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中国リポート

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 5月23~27日に中国・上海で行われたITTFワールドツアー・中国オープン。ワールドツアーのポイントと賞金総額では、8月に蘇州で行われる「Harmony 中国オープン」のほうが格上だが、国家チームの主力選手たちが揃って出場。地元・上海市男子チームの許シンが男子シングルスで優勝し、ファンから大きな声援が送られた。

 男女シングルスでベスト4を独占し、相変わらずの強さを見せた中国だが、出場選手たちの体調不良が相次ぎ、コーチ陣を慌てさせた。男子シングルス3回戦で、王皓が江天一(香港)にゲームオール12-14で敗れたが、試合後に病院へ直行。急性胃腸炎と診断された。「王皓は朝から胃が痛いと言っていた。今日の敗戦はその影響が少なからずあったのだろう」と国家男子チームの劉国梁監督。「しかし、試合では大事な場面で細かいミスが出ていた。それが主な敗因だろうね」。ハンデを負った教え子に一定の理解を示しながら、いかにも劉国梁らしく、チクリとやることは忘れない。

 そして女子ダブルス決勝では、ロンドン五輪代表によるペア、丁寧/李暁霞が決勝を棄権。世界女王の丁寧は、前日行われた女子シングルス準決勝の李暁霞戦で、すでにかなり体調が悪くなっていたという。1-4で李暁霞に敗れながらも、この試合を戦い抜いた丁寧だが、高熱のため女子ダブルス決勝は棄権を余儀なくされた。診断の結果はインフルエンザで、それほど重い症状ではないようだ。
 先日行われた韓国オープンでも、郭躍が故障のために女子シングルス準決勝を棄権。中国オープンは大事を取って出場をキャンセルしている。

 さすがの最強軍団も、故障や発熱には勝てない。国家チームは6月初旬から、男子が福建省厦門市、女子が四川省成都市で集合訓練に入る。選手それぞれの体調を見ながら、トレーニングや練習のプログラムを組んでいくことになる。

photo上:王皓、胃腸炎はプレッシャーの現れ?
photo下:中国オープンではシングルス準々決勝で武楊、ダブルス準決勝で金キョン娥/朴美英に勝利した丁寧。対カットの連戦が体調をさらに悪化させた
(写真は12年世界団体選手権)
 5月16~20日、韓国・仁川で行われたITTFワールドツアー・韓国オープン。男女シングルス・ダブルスの4種目で中国がタイトルを獲得したが、男子シングルスに波乱があった。世界ランキング1位の馬龍が、2回戦(ベスト8決定戦)で李尚洙(韓国/世界ランキング60位)に1-4で完敗を喫した。

 地元ファンの大声援をバックに、威力と切れ味を兼ね備えた両ハンドドライブで積極的に攻めた李尚洙。一方の馬龍はフォアハンドの手数が減り、レシーブでも積極性を欠いた。心にも体にも、小さな鉄球が鎖でつながれているかのように、精彩を欠くプレーだった。双子の弟にしては卓球がうますぎるが、本人にしては弱すぎる。五輪アジア予選の丹羽孝希戦に続く、まさかの敗戦。馬龍の魔法は解けてしまったのか。

 「これはとても深刻な問題だよ」。国家男子チームの劉国梁監督も、馬龍の不調には厳しいコメントが続いた。「この数年、馬龍は突如としてプレーを乱すことが何度もあった。格下の選手に不可解な負け方をしてしまうんだ。この問題はより深く分析していく必要があるだろう」(劉国梁)。

 数ヶ月前までは出る試合すべて連戦連勝、無敗を誇った馬龍。しかし、本当に大事な大会でまだ勝っていない。4年に1度の五輪は別としても、世界選手権やワールドカップではタイトルを獲っていてもおかしくない、いや獲っていなければならない選手。ドルトムントでの世界団体選手権決勝では、2番でオフチャロフに快勝したが、トップでボルに逆転負けした10年モスクワ大会決勝の雪辱というには、まだもの足りない。国家チームの首脳陣の評価も、トップでボルとの接戦を制した張継科のほうが高い。しかも張継科は自らトップでの出場を志願し、結果を残しているのだ。

