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欧州リポート

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 現在世界ランキング37位、2015年世界選手権女子シングルスでベスト16に入るなど、スウェーデン女子のエースとして活躍してきたマティルダ・エクホルムが引退を発表。ITTF(国際卓球連盟)のホームページでコメントを発表した。

 引退に関しては、明確な理由はなく様々な要素があった上で「徐々にそうした気持ちが出てきた」とのこと。そのひとつにプラスチックボールへの移行をあげ「回転を重視した私のスタイルでは、プラボールでは不利になる。それを補うためには、さらにトレーニングを積む必要があり、それは私の年齢(38歳)では難しいと感じた」とコメント。また「選手としてでなくても、スポーツに貢献することはできる」と感じ始めたことも引退を決断した理由のひとつだという。

 スウェーデン・リンショーピングで生まれたエクホルムは兄の影響で卓球を始めた。13歳までは卓球のほかにサッカーもしており、卓球の練習は「週2、3回で1回1時間ほどだった」と以前、弊誌のインタビューで語っている。ナショナルチームに入ったのは18歳の頃で、相当に遅いケース。しかしそこから頭角を表し、スウェーデン女子のエースに登り詰め、2017年4月には20位まで世界ランキングをあげた。
 長身を活かし、女子選手にしては珍しくロビングも交えた中陣・後陣からの両ハンドドライブを武器にした男性的なスタイルのエクホルム。これは誰かに指示されたわけなくプレーする中でナチュラルにたどり着いたスタイルだったという。また、10代から20代前半まで男子選手と練習することが多かったことも、ひとつの要因だったと分析した。

 そしてエクホルムと言えば、出場資格を獲得しながらも2度オリンピック出場を逃した「悲劇のヒロイン」。2008年北京、2012年ロンドンと2大会続けて予選を通過しながらも、スウェーデン五輪委員会から「世界でベスト8に相当する実力」という派遣基準を満たしていない、「年齢的に将来性を見込めない」などの理由で出場を承認されず。ロンドン五輪の際は、世界最終予選で優勝しながらも涙を飲んだ。
 落胆するエクホルムを支えたのは、スウェーデン卓球協会や周囲の人々だった。ロンドン五輪の際には、ITTFがエクホルムを会場に招待。こうしたサポートに対し「私が前を向いてプレーするために重要なサポートだった」とエクホルムは感謝を述べた。そして2016年リオ五輪でエクホルムはついに五輪の舞台に立つ。3回戦で田志希(韓国)に敗れたが、「リオでのプレーは素晴らしかった」と北京五輪から8年、34歳でつかんだ初の五輪を振り返った。
 「印象に残るゲームは?」というITTFからの質問に対しては自己最高のベスト16まで勝ち上がった2015年の世界選手権個人戦、地元・スウェーデンで開催された2018年の世界選手権団体戦をあげた。特に2018年大会ではグループリーグで全勝、シンガポール戦では相手エースの馮天薇を下すなど「ハルムスタッドでのパフォーマンスは一番印象深い」と述べている。

 また、「これまで対戦した中で強いと感じた選手は?」という質問にも答えており、「1ゲームで6点以上取ったことがない」と陳夢(中国)をピックアップ。また、当時12歳の伊藤美誠(スターツ)に敗れたことを、「今では納得できるし、笑えるけど、当時はそうではなかった」と印象に残る選手のひとりにあげた。

 引退後は新型コロナウイルス感染症が収まれば、夏の終わりにパートナーの暮らすニューヨークへ移住し、今後どのように卓球に関わっていくかゆっくり考えたいとコメント。また、ハルムスタッド大学でスポーツ科学について学び、学位を取得することも楽しみだと言う。

 2度の悲劇を味わいながら、決して折れない不屈の魂で五輪の舞台に立ったエクホルム。偉大なオリンピアンのこれからに、幸多きことを。
  • リオ五輪でプレーするエクホルム