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 今、日本のスポーツ界とメディアはアジア競技大会に目が向いている。まるで、それが来る2020年東京五輪の前哨戦であるかのように。
 ところが、東京五輪でメダルが有望視される卓球は、全日本チャンピオンの張本智和(JOCエリートアカデミー)、伊藤美誠(スターツSC)、五輪メダリストの石川佳純(全農)、丹羽孝希(スヴェンソン)、吉村真晴(名古屋ダイハツ)、さらに大島祐哉(木下グループ)、平野美宇(日本生命)、早田ひな(日本生命)という日本代表クラスがアジア競技大会ではなく、ITTF(国際卓球連盟)ワールドツアーのチェコオープンに出場するという卓球界でも過去に例のない状況になっている。
 水谷隼(木下グループ)は8月に鼻の手術をしているために国際大会を回避した。アジア競技大会に上田仁、吉田雅己(ともに岡山リベッツ)、加藤美優(日本ペイントHD)などの日本代表が参戦しているが、「トップ選手を欠いているメンバー」と言われても仕方がないだろう。

 4年に一度の「アジアオリンピック」と言われるアジア競技大会は、各競技団体にとっては「オリンピック」「世界選手権」に次ぐ、重要な大会だ。卓球界でも、過去にアジア競技大会と別に2年に一度のアジア選手権が日程が近かったりすると、アジア競技大会に主力メンバーを送るのが慣例だった。
 それはアジア・オリンピック評議会(OCA)が主催し、JOC(日本オリンピック委員会)が選手派遣する大会だからだ。そこでのメダル獲得数は、各競技団体への評価にもつながる。

 ところが、卓球の男女ナショナルチームの主力選手はアジア大会ではなく、同じ時期に開かれるチェコオープンに主力が参加することになった。チェコオープンはワールドツアー最上位のプラチナ大会ではなく、レギュラー大会である。その大会に日本のトップ選手がエントリーし、かつ男女の全日本監督も同行する。スタッフと選手(自費参加を含む)を入れると総勢63名がチェコに入る。
 まるで世界選手権並みの選手、スタッフが現地入りするのには理由がある。
 ITTFが設定した新しい世界ランキングのランキングポイントの格付けにおいて、チェコオープンでもし優勝すると1800点が獲得できるが、アジア大会は格付けが低く、優勝しても1050点にしかならない。これはチェコオープンのベスト16(1080点)とほぼ同じ。世界ランキングだけを考えれば、アジア大会で優勝するよりはチェコでベスト16に入るほうがはるかに難易度が低い。
 
 つまり、日本はアジア大会に選ばれる可能性のある選手も可能性がない選手も世界ランキングを優先して、チェコオープンを選んだと言える。協会もその選考に関しては強制権を行使しなかったのだろう。

 その背景には、当然のことながら2020年東京五輪の選手選考が大きく影響を与えている。ITTFは2020年1月の世界ランキングによって、その上位者を五輪に推薦出場させることを発表している。一国のシングルス枠は最大2名までで、団体戦(もしくは混合ダブルス)に出場できる3番目の選手は協会が決定するが、世界ランキングで3番目に付けた選手が選ばれる可能性は高い。
 シングルスの2名枠、そして団体メンバーを含めた3名の枠に入るべく、すでに日本のトップ選手間では熾烈な戦いが始まっているのだ。男子では張本・水谷・丹羽の3名に、松平健太、上田、吉村、大島などが続く。
 女子は、伊藤・石川・平野の3人に、佐藤瞳(ミキハウス)、早田、加藤、芝田沙希(ミキハウス)などが続く。もし代表の可能性が1%でもあれば、そこに挑もうと選手本人も母体チームも考えるからこそ、国際大会に出場し、ポイントを取りにいく。
 それはリオ五輪の代表選手が決まる1年前に世界ランキング90位、半年前に43位くらいでノーマークだった吉村真晴が最後の半年間で急激にランキングを上げ、3番目の選手に決まったという事例を目のあたりにしたことも関係しているのだろう。

 しかし、ちょっと考えてみよう。
 現在の世界ランキングの計算システムは新しくなり、過去1年間の中からポイントの高い8大会の合計で世界ランキングが決まる。2020年1月が最終決定とすると、2019年1月からの成績が重要視されるはず。それなのに、すでに18年8月のチェコオープンにこぞって日本選手は向かう。なぜなのだろう。
 これは来年1月からのワールドツアーを見据えて、各選手が少しでも世界ランキングの上位に付け、シードされるポジションにつこうとしているからだ。

 卓球の場合は、種目別や体重による階級があるわけではない。これだけ世界的に競技人口の多いスポーツであるにもかかわらず、一国から3名しか五輪に参加できない「超競争率の高いスポーツ」なのだ。
 すでに本気で五輪を狙う選手たちは胃の痛むような日々に突入している。
 それがアジア大会であろうが、ワールドツアーであろうが、彼らは目の前のランキングポイントを貪欲に狙いに行く。すでに五輪の代表選考レースは始まっている。リオ五輪でメダルを獲得した水谷、石川、伊藤であっても安閑とした時間を過ごせない。
 2020年8月の五輪本大会の前に、彼らが目指すゴールは2020年1月の世界ランキング発表の日なのだ。 (今野)
  • 全日本チャンピオンの伊藤美誠はチェコオープンにエントリー

  • ジャパンオープン優勝の張本智和もアジア大会ではなく、チェコに参戦