 おとなしく、コーチに逆らわないことで有名だった馬龍と、国家チームの規則違反で一時は省チームに戻され、ウェアを引きちぎったりタトゥーを入れたりと、何かとお騒がせな張継科。そのふたりが、勝負の世界では次第に明暗を分けつつある。馬龍の巻き返しはあるのか。昨日23日から上海でスタートしたITTFワールドツアー・中国オープンでの、馬龍のプレーに注目だ。

photo上:重戦車・馬龍、急ブレーキか
photo下:馬龍を破った李尚洙。勝利を決めた最後の一本、バックストレートへのカウンタードライブは驚異。しかし、続く3回戦で張一博に敗れた
 「世界団体選手権の前から、右ひじの調子はずっと良くなかった。プレーを続けながらいろいろ治療をしたけれど、あまり効果がなかった。世界団体選手権の後でレントゲンを撮って検査したら、(右ひじの腱と靱帯が)二カ所断裂していることがわかった。手術を受けたらロンドン五輪に間に合わないので、手術を受けずに毎日治療を受けていた」(郭炎)。

 ロンドン五輪の推薦出場枠を獲得しながら、右ひじの故障で丁寧と無念のエントリー変更となった郭炎。04年アテネ五輪から3回の五輪出場のチャンスがあり、常に代表の有力候補でありながら、ついに五輪のコートに立つことはなかった。4年に1回しか開催されない五輪。高い実力を誇る選手でも、大会時に競技人生のピークを持ってこられるとは限らない。

 05年世界選手権上海大会の決勝で、04年アテネ五輪金メダリストの張怡寧と互角の戦いを繰り広げた郭炎。当時ふたりの実力は伯仲(はくちゅう)していたが、張怡寧が五輪2大会連続2冠王となったのに対し、郭炎は五輪出場すらかなわなかった。振り返ってみると、郭炎にとって痛恨の極みと言うべきは、2003年世界選手権パリ大会。ドローに恵まれながら、発熱の影響もあって3回戦でバデスク(ルーマニア)にゲームオール11点で敗れ、ベスト32止まり。張怡寧、王楠に続く04年アテネ五輪の3枚目の代表切符(シングルス)は、03年末のプロツアー・グランドファイナルで優勝した牛剣鋒の手に握られた。

 『成都商報』の記事によれば、郭炎が最も苦痛を感じたのは、エントリー変更を聞かされた瞬間ではなく、4月1日の世界団体選手権・女子決勝だったという。

 「チームメイトたちがコートに立っているのを見て、ベンチで焦りを感じた。いろいろなことを考えました。『ロンドン五輪にも、もう出られないのだろう』と考えた時、苦しみで胸が張り裂けそうでした。
 それでも、そんな感情を表に出すわけにはいかなかった。監督やチームメイトをサポートしないといけませんからね。…本当につらかったですね」(郭炎)


 戦術眼や対戦相手の分析能力は、施之皓監督も高く評価する郭炎。今後は国家チームのコーチとして活動することになりそうだ。「五輪金メダリストや大満貫を獲得するような選手を育てられるかはわからないけど、自分の選手時代の反省や教訓を指導に生かしていけると思う」と語っている。

photo:世界団体選手権・決勝のベンチでの郭炎。その胸中は如何…
 5月11日、国家体育総局の卓球・バドミントン管理センターは、ロンドン五輪・卓球競技に派遣する中国代表メンバーの最終発表を行った。男子は王皓、張継科、馬龍。女子は李暁霞、丁寧、郭躍。女子は昨年5月、世界ランキングによる推薦出場枠を獲得していた郭炎と丁寧がエントリー変更された。
 郭炎がエントリー変更になった理由は故障。国家卓球チーム・ドクターグループの尚学東チーフによれば、郭炎の故障箇所は「右ひじ部分の伸筋腱、および外側・側副靱帯の部分断裂」。すでに練習や試合でプレーを行うことは困難な状況だという。

