●平成27年度全日本選手権速報

【条太】えっ?サポートの支柱の上でボールが静止!?

2016/01/11

 審判は、ルールで規定しきれない想定外の事態にも毅然と対応しなくてはならない。

 国際審判員の講習会で出された例題に、次のようなものがあったという。

「ラリー中にボールがサポートの支柱の上に乗って静止したらどうするか?」

 バカ気た設問だと思うが、審判はこういう問題にも迷うことなく判断をしなくてはならない。審判が迷ってはいけないのだ。

 ノーカウントにすれば良いという単純なことではない。ボールが静止したとはいえ、まだラリー中なのだから、審判といえどもルールに基づいた根拠がなくてはラリーを中断することはできないのだ。たとえばそのまま促進ルールが適用されるまで待って促進になったタイミングでラリーを中断する(促進が適用されるときには審判がラリーを中断することになっている)などという判断の仕方も有り得るわけだ。まるで裁判所の判決みたいな固い考え方だが「Laws of Table Tennis」の字義どおり、卓球のルールとは法律なのだ。

 このように、審判にはあらゆる想定外の事態にも毅然と判断できる能力が求められる。全日本の決勝で、審判があれほど仰々しく紹介されるのは、彼らがそのための知識と論理と判断力をまとった鉄人たちだからなのだ。   (伊藤条太・卓球コラムニスト)

【速報】なぜ選手は全日本で泣くのか

2016/01/11

 なぜこの全日本は選手を泣かせるのか。
 ふだん会ったときにヘラヘラしてる選手も全日本会場では思いつめたように前を凝視したり、うつむいて顔を合わせなかったりする。声はなかなかかけられない。
 シングルスでラウンドが進めば進むほど、選手たちは感情を抑えられなくなる。勝っても負けても、ミックスゾーンで涙を流す選手たちがいる。
 全日本に賭ける気持ちを彼らは試合が終わったときに抑制できない。年を取るとこちらももらい泣きをする。
 頼むよ、おじさんを泣かせないでくれ。  (今野)


  • 昨年の大会の4回戦で敗れた田中満雄(シチズン)。現役最後の試合、ベンチで泣く

【速報】陰の帝王、吉田海偉の恐るべき安定感

2016/01/11

 2004年度の全日本選手権で8年越しの夢を叶えた男がいた。
 宋海偉、改め「吉田海偉」(Global Athlete Project)。高校1年に青森山田高に留学し、いきなりインターハイで優勝。まわりの先輩後輩がナショナルチームの合宿や遠征に出かけるのを横目で見ているしかなかった。
 「オレのほうが強いのに、なぜ試合に出れないのか」という悔しさを吉田は8年間持ち続けていた。全日本選手権と世界選手権に出るために帰化したと言っても過言ではないだろう。負けるわけにはいかなかった。2004年に優勝して「優勝するのは当たり前」と言い放った。

2004年度(優勝)・05(優勝)・06(2位)・07(2位)・08(3位)・09(2位)・10(4位)・11(13)・12(−)・13(3位)・14(7)

 日産自動車に入り、帰化してから出場した全日本選手権は11回。この11年間で優勝2回、準優勝3回、3位が3回、ランク落ちしたのは1度だけという水谷に次ぐ抜群の成績を残している。もし水谷がいなかったらあと2、3回は優勝記録を伸ばしたかもしれない。しかもシェークドライブ全盛の時代に、裏面を使わないペンドライブ型の希少価値もある。
 ポーランドリーグで活躍するプロフェッショナルは34歳。この年齢でも俊足フットワークとフォアハンドのパワードライブは健在だ。
 外シードで拾っていけば、吉田はランク決定戦で水野裕哉(東京アート)、ベスト8決定戦で軽部隆介(シチズン)と坪井勇磨(筑波大)の勝者。そして準々決勝で第1シードの水谷隼(beacon.LAB)と対戦する。  (今野)*文中敬称略

