合成ゴムを使うリスクを
『マーク V 』 は見事に克服した
東南アジアで栽培されるゴムの木。その白い樹液がいわゆる天然ゴムの原料だ。採取する時には白いドロッとした液体だが、固まると綺麗で透明度の高い琥珀色のゴムの塊になる。一方、合成ゴムとは天然資源ではなく、薬品によって作った人工の素材だ。弾性にすぐれているが欠点もある。それは、耐久性である。
引っ張りに弱く、ぶつけた時には裂けやすい性質を持ち、劣化しやすい点だ。天然ゴムと合成ゴムを混ぜながら、薬品の配合によって耐久性を克服したものが『マーク V 』 だった。
これだけの画期的なラバーだったが、すぐにはヒットとならなかった。前述したように、それまでのラバーと格段に違う弾性だったために、トップ選手でさえも使用することをためらったのだ。
ところが、71 年世界選手権名古屋大会で、『マーク V 』 を使用した18 歳の新鋭、ステラン・ベンクソン(スウェーデン)が優勝を果たしたのをきっかけに大ブレーク。67 年に発売されたバタフライの『スレイバー』とともに、高弾性高摩擦裏ソフトが世界の卓球界のスタンダードになっていった。
1971 年の世界選手権でマーク V を使って優勝したステラン・ベンクソン。打球点の早いドライブにブロック、ストップと多彩な技を見せ、マーク V のオールラウンド性能を世界に示した
多くのトップ選手に使われた『マーク V 』 は、93 年世界王者のジャン−フィリップ・ガシアン(フランス)、全日本選手権8 回優勝の小山ちれなどのチャンピオンを生み出し、同時に一般愛好家の間でも大ヒット商品として選ばれるようになった。
1993 年に世界の頂点に立ったガシアン。マーク V を使った音速の貴公子。ライジングでとらえるカウンタードライブで一気にタイトルを獲得した
しかし、90 年代後半に、より高性能な「テンション系裏ソフト」が誕生し、後にスピードグルーの禁止も重なったことで、トップ層においては『マーク V 』 を使う選手は一気に減少。このまま「マーク V 時代」は終わるのかと思われたが、『マーク V 』 は“トップラバー”の地位から“初・中級者用の定番”に徐々にシフトしていった。
「弾みすぎ」と言われたラバーが、現在は「初心者にも最適」と評価されるようになり、発売から半世紀経つ現在も売れ続けている。スピードグルーが禁止されている今でも、マスターズなどのベテランの層でも『マーク V 』 の人気は相当に高い。一度使ったユーザーを離さない魅力がこのラバーにはある。
発売当時から一切製法が変わらない安心感のある性能と品質、そして長年積み上げてきた唯一無二のブランド力が、“裏ソフトの大ベテラン”の変わらぬ人気の的になっている。
日本製ならではのグリップ力と
抜群のバランス性能
トップシートは少々肉厚で、粒の密度は詰まりすぎていないバランスタイプ。合成ゴムを入れて弾性を高めたとは言え、主体は天然ゴムなので、ボールの食い込みは良く、『マーク V 』 のグリップ力がある。
透明度のあるトップシート。品質の安定感と耐久性は近年のテンションラバーとは一線を画しているものだ
実にきめの細かいスポンジ。硬度は40 度から45 度の範囲だ
マーク V には「皮付き」がある。これはスポンジを焼き上げる時にプレス機に接着している面を言う。表面がやや硬くなり、通常のスポンジよりは打球感は硬めとなる。マーク V ではトップシート側が「皮付き」となる。
第3 回に続く
文=今野昇、渡辺友
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