo:三人の王楠の中で一番有名な王楠
 今日8月4日まで、五輪会場となる北京大学体育館で調整訓練を行っている国家男女卓球チーム。少し前のニュースになるが、7月28・29日に江蘇省・無錫市の無錫体育センターで最後の公開部内対抗戦を行った。まず28日の男子対抗戦の結果からお伝えしよう。
 今回の試合方式は少し変わっている。王皓・馬琳・王励勤の五輪代表チームの他に、馬龍・陳杞・王建軍の「仮想韓国チーム」、ハオ帥・張継科・雷振華の「仮想ドイツチーム」、そして邱貽可・許シン・張超の「仮想その他の強豪チーム」の計4チームがまず結成された。仮想韓国チームは柳承敏=王建軍、馬龍=呉尚垠、陳杞=尹在栄と、戦型もピタリと一致している。仮想ドイツチームのハオ帥はボルの仮想選手だ。トーナメント戦で行われた試合結果は以下のとおり。

●第1戦
[五輪代表チーム 3-0 仮想ドイツチーム]
○王皓 7、-4、8、9 ハオ帥
○馬琳 11、-9、10、8 張継科
○王皓/王励勤 10、8、8 ハオ帥/雷振華
[仮想韓国チーム 3-0 仮想その他の強豪チーム]
○馬龍 9、2、5 張超
○陳杞 7、-9、9、10 邱貽可
○陳杞/王建軍 8、-5、-7、9、9 許シン/邱貽可

●第2戦
[五輪代表チーム 3-2 仮想韓国チーム]
○王励勤 -4、8、10、9 王建軍
○馬琳 7、-8、-8、9、12 陳杞
 馬琳/王皓 8、-9、-8、10 馬龍/陳杞○
 王励勤 10、-4、8、-5、-7 馬龍○
○王皓 5、6、4 王建軍

 仮想ドイツチームは難なく退けたものの、仮想韓国チームには苦戦を強いられた五輪代表チーム。ラストは柳承敏に対し圧倒的な勝率を誇る王皓が、王建軍に対しても完璧な勝ちっぷりを見せたが、呉尚垠の故障や協会の内紛でチーム状態の悪い韓国チームより、仮想韓国チームのほうがどう考えてみても強い。北京五輪を前に気の早い話だが、仮想韓国チームの馬龍と陳杞のふたりは、2012年ロンドン五輪の有力な代表候補。第2戦はいわば五輪代表チームと、未来の五輪代表チームとの攻防でもあった。

 国家チームの首脳陣にとっては、母国で開催される特別な五輪でなければ、ロンドン五輪を視野に入れ、馬龍を五輪代表に加えるという選択肢もあったかもしれない。…これは私見だが、中国選手は以前に比べると晩成型になっているようだ。20歳そこそこの選手が初出場のビッグゲームで好成績を挙げる例は少なく、若手のうちは技術力の高さにメンタルが追いついていない印象を受ける。それだけに首脳陣も、大舞台での経験を何より重要視し、平均年齢27.33歳というベテランメンバーを揃えてきたのだろう。

Photo上:王皓、柳承敏に強ければ仮想選手に強いのも当然?
Photo下:中国男子で今、最も勢いのある馬龍
 7月27日夜、ともに集合訓練を終えた国家男女卓球チームは、最後のエキシビションマッチを控えた江蘇省無錫市で「反興奮剤(アンチ・ドーピング)承諾書」への署名式を行った。これは国家体育総局の要請により行われたもので、馬琳が選手代表として中国国旗の前で宣誓文を読み上げ、五輪代表選手団のメンバーが承諾書へのサインを行った。

「実際には、卓球界のアンチ・ドーピングへの取り組みの中で、これまでに重大な問題は発生していない。これは我々の選手に対する、厳格な要求による所が大きい。卓球は陸上や水泳、重量挙げのような、高い身体能力を要求される競技に比べ、問題が発生することは少ないが、それだけに油断も生じやすい。我々はより厳しく、自らを律していく必要がある(五輪卓球選手団・劉風岩団長)」。
 6人の代表選手たちはこれから五輪期間中を通じて、外食や差し入れられたものを食べることは厳禁。風邪などを引いた場合も、禁止薬物の含まれた薬を誤って服用しないよう、チームドクターの許可なしでは一切薬を口にできない。これまで細心の注意を払って積み重ねてきた膨大な努力が、わずかな不注意で台無しになってしまうのだ。首脳陣はいくら気を遣っても、遣いすぎることはあるまい。