 今年1月から徐々に悪化していったという郭炎の右ひじの故障。「アジア選手権前の広東省中山市の集合訓練ではかなり悪化していた。針を打ち、様子を見ながら練習するしかなかった。世界選手権前のWSA(ウェルナー・シュラガー・アカデミー)での直前合宿では、痛みが相当ひどくなっていたようだ」。国家女子チームの施之皓監督もそうコメントしている。早期回復のためには手術するほかないが、ロンドン五輪までの残り時間を考えると、手術にはふみきれない。
 「郭炎もすでにチームの決定を受け入れ、現在はコーチに近い形でチームのために貢献してくれている」(施之皓)。

 丁寧の五輪出場に対して、「エントリー変更」という表現だと誤解が生じるかもしれない。世界ランキング2位で五輪への推薦出場枠を獲得していた郭炎が、出場をキャンセルしたことで、同3位の丁寧に出場枠が繰り下がった形だ。これで丁寧は女子シングルス・団体の2種目に出場。世界ランキング1位の丁寧に五輪シングルス金メダルへの道が開けた。一方、アジア大陸予選を通過した郭躍は、自力で代表権を獲得しながら、出場できるのは団体戦のみとなる。

 ドルトムントでの世界団体選手権では、開幕前日の全体練習に姿を見せず、第1戦ではベンチにも入らなかった郭炎。第2戦のウクライナ戦でコートに立った時、その右ひじには「これ見よがし」なほどガチガチのテーピングが巻かれていた。それでいて郭炎を準決勝の香港戦を含め、4試合に出場した。あくまで郭炎をロンドン五輪に派遣するつもりなら、無理はさせないのが普通だろう。
 中国のネット上でも郭炎の故障については疑問の声が上がっている。微博(マイクロブログ)には「エントリー変更が発表された日の午前中、郭炎がトレーニングルームでトレーニングしているのを見た」という書き込みもあったという。

 丁寧と郭炎、両選手のコメント等ものちほどお伝えします。

photo上:世界団体選手権での郭炎のプレー。右ひじ外側のテーピングが目を引いたが、プレー自体にはそれほど支障はなさそうだった
photo下:北京市チームの先輩である郭炎に替わり、ロンドン五輪出場となった丁寧
 5月11日に最終発表される、国家男女卓球チームのロンドン五輪へのエントリー。 中国の卓球ファンの最大の関心事は、女子の3人のエントリー。現世界チャンピオンの丁寧と、世界団体選手権決勝でベンチを温めた郭炎。このふたりのエントリー変更があるかどうかという点だった。

 そして、中国卓球協会による13日の発表を前に、すでに答えは出てしまったのか。ITTF(国際卓球連盟)ホームページのロンドン五輪のページにある「Qualified Players, Women(女子予選通過者)」のページでは、すでに「GUO Yan(郭炎)」から「DING Ning(丁寧)」に名前が変更されている。エントリーは5月4日に変更され、5月9日には中国オリンピック委員会によって承認されている。

 中国国内ではまだエントリー変更に関する報道はないが、このまま丁寧がロンドン五輪代表となり、五輪のシングルスと団体に出場する可能性が高い。そうなってみると、ドルトムント大会の男女団体決勝に出場した6名、男子の張継科・馬龍・王皓、女子の丁寧・李暁霞・郭躍は、そのまま五輪代表のお披露目だったということになる。

 11日の正式発表を待って、男女チーム監督の談話などをお伝えします。

photo:北京女子チームの先輩・後輩でもある郭炎と丁寧
「ぼくはすべての卓球ファンに保証しよう。皆さんが心配しているような〝譲球〟の問題は、ロンドン五輪では絶対に発生することはない!」

 これは国家男子チームの劉国梁監督が、微博(ウェイボー/マイクロブログ)に投稿した一文だ。なぜこのタイミングで、彼がこのような発言をする必要があったのか。それはとある卓球ファンからの、以下のようなコメントがきっかけだった。
「劉国梁監督、あなたという存在があってこそ、国家チームは栄光の歴史を重ねていけるのだと信じています。ただ一点だけ不安が残るのは、譲球の問題です。ロンドン五輪は、前評判どおりに王皓と張継科の決勝になるかもしれない。その時、どんな圧力がかかろうとも、決して譲球をするべきではありません」

