卓球王国
すべての卓球バカに送る渾身の卓球バカ本『卓球にとり憑いた男。岩城禎の人生』

すべての卓球バカに送る渾身の卓球バカ本『卓球にとり憑いた男。岩城禎の人生』

卓球王国2020年8月号に書いた『卓球に取り憑いた男』が、6年の歳月を経て一冊の本になった。トップ選手になるために必要な練習時間が1万時間と言われる中、3万時間という破壊的な練習量を費やしながら、あまりの才能のなさに、トップ選手どころかインターハイにもインカレにも全日本にも出られなかった岩城禎さんという選手の半生を描いたノンフィクションだ。

弁護士を父に持つ裕福な家庭に育ち、全国模試で1位を獲って神戸大学法学部に入るほどの知性を備えていながら、卓球のために司法試験をあきらめ、公務員も辞めて投資家となって、週に18回も練習をする岩城さんの人生には、誰もが驚愕させられるだろう。

岩城さんは、卓球王国の掲載から半年後の2021年1月の全日本で、35歳で奇跡の初出場を果たした。その初戦の相手が当時中学1年生だった松島輝空となったことから、その好対照のプロフィールが試合前からメディアで話題となった。

そのときにKADOKAWAの編集者から「ぜひ岩城さんの本を」とメールが来たところから本書の執筆が始まった。卓球王国に書いた記事は、ほとんど岩城さん本人へのインタビューだけで書いたものだったので、そこから、奈良、大阪への取材旅行を皮切りに本格的な取材を始め、最終的に30人ほどからお話を聞かせていただいた。

その結果、岩城さんが意識していなかったり忘れていたような面白エピソードや失敗談、迷惑話が次から次へと出て来ることとなった。

そこから浮かび上がってきたのは、岩城さんがなぜここまで人生を棒に振って卓球をしている(他人から見ればだが)のか、卓球をするというのはどういうことなのか、人生の幸せとは何なのかということだった。

全国には岩城さん同様に、卓球に「とり憑かれた」のか「とり憑いた」のかわからないような卓球バカが無数にいるはずである。岩城さんによるあとがきの中にある「もし皆さんが、何かに躓いて自分には才能がないと腐りそうになったら、3万時間練習して中学生に18分で負けた僕のことを思い出して笑ってください」というフレーズが象徴するように、本書はそれらの人々の共感と慰めと指針にもきっとなるはずだ。

加えて、岩城さんの話にかこつけて、これ幸いとばかりに卓球の歴史、選手や指導者のあるある話もたっぷりと盛り込んである。孔令輝、荻村伊智朗、長谷川信彦らの名前やら「3点フットワーク練習」などという単語が出てくるとなればそのトーンは見当がつくことだろう。

要するに本書は、卓球バカが卓球バカについて書いた卓球バカのための類まれなる本なのである。ぜひお手にとっていただきたい。(伊藤条太)

「神戸TCスタジオ」でレッスンを受ける岩城さん 投資で稼いだお金を惜しげもなく卓球に注ぎ込むスタイルだ

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