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中国リポート

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◎遼寧省出身の女子選手
[瀋陽市]張瑞・于夢雨(ユ・モンユ/シンガポール)・侯美玲(フー・メレク/トルコ)・周シントン・周一涵(ジョウ・イーハン/シンガポール)・陳幸同
[鞍山市]王越古(シンガポール)・韓莹(ハン・イン/ドイツ)・單暁娜(シャン・シャオナ/ドイツ)・李暁霞・郭躍・常晨晨・石磊(石賀浄/韓国)・曹麗思・王芸迪
[撫順市]王楠・木子・劉詩ウェン
[丹東市]文佳
[錦州市]胡玉蘭・李佳・李佳イ
[本渓市]朱香雲


 実に5人の女子世界チャンピオンを輩出している遼寧省。1973年世界選手権サラエボ大会優勝の胡玉蘭は、男女を通じて中国初のシェーク攻撃型の世界チャンピオンだ。もともとカット型だった胡玉蘭だが、カット型の先輩である林慧卿・鄭敏之を超えるのは難しいと、71年名古屋大会後に担当コーチの梁友能とともに攻撃型への転向を決断。73年サラエボ大会ではカットも交えるオールラウンドプレーで初優勝した。

 胡玉蘭と梁友能には、中国卓球界では有名な「錦嚢妙計」の故事がある。サラエボ大会の際、梁友能は中国選手団に加わることができず、愛弟子に二通の封筒を授けて言った。「すぐに開けてはいけない。大会で困難に遭遇した時はひとつ目の封筒を開け、再び困難に見舞われたら、ふたつ目の封筒を開けなさい」。

 女子団体決勝リーグで韓国に敗れ、優勝を逃して落胆に沈む胡玉蘭がひとつ目の封筒を開けると、こう書いてあった。「林慧卿に学べ、名古屋大会の団体戦で敗れても、そこから教訓を学び、盛り返して個人戦で3つの世界タイトルを奪取したのだ」。ふたつ目の封筒を開けたのは、準々決勝のロドベリ(スウェーデン)戦でのベンチ。左腕を傷め、敗色濃厚な胡玉蘭が開いた手紙には、「勝つか負けるかは、ここでの頑張りに懸かっている。奇跡は往々にして、あと少しの努力の先に生まれる」とあった。奮起した胡玉蘭は逆転勝ちし、頂点へと駆け上がった。

 師弟の絆と、絶対的な信頼関係がもたらしたタイトル。56年世界選手権東京大会で、「大会が終わるまで開けてはいけない」と渡された封筒に「優勝おめでとう」と書かれていた、大川とみ(56年世界女王)と矢尾板弘の逸話を想起させる。胡玉蘭は現役引退後、国家チームのコーチを務めた後に1987年にフランスに渡り、フランス女子チームの監督としても多くの選手を育てた。

 また、遼寧省の女子選手のひとつの特徴として、1990年代から2000年代にかけて、サウスポーの選手が多かったことが挙げられる。世界選手権3連覇(99・01・03年)の王楠を筆頭に、中国スーパーリーグの遼寧鞍鋼で王楠とツインエースを張った郭躍(07年世界選手権優勝)、04年世界ジュニア決勝で劉詩ウェンを破って優勝した常晨晨、「王楠2世」と呼ばれた08年前中国チャンピオンの文佳など、枚挙にいとまがない。ただし、プレースタイルはそれぞれに個性的であり、王楠と郭躍というふたりの世界女王を比べても、スタイルは全く違う。

 両ハンドの安定性と守備力が抜群だった王楠は、中国女子が「男性化」に突き進む前夜に生まれた「不敗の女王」だ。2008年北京五輪で女子団体優勝を果たして現役を引退し、世界選手権・オリンピック・ワールドカップで獲得したタイトルは実に「24」に達した。北京五輪の翌月には実業家の郭斌さんと盛大な船上結婚式を挙げ、「実業界に転身か?」と話題になったが、実際には09年に「共青団(中国共産主義青年団)」の一員となり、政界入り。19年には中国共産党中央宣伝部のレクリエーション・スポーツ部門の部長という要職に就いている。

 一方、王楠の10歳年下である郭躍は、史上最年少の11歳で国家2軍チームのメンバーとなり、2004年の世界選手権団体戦で早くも世界チャンピオンとなった早熟なプレーヤー。ボーイッシュなルックスで、抜群のスイングスピードから放つカミソリドライブが武器だった。

 2007年世界選手権で19歳にして初優勝を飾り、12年ロンドン五輪では団体金メダリストとなった郭躍。しかし、後に首の故障に苦しみ、生まれ故郷の鞍山市で行われた13年全中国運動会でも首を傷めて団体とシングルスを棄権。翌年の世界代表選考会「直通東京」のさなか、練習態度や卓球へのモチベーションの低下を指摘されて国家チームを外され、そのままラケットを置いた。国家チームの引退式典にも出席せず、天才少女の去り際はあまりにも寂しかった。

 その後、金融財務のMBA(経営学修士)を取得した郭躍だが、現在の肩書きはいわば「タレント」。知名度を生かしてテレビのバラエティ番組や話題のネット動画に登場し、社会奉仕の活動なども行っている。現役時代より大幅に減量し、メイクをバッチリ決めた姿には、かつての「假小子(おてんば娘)」の面影はない。
 ……ここで紙幅(紙じゃないですけど)が尽きました。遼寧省・女子編その2に続きます。
  • 中国初のシェーク攻撃型のチャンピオン・胡玉蘭

  • 世界選手権3連覇の王楠は、現在は政界でも活躍

  • 05年に岡山県総社市で行われたスーパリーグ開幕戦、笑顔を見せる福原愛さん(右)と王楠

  • 史上最年少記録を次々に塗り替えた郭躍(07年世界女王)

  • 04年世界ジュニア優勝の常晨晨。日本リーグの日本生命でもプレー

  • 王楠によく似たプレースタイルだった文佳

  • この人も遼寧省出身。13年全中国運動会ベスト8のペン粒高・周シントン