  • 昨年、塩野のカットを粉砕して拳を上げる吉田海偉

【速報】なぜ全世界がこの「全日本」に注目するのか

2016/01/11

 いよいよ今日から全日本選手権が始まる。世界の卓球の盛んな協会を探しても「全日本選手権」ほど「熱い国内選手権」はないだろう。
 ヨーロッパではほとんどの協会が2月中旬に国内選手権を行う。ブンデスリーガやフランスリーグにヨーロッパ中の強い選手が参戦しているために、国内選手権用の週を作り、そこに集中させ、その週は各国のプロリーグも休みとなる。

 しかし、トップ級の選手が出場しない選手権もある。日本のように強い選手が必ず参戦し、しっかりと運営された国内選手権は珍しい。
 またこの2年ほど「全日本卓球」としてブランディングまでされ、イベントとしてショーアップされる国内選手権も聞いたことがない。海外から視察や商用で訪れる関係者も、その大会の運営、イベントとしてのレベルの高さ、選手のレベルの高さに一様に驚く。
 特に近年では日本選手の世界ランキングも上がり、文字どおり世界のトップレベルの試合が見られる大会になっている。昨年はのべ25000人ほどの観客も詰めかけ、その集客力にも海外の人は驚く。

 2年連続で全日本選手権を観戦した元世界チャンピオンのガシアン氏(フランス)は昨年、卓球王国に「選手はまるでこれが五輪の舞台かのごとく闘争心をむき出しにして戦っている。観客、メディアにとってもこの大会が特別なものだというのはひと目でわかる。よりプロフェッショナルな運営になり、全日本がひとつのマーケティング商品としての価値を高めている」と語っている。  (今野)
  • 昨年は照明も工夫され、周りをライトダウンして荘厳な雰囲気が出ていた

【速報】ジュニア優勝者が一般で優勝する確率は13% 

2016/01/10

 戦後からの全日本選手権(1946年・昭和21年度)でジュニア種目が始まったのは1950年度からだが、それ以降、114人の男女ジュニアチャンピオンが生まれている。
 しかし、この中から一般のシングルスで優勝したのは実は少ない。男女合わせて15人だ。ジュニアチャンピオンになった13%の人しか一般では優勝できていない。

 古い順に列記しよう。
 成田静司・山中教子・河野満・大関行江・横田幸子・阿部博幸・岩崎清信・齋藤清・佐藤利香・今枝一郎・平野早矢香・福原愛・水谷隼・石川佳純・丹羽孝希

 ただ最近は卓球を始める年齢が早まっているために、福原・水谷・ 石川 ・丹羽のように中学生でジュニアチャンピオンになる選手がいる。それは卓球の開始年齢が低年齢化しているためだろう。中学生での優勝は昔では考えられなかった。なぜなら中学から卓球を始める選手が多く、早くても小学5、6年というのが一般的な時代だったからだ。
 ジュニア最多優勝は石川佳純の4年連続の4回。すごい記録だが、今年小学6年生の張本智和が史上最年少の記録を塗り替える可能性がある。大会前半の注目は張本の戦いになる。 (今野)

  • 2007年度のジュニアチャンピオンの石川佳純。石川はジュニアで4回優勝した

【速報】北海道か沖縄で全日本をやってもいいはずだ

2016/01/10

 今でこそ全日本卓球の聖地は東京・千駄ヶ谷の東京体育館と言われているが、「東京でなければいけない」というルールはない。日本卓球協会の理事会で、どこかの道府県が名乗りを上げて立候補したら協議されることになるのだろう。ただしマスコミ対応、選手の利便性などを考慮して無難に東京開催が続いている現状だ。