 譲球(ランチウ)とは試合を譲る、つまり勝利者操作のことだ。
 卓球ファンからこのようなコメントが寄せられた背景には、現在中国スポーツ界を揺るがしているバドミントンの譲球問題がある。4月17~22日まで、中国・青島で行われた「2012アジアバドミントン選手権」。男子シングルス準決勝で、世界ランキング2位の林丹(中国)が故障を理由に棄権。チームメイトで同ランキング5位の陳金(中国)が決勝へ勝ち上がり、金メダルを獲得したのだ。

 ロンドン五輪でのバドミントンのシングルス出場枠は男女とも38名ずつ。その出場枠を決める上で、世界ランキング1~4位(2011年5月からの1年間に限定)に3名以上がランクインしていれば、1カ国につき3名がシングルスに出場できる。2位に林丹、3位に諶龍のふたりがいる中国男子は、5位の陳金を優勝させてランキング4位の座を確定させるため、林丹に勝ちを譲らせたのだ。それまでにも林丹は多くの国際大会で、同士討ちでの棄権を繰り返していた。

 「また譲球か」と報道陣に詰め寄られた国家バドミントンチームの李永波総監督は、「マスコミは良いニュースは流さないで、時々妙なところでアラ探しをする。どうして同士討ちで無理に試合をして、故障を悪化させる必要があるんだ?」と語気荒く発言。さらに「外国勢は譲球をやろうにもできないだろう。そんなに強い選手がたくさんいないんだから」と、譲球を誇るようなコメントすらしている。これには中国のマスコミやスポーツファンも過敏に反応、スポーツ精神に反するものだと各方面で議論を呼んでいる。ちなみに李永波は、18人(!)いる中国卓球協会の副主席(副会長)のひとりだ。

 卓球界ではほとんど行われなくなったと言われている譲球。しかし、五輪出場権を獲得するシステムがバドミントンと同じだったとしたら、国家卓球チームはどのような手段に出るだろうか?

Photo上:「ロンドン五輪ガチンコ宣言」を出した劉国梁
 五輪アジア大陸予選で、馬龍(中国)が丹羽孝希(青森山田高)に敗れた一戦について、中国では様々な報道がなされている。

「馬龍、北京男子チームから初の五輪代表入りも、一番乗りでの代表権獲得はならず」(北京日報)
「劉国梁監督、丹羽を国家男子チームの強敵としてマーク」(北京晨報)
「馬龍、1試合余計に戦って五輪代表権獲得」(海南日報)
「560日間保持してきた、外国選手に対する不敗記録は、17歳の日本の若手選手によって打ち砕かれた」(羊城晩報)

 最後の羊城晩報の記事にある、「560日間の(対外国選手の)不敗記録」をさかのぼってみると、2010年9月のワールドチームカップクラシック準々決勝、対張一博(東京アート)戦だった。さらに2010年5月の世界団体選手権決勝、ボル(ドイツ)戦での敗戦を挟んで、2009年11月のアジア選手権・男子団体決勝3番で岸川聖也(スヴェンソン)に敗れている。日本の前に立ちはだかる厚く高い壁というイメージがある馬龍だが、近年の敗戦は対日本選手が多い。
「2回の敗戦(岸川・張一博)までは番くるわせと言えるが、さらにこの丹羽戦の敗戦が加わると、馬龍の『恐日症(=日本選手恐怖症)』は軽視できないものだ」(羊城晩報)。

 3回の敗戦を振り返ってみると、ワールドチームカップクラシックの張一博戦は左足の故障の影響も大きかったようだが、トップ許シンが松平健太に敗れたアジア選手権団体決勝、初の五輪出場が懸かっていた今回の五輪アジア大陸予選は、ともに大きなプレッシャーがかかる場面。精神的に追い込まれて持ち前の豪打が発揮できず、岸川と丹羽に台上で崩されて敗れた。アジア選手権団体決勝は、張継科・許シン・馬龍という若手のみのメンバー構成だったことも、プレッシャーを倍加させたはずだ。
 『恐日症』というより、やはり馬龍は大きなプレッシャーに打ち勝つだけの精神力がまだ足りないのか。その圧倒的な強さも、パフォーマンスのレベルが通常の40~50%まで下がってしまえば、世界のトップクラスでは戦えなくなる。

