国家2軍(ジュニア)チームのメンバーに、中国人としてはやや耳慣れない名前を持つ選手がふたりいる。ともに北京市チームの所属である張聖伍男(チャン・ションウナン)と韓劉尼斯(ハンリウ・ニィス)だ。張聖伍男は07年世界ジュニア選手権に出場していたので、「変わった名前だな?」とご記憶の方もいるかもしれない。
超級リーグもお伝えしなければならないところだが、超級の話題がずっと続くのも、筆者としてはちょっと面白くない。さて、どこまでが苗字で、どこまでが名前かも分かりにくいこのふたりが、今回の中国リポートの話題の中心だ。
まず、張聖伍男くんは苗字が「張」で、名前が「聖伍男」。名前が珍しく3文字なのは、同姓同名を避けるというのがその主な理由だ。中国では今、同姓同名によるさまざまな弊害が社会問題になっているのだ。同じ職場やクラスに同姓同名の人がいる煩雑さを考えると、社会問題というのも決して大げさではないだろう。かく言う卓球王国編集部にも、佐藤佑樹(ゆうき)と佐藤祐(ゆう)という若手のツインエース(?)がいるので、なかなかに紛らわしい。そこで中国公安部は新生児の名前を届け出る際に、名前を2文字以上(姓を含めると3文字以上)にするよう指導を行っている。卓球選手で言うと、「王楠」や「馬琳」は×、「王励勤」や「李暁霞」は○だ。
張聖伍男くんの苗字「張」は中国で3番目に多い姓で、全土に約8,800万人もいる。さらに「偉」などという名前をつけて「張偉」さんになってしまうと、これが実は中国で一番多い姓名で、約30万人もいるそうだ。しかし、名前を3文字にすれば、少なくとも周囲に同姓同名の人がいる確率はぐっと低くなるだろう。また、名前を3文字以上にした上で、通常は使われないような難しい漢字を使ったり、外国の名前の音訳を当てるケースも増えている。
一方、韓劉尼斯くんの場合は、また少し事情が異なる。彼の場合は、苗字が「韓劉」で名前が「尼斯」。苗字が二文字の「複姓」なのだ。もともと中国は夫婦別姓で、子どもは父方の姓を名乗るのが一般的だが、中国公安部によって新しく制定された『姓名登記条例』第2章8条には、「公民は父方の姓か、母方の姓のどちらかを名乗るが、父母両方の姓を採用してもよい」と明記されている。韓劉尼斯のお父さんは現在国家女子2軍チームの総監督である韓華、お母さんは劉海燕。父方の姓と母方の姓がドッキングして、「韓劉」という新しい姓が誕生したのだ。ちなみに名前の「尼斯(ニィス)」は、韓華がナショナルチームのコーチを務めていた北アフリカの「突尼斯(トゥーニィス)=チュニジア」にちなんでつけられている。
日本で言えば佐藤さんと鈴木さんが結婚して「佐藤鈴木」になるようなもので、にわかには信じがたい話。しかし、同姓同名を避けられるうえ、父母両方の血縁関係を示すことができるので、中国でも少しずつ増えている。韓劉尼斯の他にも、北京市女子チームに馬李舒怡、上海市男子チームに楊成博文などの名前が見える。「韓劉」さんと「馬李」さんが結婚したらどうするのか、と誰もが気になるところだが、その問題はまだ表面化していないようだ。
これから先、あっと驚くような名前の選手が中国から登場してくるかもしれない。先の『姓名登記条例』によれば、姓名は2文字以上6文字以下とされているので(少数民族の特例は除く)、姓が1文字の場合、名前を3文字どころか4文字にするケースも出てきそうだ。願わくば、難読な漢字を多用するのは避けてほしいところだが…。
Photo:07年世界ジュニアベスト16の張聖伍男。中国初の「名前が4文字の世界チャンピオン」まで、まだまだ道のりは遠い