 戦後の全日本選手権は愛知、神奈川、香川、長野、京都、徳島、奈良、埼玉などで開催されている。
 2000年度に愛知で開催されてからはずっと東京開催だが、地方の人、西日本や東北の人にとっては全日本選手権観戦で簡単には東京には行けない。確かに大会運営からすると東京都卓球連盟のように勝手を知っている役員が多いのは心強いだろうが、卓球の普及ということを考えると地方開催も良いのではないか。 (今野)
  • 昨年の最終日、東京体育館の前は長蛇の列

【速報】歴史に残る松下浩二の伊藤誠戦での大逆転

2016/01/10

 歴史に残る名勝負が毎年繰り返されるのが全日本選手権だ。
 1993年12月の全日本。男子シングルスの準々決勝で松下浩二(当時日産)は伊藤誠(シチズン)と対戦した。二人は同期で高校時代からのライバルだった。カット打ちには定評のある伊藤の強打が松下のカットを襲う。
 当時は21点制の5ゲームスマッチ。1−2とゲームをリードされた松下は4ゲーム目も14−20とマッチポイントを取られた。試合を見ていた誰もが伊藤の勝利を疑わなかった。しかし、ここから松下は8本連取して、大逆転劇を成功させ、そのまま初優勝に突き進んだ。

 この1992年12月末に松下は協和発酵を退社し、1993年1月に日産自動車とプロ契約をしていた。今でこそアマ、プロ関係なくなり、水谷のようにプロ選手も数多く活躍する日本の卓球界だが、93年当時はプロ選手は登録制で、「私はプロ選手として宣言します。ついては協会として認めてください」という申請をしなくてはいけない時代だった。
 松下浩二はプロ第1号として申請したものの、申請直後の93年世界選手権イエテボリ大会の日本代表から外されていた。松下にとってこの時の全日本選手権は「プロとして勝たなければいけない大会」だった。
 
 その追い詰められた状況で、知らない力が彼の勝利への執念になった。それまではどちらかと言えばリードされると諦めるタイプだった松下だが、環境や意識が彼自身を変えたと言えるだろう。
 「〝これで負けるのか〟と一瞬、頭をよぎったが、目に飛び込んできたのは自分を応援してくれた人たちの姿だった。その人たちのためにも試合を捨てるようなことはできない」「あの時の優勝は自分のキャリアの中でもとても大きなターニングポイントになった」と松下は語る。
 全日本選手権はさまざまなドラマがある。そしてその勝敗が選手の人生を変えることもあるのだ。   (今野)*文中敬称略

  • 何かが乗り移ったような松下の大逆転。手前は伊藤

【条太】全日本を見に行くとどんな目にあうのか

2016/01/10

 全日本選手権を見に行くと、一般の卓球愛好者の試合では決して見ることができない光景を嫌でも見せつけられることになる。

 卓球ほど手軽なスポーツはない。子供からお年寄りまで、浴衣とスリッパで温泉で行えるスポーツ。虚弱体質や運動音痴で、とてもスポーツができなさそうな生徒が「これならできそうだ」と思うスポーツ。

 そんなべらぼうに広い入り口を持ちながら、同じルールによる最高峰のプレーのこのアスレチック性の高さ。この驚異的なダイナミックレンジの広さが卓球の「スポーツの中のスポーツ」「キング・オブ・スポーツ」たるゆえんだ(言ってしまった)。  (伊藤条太・卓球コラムニスト)

  • 吉田海偉の後陣ドライブ。ボールがまるでピンポン球のようにすっ飛んでいく。

  • 水谷の背面ロビング。ボールは遥か上空だ。

  • 水谷のぐんにゃり曲がる厳しすぎるボールを拾う神。

  • 塩野のラケットが床に着くほどの吉田のドライブの回転量の凄まじさ。

【速報】憧れの7ゲームズマッチ。中国では9ゲーム?

2016/01/10

 全日本選手権の一般シングルスでは、4回戦から試合はすべて7ゲームズマッチで行われる。草の根のプレーヤーにとって、「7ゲームズマッチ」と「タイムアウト」は憧れの的。「5ゲームズマッチでも疲れるのに、7ゲームズマッチの7ゲーム目なんて、どうなってしまうんだろう?」と思ったこと、ないでしょうか?