「ジュニア時代から馬龍のプレーは見てきたけど、あれほどブルッた馬龍は初めて見た」と香港から帰国した弊誌・今野編集長。「あれならオレでも勝てるよ」……も、もちろん冗談です。詳報は5月21日発売の7月号に掲載します。

Photo上:今回の五輪アジア大陸予選、丹羽戦のベンチでの馬龍
Photo下:09年アジア選手権団体決勝。3番で岸川に敗れた馬龍に、ベンチもかける言葉なし
 ロンドン五輪・アジア大陸予選のAトーナメント代表決定戦で、丹羽孝希(青森山田高)に2-4で敗れた馬龍(中国)。世界ランキング1位の馬龍と19位の丹羽。そのランキングの差以上に、卓球界に与えたインパクトは大きい。

 Dトーナメントでアチャンタ(インド)に完勝し、柳承敏(韓国)とともに3・4番目で代表権を獲得した馬龍。丹羽戦について、こう振り返っている。
 「丹羽との試合はかなり緊張してしまって、試合の序盤はプレーが慎重になりすぎ、技術面でも戦術面でも単調だった。メンタルを良い状態に持っていけなかった。プレーの出来は40~50%、自分の持ち味が全く出せなかったと言ってもいい。どう戦っていいのか、どうやったら得点できるのか、わからなくなった」(馬龍/出典『新浪体育』)。

 世界ランキング1位、しかもこの半年ほど絶好調だった馬龍のコメントとは思えないが、今回のアジア大陸予選では他にも番くるわせが相次いだ。男子Aトーナメント代表決定戦で柳承敏が梁柱恩(香港)に敗れ、女子Aトーナメントでは平野早矢香(ミキハウス)がコムウォン(タイ)に、石賀浄(韓国)がヌグエン(ベトナム)に敗れている。世界団体選手権で大舞台を踏んだばかりのトップ選手たちにとっても、五輪予選のプレッシャーは相当なものがあったようだ。

 「今回の試合方式は4ゲーム先取の7ゲームスマッチ。自分には有利だと思っていたけど、全然違っていた。丹羽戦についていえば、あんなプレーでは5ゲーム先取の9ゲームスマッチだって勝てはしない。今回の試合で生じた精神面の問題について、真剣に反省し、分析しないといけない」(馬龍)。
 敗者復活戦が続く、特殊な試合方式のアジア大陸予選だが、もし一発勝負のトーナメントだったら、世界ランキング1位が予選敗退の憂き目にあっていた可能性もある。国家チームの首脳陣にしてみれば、浅い傷で済んでよかったというのが本音か。ロンドン五輪を戦う中国男子チームは、王皓・張継科・馬龍の3名でほぼ確定。圧倒的な技術力を誇る一方で、精神面に一抹の不安を残す顔ぶれでもある。

photo:世界団体選手権の表彰式での馬龍(上)。栄光の「CHN 1」を背負い(下)、出場した全試合でストレート勝ちを収めたが、五輪予選に思わぬ落とし穴が待っていた
 4月21日、香港・クイーンエリザベススタジアムで行われたロンドン五輪・卓球競技のアジア大陸予選で、丹羽孝希(青森山田高)が馬龍(中国)を4-2で撃破し、五輪出場権を獲得した。馬龍はDトーナメントでアチャンタ(インド)に4-0で完勝し、五輪出場権を獲得できたが、世界ランキング1位の思わぬ敗戦が波紋を呼んでいる。

 「丹羽との試合で、馬龍は決して試合前の準備は不十分ではなかったし、丹羽を軽く見ていたわけでもない。むしろ、丹羽のことを過大評価しすぎていたようだ」と試合後に述べた劉国梁監督。馬龍にはふたつの課題があると指摘した。
 「馬龍のふたつの課題のうち、ひとつ目の課題は精神面。これから五輪に向け、馬龍はもっとメンタルに関する指導を増やしていく必要がある。そしてふたつ目の課題は対サウスポーだ。サウスポーが相手だと戦術も打法も単調になりやすい。我々のライバルである日本には水谷と丹羽がいて、ドイツにはボル、そしてバウムがいる。今回の丹羽戦の敗戦で、馬龍は貴重な経験を得ただろう」(劉国梁)。

