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今月21日にカメイアリーナ仙台で行われた、2020年世界卓球団体戦(3月/韓国・釜山)の日本代表最終選考会だ。出場したのは、12月発表の世界ランキングで日本人の3位から8位までの6名に、1次選考会(10月22~23日/東京・赤羽体育館)の上位者3名、全日本大学総合選手権シングルス優勝者1名を加えた合計10名。この10名でトーナメント戦を行い、優勝者1名が出場権を得る。ちなみに、世界選手権には、今回の優勝者1名に、五輪出場者3名(1月6日に発表)、来年1月の全日本選手権の優勝者1名を加えた合計5名が出場する。五輪出場者が全日本選手権でも優勝するなど、複数の資格を重複して得た選手が出た場合には、日本卓球協会が不足人数分を推薦して5名とする。

かなり入り組んだ選考方法に見えるが、長年の試行錯誤によって、戦略と透明性のバランスを考慮して構築された選考方法だ。かつては戦略性だけで日本卓球協会が決定したり、逆に、全日本選手権1発の結果だけで機械的に決めたりした時代もあり、いずれにおいてもさまざまな不満や批判が巻き起こった。完全な選考方法はないのだろうから、かなりよく考えられていると思う。

最終選考会の位置づけは選手によって微妙に異なるが、勝ちたい気持ちは同じだ。全日本選手権での優勝は無理そうで、協会推薦も期待できない選手にとってはこれが唯一のチャンスだし、協会推薦が得られそうな選手にとっても、推薦による負い目や批判のない「自力での出場権獲得」への思いは強い。そこに選手ぞれぞれのドラマがある。

女子の選考会を見てあらためて感じたのは選手層の厚さだ。前週のグランドファイナルの女子ダブルスで優勝する快挙を成し遂げたばかりの長崎美柚(JOCエリートアカデミー/大原学園)が、1回戦で成本綾海(中国電力)に敗れた。「左利き」×「バック面表ソフト」という珍しい要素が二つも重なった選手だ。グランドファイナルで長崎のパートナーだった木原美悠にいたっては、1次選考会で6位となり(長崎は全勝1位)、最終選考会に出られてさえいない。石川、伊藤、平野といった誰もが知っているトップ選手の下には、紙一重の差でチャンスを狙っている選手たちがひしめいている。1本の差が選手人生を決める。

その中から決勝に進んだのは、過酷な五輪レースを戦い抜いた平野美宇(日本生命)と早田ひな(日本生命)だった。平野は、成本に苦しんで勝った後、昨年優勝の加藤美優に第6ゲームを17-15で取る劇的な勝利。加藤が号泣して会見ができなかったほど壮絶な戦いだった。一方の早田は昨年、その加藤に準決勝で最終ゲーム10-5から大逆転負けする地獄を見ており、なんとしても優勝したい大会。1回戦で橋本帆乃香(ミキハウス)、2回戦で佐藤瞳(ミキハウス)といった世界レベルのカットマン二人をドライブで粉砕して決勝に上がってきた。相手が五輪選手だろうが何だろうが絶対に勝ちたい。

しかし平野は強かった。そして力強かった。試合後に「もうポイントは関係ないので」「世界ランキングに関係ない試合なので」と幾度も語ったように、プレッシャーから解放された平野は、フォアハンド、バックハンドともに強烈なドライブを連発した。特に、バック側の遠いボールに対して、腕を延ばして体の外で打つバックハンドドライブには目を見張った。長く地道なトレーニングによる筋力なくしてはできない技だ。まだ五輪代表が決まっていない現状では、この大会の戦いぶりが選考にまったく関係がないとは言い切れないことは本人もわかっているはずだが、何より世界ランキングの呪縛から逃れられた安堵感があまりにも大きいのだろう。その結果、プレッシャーによって封印されていた平野のパワーが一気に噴き出した形だ。それほどのプレッシャーの中で平野が続けていた努力を思い、目頭が熱くなった。「結果よりも自分のプレーを優先することで良いプレーにつながることがわかり勉強になった」「追い込まれた状況でも今日のようなプレーができなければ勝てないことがわかった」と語った平野。五輪のシングルス代表は逃したが、熾烈な代表レースからもっとも大きな収穫を得たのは、もしかすると平野かもしれない。

なお、翌日行われたジャパントップ12では、準決勝で石川佳純(全農)を破り、決勝では惜しくも伊藤美誠(スターツ)に敗れた。

男子では、1回戦からいずれのコートでも高レベルのプレーが展開された。個々のラリーではすべての選手がファインプレーと言ってよいプレーをし、少し見ただけではどちらが強いかわからないほどだった。わずかな確率の差が勝敗を決めている印象だ。特に目を引いたのは、チキータをカウンターする技術の進化だ。かつて張継科に代表される中国選手が高速チキータをやり始めたとき、どんなサービスを出してもレシーブから攻撃されてしまうため、丹羽孝希など「サービスを出す意味がない」とまで語ったほどだった。ところが最近の男子の試合では、チキータに対するカウンターが普通に行われるようになり、よほど威力のあるチキータでなければ、戻りが遅れる分だけかえって不利を招き、下手をすると「チキータをする意味がない」と言いかねない状況だ。チキータをカウンターで打ち抜く場面がほぼすべてのコートで見られた。

森薗政崇(BOBSON)と神巧也(T.T.彩たま)の決勝はあまりにも劇的だった。気合たっぷりの神が積極的に森薗を攻め立て、ゲームカウント3-0とリードし、初の世界選手権出場に王手をかけた。一方の森薗は随所に良いプレーがあるものの波に乗れず、何度も自分の太腿を叩いて気合を入れた。そこから徐々に森薗の精度が高まり、大逆転で2年連続の優勝を果たした。会見では「(団体戦なので)どれだけ試合に使ってもらえるかわからないが、練習からベンチでの所作まで、徹底して日本のために尽くしたい」と力強く語った。昨年優勝したときに男泣きに泣いた森薗の姿はもうない。

初の世界選手権出場を目前で逃した神は、会見で涙を堪えきれず「プロになったのも世界選手権に出るためだった、すべてこのためにやってきた」と絞り出すように語るのがやっとだったが、最後には「全日本選手権で優勝すれば出られるのでチャンスが消えたわけではない」と前を向いた。張本智和、丹羽孝希らの怪物や天才が文字通り命かけで挑んでくる全日本選手権という更に厳しい舞台に神は最後の望みを託す。

卓球選手が人生をかけて挑む世界選手権。その檜舞台に立てる選手はほんの一握りだ。その陰に無数の選手たちの挫折と涙がある。それを目の当たりにした、心揺さぶられる最終選考会だった。

文=伊藤条太(卓球コラムニスト)