 7ゲームもあると、1ゲーム目を落としても十分に挽回は可能だと思えてしまう。しかし、過去5年間の全日本決勝を振り返ると、1ゲーム目を落として優勝したのは平成24年度大会の福原愛だけ。さらにさかのぼって、11点制が採用された平成13年度大会以降の統計を取ってみると、1ゲーム目を取った選手の勝率は78.6%に達する。逆に言えば、1ゲーム目を落とした時点で、勝率は2割程度になってしまうということだ。

 ちなみに、昨日まで行われていた中国の世界代表選考会・第2ステージの男子では、なんと9ゲーム制が採用されている。しかもタイムアウトが2回取れる。5日かけて行うゆるやかな日程ではあるが、「プラボール時代は故障が一番の敵」と言いながら、こんなハードな試合を選手たちに課す劉国梁総監督のサディストぶりは相変わらず。優勝して代表第1号になった許シンは67ゲームを戦い抜き、周雨を相手に「0ー4」から5ゲーム連取で逆転した張継科曰く「最後のほうはレシーブで手が震えちゃったよ(笑)」。

 9ゲームズマッチは例外として、7ゲームズマッチを戦い抜くトップ選手たちの気力・体力・集中力は本当にすごい。思い出されるのは平成20年度の女子シングルス決勝。平野早矢香と王輝の、ループドライブとカットの粘り合いはすさまじかった。今年もまた、手に汗握る熱戦が見られるはずだ(柳澤)。
  • 編集部が泣いた! 平成20年度の女子決勝、平野早矢香対王輝

【速報】一般シングルスに初挑戦。クールな天才、木原美悠

2016/01/10

昨年ジュニアで4回戦進出を果たし注目を集めた小学5年、11歳の木原美悠(ALL STAR)が、今年は一般シングルスに初挑戦する。

ミウミマをはじめ、多くの天才少女たちを見てきたが、木原は彼女たちとはまた違った不思議な強さがある。
得点しても、失点しても、表情は変わらず、常にポーカーフェイスなのだ。その飄々とした戦いぶりは、元気いっぱいな小学生プレーヤーの中では異彩を放っている。劣勢の中でも動じず、冷静に相手の弱点を見極め自分の流れに持ち込んでいける、ハートの強さと試合運びのうまさが彼女の最大の長所と言えるだろう。木原自身も「普段からゲーム練習がメインなので、試合で緊張することはない」と語っている。

以下は、木原の父・博生監督のコメントだ。

「ゲーム練習を多く行う理由のひとつは、「試合慣れ」をさせるためです。コースを決めた練習ばかりだと試合の感覚がつかめないし、本番で緊張しやすくなってしまう。大会では練習せずにすぐ試合になることもあるので、チームの練習でもストレッチをしてからすぐ試合をさせることもあります。
 また子どもの場合は、ゲーム練習の中でいつもと違う技術をやったり、コースを狙うなど、遊び感覚でいろいろと挑戦して、選手自身で新しい感覚を発見できるというメリットがあります。美悠に対しても、練習法やプレースタイルなどをガチガチに固めず、ある程度自由にやらせているので、それが実戦での強さにつながっているのだと感じています」(卓球王国2015年6月号から引用)

プレースタイルは、バック表のいわゆる“女子卓球”といった感じで、まだまだ力強さはないが、サービスがうまく、フォアの得点力も高い。「カットマンは得意です」と本人が言うように、苦手な戦型もなくオールラウンドな対応力があるのも魅力だ。

木原の初戦は13日11時半〜、相手は大学生。2020年東京五輪を狙う期待の星が、大舞台でどんな戦いを見せるのか注目だ。 (渡辺)※文中敬称略
  • 相手を見据える木原

  • コートの外では普通のキュートな小学生です