 北京五輪の開催が決定する以前から、国を挙げてアンチ・ドーピングに取り組んできた中国。裏を返せば、中国選手の相次ぐドーピング違反によるダーティなイメージを払拭することが、中国の五輪開催への絶対条件でもあった。94年アジア競技広島大会で、競泳を中心に11名の薬物違反者を出したことをご記憶の方も多いのではないだろうか。昨年11月には、国家体育総局の下部組織として「中国反興奮剤中心(中国アンチ・ドーピングセンター)」を成立させ、五輪代表、および候補選手に対して計5000回を超えるドーピング検査を行ってきた。今年に入ってからすでに8名の選手が、禁止薬物の陽性反応によって永久資格停止処分を受けている。競泳では男子背泳ぎで国内のトップ選手だった欧陽鯤鵬(オウヤン・クンポン)も処分されており、卓球界でも禁止薬物の使用が発覚すれば、厳罰は免れないだろう。

 国際卓球連盟は、2003年3月に世界アンチドーピング機構(WADA)によって定められた世界アンチドーピング規程を、同年5月のITTF総会で早々と受け入れ、ドーピング検査は卓球界でも常識となっている。国内でも全日本選手権や全日本社会人選手権ではドーピング検査が実施され、09年近畿インターハイでは、他競技に先駆けて卓球でドーピング検査が実施される。選手の身体能力がクローズアップされることは少ない卓球だが、アンチ・ドーピングに関しては先進的な競技と言えそうだ。
 ただし、卓球界には「身体のドーピング」だけでなく、「用具のドーピング(ラケット・ドーピング)」という長年の懸案もある。スピードグルー(揮発性有機溶剤を含む接着剤)を使用する最後の五輪となる北京五輪。シングルスで準決勝進出を果たした金擇洙(韓国)がラケット検査で失格になった、95年世界選手権天津大会のような事態だけは起こって欲しくない。

 Photo:「ドーピングの助けを借りて成績を上げても、光栄とは言えない」とコメントした馬琳
 中国が五輪に初めて参加した1984年ロサンゼルス五輪以来、最も多くの金メダルを獲得している競技は何か、ご存知だろうか。正解は「跳水(水泳の飛び込み競技)」。ロサンゼルス五輪で周継紅が女子10m高飛び込みで優勝して以来、04年アテネ五輪までに20個の金メダルを獲得している。卓球と重量挙げが16個でそれに続き、以下射撃が14個、体操が13個となっている。

 金メダルの獲得数では遅れをとっている卓球だが、84年ロサンゼルス五輪では卓球は正式種目となっておらず、また00年シドニー五輪から飛び込みにシンクロナイズド4種目が加わり、男女全8種目になったことを考えると、飛び込みと卓球の競技力はほぼ同等。そして非常に高いレベルにあり、まさに中国の「お家芸」と言えるだろう。
 北京五輪でも、中国のスーパーアイドル・李宇春(クリス・リー)や、香港のトップスターである劉徳華(アンディ・ラウ)が「五輪で見たい競技は飛び込みと卓球」と発言するなど、この2種目は人気競技の双璧。卓球チームと飛び込みチームはともに中国国内で「夢之隊(ドリームチーム)」と呼ばれている。

 そして卓球と飛び込みには、ともに長く女王として君臨するふたりの選手がいる。卓球は言わずとしれた王楠、そして飛び込みは04年アテネ五輪で2枚の金メダルを獲得した郭晶晶(グオ・ジンジン)だ。年齢こそ王楠のほうが3つ上だが、郭晶晶は96年アトランタ五輪から五輪に出場しており、北京五輪ではそれぞれの競技の史上最高齢記録を更新して中国代表となる。さらに両選手とも五輪や世界選手権、ワールドカップなどで獲得したタイトル数は、くしくも同じ23個。互いに2種目ずつ出場する北京五輪で、どちらがタイトル数で上回るか注目が集まっている。

 勝ち気な性格は負けず劣らずという感じのふたりの女王さま。しかし、胡錦濤国家主席の日本訪問に随行するなど、模範的なイメージの王楠に対し、美貌で知られる郭晶晶の言行はかなり奔放。ライバル選手のことを「デブ」と発言したとしてマスコミから非難され、日本でも有名になったが、記者会見で記者の質問を無視したり、五輪直前に「妊娠した」というデマが流れるなど、何かとお騒がせな選手だ。
 ちなみに郭晶晶は、先日国家チームを引退した牛剣鋒と同じ1981年生まれで、同じ河北省保定市の出身。04年アテネ五輪の後には、牛剣鋒とともに省政府から表彰され、60万元(約900万円)の報奨金を受けている。

 さて、北京五輪の真の女王になるのは、一体どちらか…?