  CCTV(中国中央電視台)で生中継された、馬龍と丹羽の一戦。予選会での馬龍の代表一番乗りを伝えるはずが、丹羽の大金星を中国全土へ伝える結果となってしまった。中国女子チームの陳彬コーチがゲスト解説に呼ばれていたが、試合が進むにつれて、実況のアナウンサーも陳彬コーチも口数が少なくなってしまった。丁寧の担当コーチである陳彬コーチは、「馬龍は対上回転には非常に強いが、対下回転のボールに対してはまだ不満が残る。スイングが少し大きすぎるのではないか」とコメントしている。

 試合後、「次やったらボコボコにされると思うけど、一回勝ったことに意味がある」とコメントした丹羽。五輪予選というプレッシャーのかかる舞台での大金星は、彼のポテンシャルを改めて示すものだが、これで中国はさらに警戒の度合いを強めてくる。「馬龍のこの敗戦は、すべての選手とコーチ陣に警鐘を鳴らすものだ。最近最も調子が良く、プレーも安定していた馬龍でさえ、17歳の若手に負けることがあるんだからね」(劉国梁)。

 五輪本番では馬龍も、今回苦しめられた丹羽のチキータや台上バックドライブにきっちり対応してくるはず。勝利で得た自信を胸に、ロンドンの大舞台では、今回のさらに一歩先を行く技術と戦術を期待したい。

Photo:丹羽孝希(上)と馬龍(下)。アジア選手権では2大会連続で馬龍が勝利していたが(ともに4-1)、五輪予選で丹羽が歴史的勝利
 香港で行われるロンドン五輪・アジア大陸予選に、男子は馬龍、女子は郭躍をエントリーした中国。
 男子の馬龍の選出はほぼ順当なもの。五輪団体戦の3番手の座は、馬龍と馬琳の「二馬対決」という構図だったが、昨年の後半から好調をキープし、世界選手権団体戦でも結果を残した馬龍が選ばれた。馬琳のビッグゲームでの経験は貴重なものだが、馬龍も今年10月には24歳という年齢を迎え、4年後のリオデジャネイロ五輪が初出場では少し遅すぎる。「選手としてのピークを迎えている今、五輪に出場させるべき」という意見が多かったようだ。馬龍と馬琳、両選手の微博(マイクロブログ)でのコメントを紹介しよう。

「ロンドン五輪の団体3番手に選ばれて、本当にうれしいし、国家チームの首脳陣、劉国梁監督がぼくを信じてくれたことに感謝したい。あと3カ月、さらに努力を重ねて、決して期待を裏切りたくない。
 そして馬琳、あなたはぼくにとって永遠の目標だ!!」(馬龍)

「祖国の利益が何よりも大事。そしてチームの勝利は我々みんなの勝利だ。いつだってこのチームにすべてを捧げるよ。みんな、頑張ってくれ」(馬琳)


 また、ドルトムント大会閉幕後の国家チームの酒宴で、馬琳が涙を流していたことを、劉国梁監督が微博で明かしている。

 「ぼくに酒をすすめに来た時、馬琳の眼にはもう涙が光っていた。きっと彼は、自分がロンドン五輪には出られないことを、もうわかっていたんだと思う。
 北京五輪の2冠王で、モスクワ大会の団体決勝では2点を挙げ、団体5連覇に貢献した馬琳。それなのに今大会は決勝のオーダーから外れ、ロンドン五輪にも出場できなかった。どうしてITTFは、(五輪での)中国チームの出場人数を制限しようとするのか。中国が強すぎるからか?
 考えていると気がふさぐんだ。強すぎることは間違いなんだろうか?」


 今年すでに32歳になる馬琳。若手選手からの突き上げに耐えながら、4年後のリオデジャネイロ五輪を目指す気力は、さすがに残っていないだろう。盟友の王励勤とともに、2013年の全中国運動会を引退の場に選ぶのか。いまだ叶わぬ、世界チャンピオンという目標に向かって走り続けるのか。その去就が注目される。

Photo上:馬龍、7月のロンドンまで好調をキープできるか
Photo下:馬琳、男子初の五輪2連覇への挑戦はならず
(写真はともに12年世界選手権団体戦)