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ITTFが試験的にラバーをラケットから剥がして検査。
用具ドーピングに歯止めをかけられるのか


 卓球の世界選手権(個人戦)ブダペスト大会の大会期間中、今後、一部のワールドツアーなどの大会で、新しいラケット・ラバーの検査方法をテストしていくことが決定した。ITTF(国際卓球連盟)の関係者への取材でわかった。
 これまでもラバーの厚さについては事前検査などでチェックしていたが、今回の新しい検査方法では、試合で敗れた選手に対してラケットからラバーをはがし、ラバーの厚さが規定の4mm以内に収まっているか、『ブースター』(補助剤)が使われていないかというチェックが行われる。

 『ブースター』とはラバーに塗り込むオイル系の液体で、『ブースター』を塗ることでラバー全体がほどよく軟らかくなり、弾性が増す。特に中国性の粘着力の強いラバーのように、硬くて強い回転のかかるラバーに塗り、ラバーを思い切り伸ばしながらラケットに貼ると効果は大きい。このブースターは一定時間、効果を発揮する。
 一方、日本製の『テナジー』(バタフライ)のようなテンションの強いラバーに対してはブースターは効果は薄いと言われているが、それでもテンションラバーにブースターを使う選手も後を絶たない。

 もともと卓球では1970年代から『スピードグルー』(スピード増強接着剤)が使用され、ラバーを膨らませ、ラバー全体にテンションをかけて弾性を高めることが日常的に行われていた。この『スピードグルー』には人体に有害な揮発性有機溶剤が含まれていたが、2008年にITTFが使用を禁止。その後に、揮発性有機溶剤を含まず、接着力のないブースター(オイル系)が出てきたのだが、「ラバーの後加工(あとかこう)禁止」(ラバーは出荷状態と同質のものでなければいけない)」というルールができて、水溶性接着剤と接着シートのみが許可されている。ブースターの使用は、出荷されたラバーに後加工するために、卓球における「用具ドーピング」とも言われている。

 スピードグルーの禁止当初から、硬い中国製ラバーを使用する選手は、隠れてラバーにブースターを塗っていた。2012年のロンドン五輪後に日本の水谷隼が「ブースター問題を解決してほしい。アンフェアだ」と抗議し、国際大会をボイコットしたこともある。

 しかし、その後も中国ラバー以外のラバーにもブースターを塗る行為が横行し、ボールに威力を出そうとする選手の動きは止まらなかった。検査する際にラバーを剥がすわけではないので、ラケット中心部を薄く削り、ラバーの打球部分のみ規定の4mmよりも厚くして、ボールの威力を出そうとする選手もいると言われてきた。今回の新しい検査方法でラバーを剥がすことになれば、もしラケットに何らかの細工をしていればすぐに発見されるだろう。

新しい検査方法は、中国が標的ではない
「フェアな用具を使う卓球」への変身を目指している


 実際には、人体に無害のオイルで、有機溶剤の検査に引っかからないブースターを使うのがなぜ悪いのか、ブースターの後加工を認めるべきだという議論は以前からある。しかし、後加工を認めてしまえば、卓球の用具は際限なく細工され、用具偏重に陥り、スポーツではなくなってしまうという懸念もある。かつて、粒高ラバーを電子レンジで加熱して後加工していたという、嘘のような本当の話も存在する。

 今後はクロアチアオープン、香港オープン、ワールドチームカップなどで試験的な検査が実施される模様だ。今後、より多くの国際大会や国内大会でも行われるようになれば、ブースターや後加工したラバーを使っている選手に対して、一定の抑止力にはなるだろう。

 特に中国選手は、ブースターがもっとも効果を発揮する中国製ラバーを使っている。今回の検査が中国ラバーそのものに対する抑止力になるとすれば、彼らのプレーにも影響を与えるだろう。ただし、中国選手のほとんどがフォア面に中国ラバーを貼り、バック面に日本製ラバーを貼っている。つまり、彼らは十分に日本製ラバーも使いこなすし、用具だけで勝っているわけではない。その鍛え上げられた身体能力と技術力で勝っていることにも着目しなくてはいけない。

 今回の新しい検査方法は中国選手に対する抑止力を高めるものではなく、「フェアな用具を使う卓球」への変身を目指したものだ。さらに今後、はがしたラバーをガスクロマトグラフィー(化合物の機器検査)にかけ、出荷時のラバーと違う成分を持つラバー(後加工)を使用した選手に厳しいペナルティーを与えるなどのルールを強化していかければ、この後加工問題(用具ドーピング)は解決しないだろう。(今野)
  • 中国選手のラケットに貼られている中国製ラバー。表面が不自然に波打っている