Photo:北京の街を飾った「李寧」の巨大な横断幕。王励勤とともに、右手で李寧のロゴを形づくる郭晶晶(写真一番右)
Photo:卓球界の女王・王楠も負けられません!
 7月22日、河北省の正定国家卓球訓練基地で集合訓練を行っていた国家女子卓球チームは、当初の予定を切り上げて北京に帰還した。集合訓練は当初、26日に終了する予定だったが、21日夜になって急きょ重要な式典への出席要請が入ったとのこと。

 なお、21日には最後の部内対抗戦を開催。郭躍は試合に出場しなかったが、張怡寧・王楠・李暁霞(補欠)の3名からなる五輪代表チームが、14日の部内対抗戦と同じように男子選手3名が加わった男女混成チームと対戦。すべてのゲームが9-9からスタートする超・変則マッチながら、五輪代表チームが勝利を収めた。ゲーム終盤での競り合いの中で、対応力を高めるための訓練だろう。

 「集合訓練の当初の目的はすでに達成できた。オリンピックに出場する選手たちは次第に調子を上げており、確かな手応えを感じている」とは施之皓監督の弁。部内対抗戦での成績も順調なだけに余裕の発言か。あとは怖いのは故障だけ、8月1~4日に、五輪会場の北京大学体育館で最後の調整訓練が行われる。

Photo:中国女子初の五輪3大会連続出場となる王楠。現役生活の最後に背負った勝利の十字架は、とてつもなく重い
 7月19日、台湾・高雄市鼓山区に「智淵卓球運動館」がオープンしたことを、台湾の『聯合報』が伝えた。
 チャイニーズタイペイのエース・荘智淵が私費を投じて建設したこの卓球センターは、敷地は約1000平方メートル、建設費は2億8千万円。荘智淵の出身地で、人口150万人を擁する台湾第二の都市、高雄市にある。オープニングセレモニーには高雄市の女性市長である陳菊氏からも、「この卓球センターが荘智淵選手により良い成績をもたらし、そしてより多くの『小・荘智淵』を輩出していくことになるでしょう」と祝辞が送られた。

 「この卓球センターを建てたのは、実は後進の育成のためだけではなく、僕自身が練習をしたい時に、いつでも練習できる場所が欲しかったんだ。それは僕の小さい頃からの夢だった。打つ場所を探さないで済む、というのがね(荘智淵)」。卓球人ならば思わずうなずきたくなる荘智淵のコメントだが、彼ほどのトッププレーヤーでも、台湾には満足に練習できる環境がない。そして数年前から荘智淵は両親とともに、自らの夢を実現させるべく準備を進めてきたのだという。

 93年に単身で中国国家2軍チームに乗り込み、厳しい練習を積みながら世界のトップクラスに躍り出た荘智淵。しかし、02年ITTFプロツアーグランドファイナル優勝をピークに、コンスタントに成績を残しながらもビッグタイトルから遠ざかっている。前陣速攻でのピッチの早さは間違いなく世界一。ツボにはまった時の両ハンド強打は、中国選手でさえ反応できないほどだ。
 このまま終わってしまうには、あまりにも惜しい選手のひとり。個人戦でも団体戦でも、必ずベンチに入る李貴美ママの姿に「親離れが必要」との声も多いが…。

Photo上:タイペイトルネード、荘智淵。彼の練習相手が務まる選手が果たして身近にいるのだろうか
Photo下:国際大会ではひとつの名物になっている荘智淵ママ。猛母です…
 7月13日、シンガポールオリンピック委員会は、北京オリンピック代表選手団の旗手に、女子卓球チームのエースであるリ・ジャウェイを起用することを発表した。リ・ジャウェイは北京五輪の開会式の翌日である8月9日生まれ(1981年)で、北京市の什刹海体育学校で腕を磨いた生粋の北京っ子。まさに故郷に錦を飾る大会となる。

