ヴェガ イントロ

世界のラバー市場を変えた『ヴェガ』。
その戦略の裏にあったもの、そして
『ヴェガ イントロ』の投入

ヴェガ ヨーロッパ

ヴェガ ヨーロッパ
ヴェガ ヨーロッパ
価格:¥4,000+税
種類:スピン系テンション裏ソフトラバー
スポンジ硬度:42.5度

「マーケティング・ガイ」
フィリップ・キム社長の恐るべき戦略

 次々にライバル他社や卓球関係者を驚かすXIOM の戦略。
 『ヴェガ』の時にも他社が驚いたが、今回もドイツラバーとしては最安値のラバーを販売したことで話題を振りまいた。
 XIOM というメーカーはマーケティングカンパニーとも言われている。市場を見ながら、驚きの価格や性能のラバーを惜しげもなく投入する会社だ。
 社長のフィリップ・キム氏は別名「マーケティング・ガイ」。元もと父親が経営していた韓国の『チャンピオン』というスポーツメーカーを引き継いだ。

 フィリップ・キム氏は韓国の名門・延世大学を卒業後、KIA 自動車、韓国投資金融銀行を経て、アメリカのノースキャロライナ大学に留学し、MBA(経営学修士)を取得。卒業後にアメリカ企業を経て、帰国。1998 年に『チャンピオン』に入社した。『チャンピオン』は主にホビー用の卓球用具を製造し、スケートシューズやウェアなども手がけていたが、2004 年には競技者用の卓球メーカーブランド『XIOM』(エクシオン)を立ち上げた。

 スピードグルー禁止に合わせて2008 年に先行発売した『テナジー』(当時6000 円)にぶつけて、09 年にXIOM がリリースしたのが『ヴェガ』。打球感がテナジーに近く、高性能でありながら、当時3500 円というドイツラバーとしては破格の価格で卓球市場に打って出た。そして現在でも多くのユーザーに愛されるモンスターラバーの存在になっている。

表舞台にはほとんど顔を出さないフィリップ・キム社長。13 年前にゼロからXIOM を立ち上げ、世界的なブランドに作り上げた。
「なぜ、表舞台に出ないのか?」と聞いたら、「そのほうがミステリアスでいいだろ」と不敵に笑った。
もともとは財務畑出身だ。

フィリップ・キム社長

ヴェガ イントロ

ヴェガ イントロ

『ヴェガ』と棲み分ける
『ヴェガ イントロ』。果たして
『マーク V 』 を食えるのか

 『ヴェガ』は世界の卓球市場を変えたラバーと言われている。低価格(3500 円)で『テナジー』(6000 円)に挑戦状を叩きつけ、当時、他社からも「なぜこの価格でこの性能のラバーが出せるのだ」と製造元に問い合わせが相次いだと言われる。
 フィリップ・キム氏の思惑は、「少ない利益でも一気にマーケット(市場)を寡占化し、その後に利益の取れる商品を投入していく」というものだった。

 実際に、『ヴェガ』は一気に卓球市場の中心に食い込み、今でも初級者から上級者までの幅広い層に支持されている。しかも、為替(国内外の通貨の価値の変動)による面もあるが、3500 円で発売された『ヴェガ』は現在4000 円。しかし、一度『ヴェガ』を使った人は確実に値段だけでなく、その性能とコストパフォーマンスゆえにリピーターになっている。『ヴェガ』こそ、マーケティングの成功例だろう。

 そんな「マーケティング・ガイ」が次に目をつけたのが、前述したように『マーク V 』 のセールスだった。エントリーユーザーを中心に熱烈な支持を受けるクラシックラバー。そこに挑戦状を突きつけたラバーが『ヴェガ イントロ』だ。
 同価格で、さらに弾むラバーをぶつけ、日本市場に君臨する『マーク V 』 のシェアを食っていくという、恐るべき戦略が透けて見える。
 『マーク V 』 のセールスは日本に特化したものだが、もちろん、『ヴェガ イントロ』は日本市場だけでなく、エントリーユーザーのシェアを獲得するという意味で、世界戦略のひとつでもあり、事実、他の韓国、中国、そしてヨーロッパでも好調な売れ方を示していると言う。

 『マーク V 』 の牙城に迫る『ヴェガ イントロ』。
 伝説的な日本製ラバーの長城をどう切り崩していくのか今後も注目だ。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

<完>

文=佐藤祐・今野昇