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中国リポート

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 世界の卓球界で中国が圧倒的な強さを見せている現在、国家チームの中で仮想選手の数は以前より少なくなっている。しかし、ビッグゲームでは必ず国家チームのビデオカメラがライバルたちをとらえ、分析と仮想選手の育成に役立てている。

 国家男子チームで、最も明確に仮想選手と呼べるのが右日本式ペンホルダードライブ型の王建軍だ。韓国やチャイニーズ・タイペイのペンホルダー、特に柳承敏の仮想選手だ。面白いことに超級リーグでは、王建軍と柳承敏は05・06年と四川全興チームのチームメイトで、本家とコピーでダブルスを組んでいる。柳承敏がふたりいるのだから強いだろうと思ったら、2シーズン通算で0勝5敗と全くダメだった。
 8月のユニバーシアード・バンコク大会に男子代表として出場した王熹は、朱世赫(韓国)の仮想選手。これまでに中国選手がたびたび痛い目にあっている相手だけに、かなり対策を練っているのだろう。

 一方、国家女子チームには、ビックリするほど福原愛(ANA)にプレーがそっくりな王シュアン(王+旋)という選手がいる。サービスの出し方、スイング、プレー中の仕草に至るまで、「顔以外は」実によく似ている。髪型やまゆ毛までコピーしている様子なのが面白い。他にも、韓国女子のエース・金キョン(王+景)娥の仮想選手である朱虹がいる。

 仮想選手たちはいずれも高い実力の持ち主だが、世界選手権の代表メンバーに入ることはまずない。そのため、海外に移籍する選手も多い。男子では成応華・黄統生がアメリカに移籍し、リ・グンサン(北朝鮮)や松下浩二(日本)の仮想選手だった陳衛星がオーストリアに移籍した。女子で現在世界ランク7位の姜華君(中国香港)も、国家チーム時代はキム・ヒョンヒなど北朝鮮の異質速攻型の仮想選手として、トップ選手のトレーナーを務めていた。
 数少ない例外として、01年世界選手権混合複チャンピオンの秦志ジェン(晋+戈)がいる。重点強化選手として男子1軍チームに入りながら、海外遠征で結果を残せずに「陪練」に格下げされ、同じ左ペンドライブ型の劉南奎(韓国)の仮想選手となった選手だ。のちにダブルスでの強さを買われて世界代表となり、01年世界選手権大阪大会で混合ダブルス優勝など、見事な成績を残している。

 選抜が繰り返される中国の選手育成システムの中で、国家チームに入れるのは何万人にひとり。「陪練」、そして仮想選手といえども、卓球界の超エリートであることは間違いない。そういった選手たちを時にはふたりも相手にして、王励勤や馬琳、張怡寧や郭躍は厳しい練習を積んでいく。中国代表を打ち破ることが、いかに難しいことなのかよくわかる。
 これからも中国にとって強敵が現れるたび、徹底した分析が行われ、無数の「名もなき英雄」が生み出されていくだろう。しかし、一人っ子政策により、これからは当然一人っ子の選手ばかりになってくる国家チーム。「小皇帝」と形容されるワガママな彼らが、陪練や仮想選手としてチームのために尽くせるのか、という気もしないではない。

Photo上:日本式ペンホルダーの王建軍。昨年の全中国選手権では準優勝だった
Photo中:フォームが福原選手とうりふたつの王セン。04年世界ジュニアでは福原選手に完敗
Photo下:現在、国家男子1軍チームのコーチである秦志ジェン。波乱万丈の競技生活を送った