 リ・ジャウェイが育った什刹海(シーシャーハイ)体育学校は、通称「世界冠軍的揺籃(世界チャンピオンの揺りかご)」。これまで数多くの世界チャンピオン、そして4名の五輪金メダリストを輩出してきた、中国有数のスポーツ虎の穴なのだ。卓球界でも古くは范長茂・滕義・王涛、最近では王晨・郭炎など枚挙にいとまがない。
 [中国リポート07/10/01「女子ワールドカップは北中国カップ?」]でも紹介しているが、そんな什刹海体育学校で、ともに2年あまりを過ごした4人の女子選手がいる。そのうちの一人目は前述したリ・ジャウェイ。そして二人目は中南米チャンピオン、三人目はヨーロッパチャンピオン、四人目はアジアチャンピオンであり、世界チャンピオンであり、五輪金メダリスト…。それぞれウー・シュエ(呉雪/ドミニカ共和国)、リュウ・ジャ(劉佳/オーストリア)、そして張怡寧だ。
 北京五輪で、再び故郷の街に顔を揃えることになった4人。ウー・シュエは実力的にやや落ちるが、他の3人は優勝候補に名を連ねている。張怡寧はもちろん、他の3人も大きな声援を集めることになりそうだ。

Photo上・下:毎回違ったヘアスタイルで登場するリ・ジャウェイ。下写真(06年プロツアーグランドファイナル)は期間限定の貴重なショット。ちょっと冒険しすぎたか…
〈五輪代表チーム 5-0 最強「仮想敵」チーム〉
○王楠 -8、-7、7、7、9 木子
○李暁霞 -6、1、13、-10、8 曹臻
○郭躍 10、-10、6、-9、6 王シ(男子)
○張怡寧 6、-10、7、4 高欣(男子)
○張怡寧/王楠 3-2 胡冰涛/王シ(男子)

 女子エキシビション・マッチ、第3試合は注目の「性別大戦」である郭躍vs.王シ。この王シの実力が半端ではない。ブンデスリーガ1部のゲナンに所属し、昨シーズンは終盤戦の11連勝を含む27勝を挙げ、ボル(ドイツ)やコルベル(チェコ)といった強豪をおさえて「リーグ最多勝男」になっている。仮想選手なのに、どう考えても韓国の金キョン娥、朴美英よりはるかに強いのだ。

 いかに強打者の郭躍とはいえ、絶望的とも言えるこの対戦相手。しかし、郭躍はコース取りとドライブの落点の変化で敢然と立ち向かう。会場に詰めかけた1,000人を超える観客は、もちろんそのほとんどが郭躍の味方。第1ゲームは前後にうまく攻めた郭躍が12-10で奪取、続く第2ゲームも10-7でゲームポイントを奪うが、ここから王シに5本連取を許してゲームカウント1-1。
 第3ゲーム、気合いを入れ直した郭躍がパワードライブで攻め立て、郭躍11-7王シ。第4ゲームは王が7-3とリードし、郭躍もよく追い上げたが王シ11-9郭躍。第1・2試合に続き、第3試合もゲームカウント2-2のゲームオールにもつれる。
 第5ゲームは一進一退のシーソーゲーム。6オールまでポイントが離れない。しかし、ここから郭躍が思い切りの良い3球目強打を連発。ヨーロッパの強豪のパワードライブを何球でも拾う王シのカットを押し切って見事勝利を挙げた。

「郭躍の爆発力は見事だった。女子選手と男子選手では、やはり筋力や体力に差があるが、郭躍は粘り強く戦って勝利を収めた。彼女のメンタルは非常に良い状態だ。逆に王シは郭躍の打法やリズムに対応できていなかった(施之皓監督)」。世界選手権団体戦では、2大会連続して決勝で敗れている郭躍だが、この1勝は首脳陣からの信頼を勝ち取るに足る勝利だ。

 郭躍の勝利で五輪代表チームが勝利を決めたが、試合はラストの5番まで行われた。4番で張怡寧が対戦した高欣(右シェーク異質速攻型)も相当な実力者。昨年8月に行われたユニバーシアード・バンコク大会では、シングルス準決勝で荘智淵(チャイニーズタイペイ)、決勝で侯英超(中国)に勝って優勝している。もちろん高欣が100%の実力を出したとは言えないだろうが、そんな選手に3-1で完勝してしまう張怡寧、恐るべしだ。ラストのダブルスも、張怡寧/王楠がカットペアの胡冰涛/王シを粘り強く攻めて競り勝ち、深夜に及んだ試合を勝利で締めくくった。

 5試合中4試合がゲームオールの激戦だったが、要所をきっちり押さえて5-0の完全勝利を収めた国家女子チーム。さすがに「史上最強チーム」の評判はダテではない。絶対負けられないプレッシャーを、すでに絶対負けない自信へと昇華させつつあるのか…?

Photo上:郭躍、豪腕唸る
Photo下:ユニバーシアード王者に完勝した張怡寧