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 日本には、全国に卓球のスポーツ少年団がある。民間の卓球場が作るクラブチームではなく、いわゆる地域スポーツのクラブだ。主に小学生が中心となって活動する。
 そんな町のスポーツ少年団から五輪代表が輩出されるのは極めてまれで、しかも二人も代表選手が出るというのは卓球界でも聞いたことがない。ましてやその二人がすでに五輪メダリストで、今度は混合ダブルスを組むというのは世界中を見ても、まず例がない。

 卓球の東京五輪代表の水谷隼(木下グループ)、伊藤美誠(スターツ)は、静岡県の豊田町卓球スポーツ少年団の出身である。30歳の水谷と19歳の伊藤は年の差もあり、同じ時期に練習を一緒にやったことはないのだが、家は近所だった。

 月刊卓球王国の最新号(6月号)で、この二人の「最強ジュン・ミマ対談」が実現した。3月10日頃から東京五輪の延期の空気が流れはじめ、五輪用の企画をやめて新しい特集を模索する中で、3月のカタールオープンの混合ダブルスで優勝した水谷、伊藤の対談を企画し、所属スポンサーを通して二人に打診した。テーマは「新型コロナの影響でうつむきがちな卓球愛好者を元気にする」ことだった。本人たちは快諾。こちらがマネージメント会社から返事を待っている間に、二人は連絡を取り合い、盛り上がっていたらしい。

 そして、まだ練習ができていた3月25日に対談は実現した。4月7日に緊急事態宣言が発令されたことを考えれば、対談の実現はギリギリのタイミングだった。

 多忙な二人。特に伊藤は本拠地、大阪ではなく、東京での合宿の合間に時間をいただいた。水谷も最初は「何日の午後か、何日の……」と言っていたのだが、うまく日程調整ができなくなると、「もう、ミマのほうに合わせます」と言ってきた。最初から主導権は伊藤が握っていた。

 この二人の対談がすんなりと終わるわけがない。幼なじみでもなく、先輩後輩でもない、まるで兄と妹のような二人の対談の時間を少しでも長く取りたいので取材時間を交渉。対談前には二人の卓球王国用の表紙撮影もあった。本来、ヘアメイクをつけるべきところを伊藤自ら「当日、自分でナチュラルメイクでスタジオに行きます」と言ってくれた。これで20分ほど対談の時間を長くできる。ところが、一方の水谷が「当日はメイクがつくんですよね」と言ってきた。「いや、美誠ちゃんのほうが自分でメイクをするのでつけないと言ってきた。隼も自分で、ということでよろしく」とお願いした。

 対談当日、まず水谷を車で迎えに行く。車に乗るなり、水谷は「ミマ、まだ寝てるんじゃないの。今、美乃りさんがトレセンの中をものすごい勢いで走ってました」と笑っている。少し早めに行って準備でもしようかと思い、スタジオに向かうと5分くらいで到着。「2階で中川(スタッフ)が待っているから、降りて、先に行ってて」と水谷を降ろし、駐車場探し。ぐるぐる回りながら、駐車場に止めると、中川から電話が入る。「今、隼から電話が入っています。たぶん、違う場所にいますよ」。聞くと、このスタジオには1号館と2号館があり、別のスタジオに降ろしたらしい。すぐに戻ると、水谷が降ろした場所で待っていた。取り残された王者は慌てる様子もなく、悠然としていた。

 ほぼ同じ時間に伊藤も到着。すぐに表紙の撮影が始まる。二人の表情は自然体で、大物・伊藤の落ち着きはわかるとしても、水谷もリラックスして良い表情を見せる。そして、15分後からいよいよ対談がスタート。
 ちょうど前日に東京五輪の延期も決まったので、その話からスタートすると、「この1年間、相当に疲れていたので、1年後のほうが良かった。準備期間として、もっと強くなれる」と水谷が言えば、「リセットはしない。さらにやり込んで、成長する部分しかない」と伊藤も意気込みを語る。
 
 混合(ミックス)ダブルスのペアリングについて水谷に聞くと、「美誠は単純に実力が違う。相手の女子選手と美誠は圧倒的に力が違うから、負けるわけがない」と絶賛。「ぼくが思っている以上に、美誠が返球するので自分の反応が遅れることが多い」と苦笑い。通常、卓球のダブルスは二人が1球ごとに交互に打球するため、混合ダブルスで女子が相手の男子のボールを受けるのは相当に大変なことなのだが、伊藤はこう言う。「何とかラケットに当てて男子のボールを返せば、次が隼だから大丈夫。私は男子選手のボールを打つのがすごく楽しい。(男子世界2位の)許シン選手のボールを受けるとワクワクする」。世界2位の超人コメントだ。

 中学2年でドイツに卓球留学していた水谷だが、実家に戻ると、歩いて5分くらいの伊藤の家にしょっちゅう遊びに行っていたらしい。対談ページの中では、小さい伊藤をおんぶする水谷、という秘蔵写真も披露されている。
 来年、東京五輪が開催されれば、二人の混合ダブルスは大注目の金メダル候補になるだろう。二人の息はまさにピッタリ。プレー中にかける言葉は少なくとも、パートナーが何を考えているかを知っている兄妹(のような)コンビである。

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  • 延期になった東京五輪で金メダルに期待がかかる水谷・伊藤ペア