◎水谷隼「あえてオリンピックに関して何も言いたくない」 卓球王国の最新号(2019年8月号)では「ブダペスト、歓喜と挫折の独白」として、4月の世界選手権ブダペスト大会を彩った選手たちのインタビューを掲載。「歓喜」の選手は中国の馬龍と劉詩ウェン、準優勝に躍進したスウェーデンのファルク。挫折を味わった選手は、水谷隼と張本智和だ
馬龍の卓球観、劉詩ウェンの挫折の後に訪れた至福の歓喜、それまで人知れず涙を流した時間の流れは感動的だった。それはネット上ではなく、手元に置いて何度も読み返したくなる内容だった。
そして全日本チャンピオンでありながら、ブダペストで早々と散った水谷のインタビュー。いつもの本音の水谷隼がそこにいる。それはある種人間臭く、どこか折れそうな王者のつぶやきだ。その内容を少し紹介してみたい。
●水谷「30(歳)になって自分の好きなようにやりたいということと、あとは周りに期待してもしょうがないから自分で何とかしようという、そのふたつの気持ちが重なって、反骨心として良いモチベーションになっている。だから、この後、ぼくが成功してもそれは全部自分の努力のなので、誰にも感謝しないで生きていきたい」
●水谷「ぼくは単純に卓球が好きだからここまでやってきた。オリンピックのためだけにこの4年間やってきたわけじゃない。この4年間には別の意味があったはずで、もしオリンピックに出られなくても、出てメダルを獲れないとしてもぼくには意味がある時間だった」
それは不遜な言葉のようにも捉えることができるし、オリンピックへの決意の裏側を見るような言葉でもある。
●水谷「オリンピックに出たいか出たくないかと言ったら、出たいに決まってます。ただ、オリンピックのことしか言ってこない周りに嫌気がさしています。だからあえてオリンピックに関して何も言いたくない。
もちろん、最終的にオリンピックに出たい、メダルを獲りたいというのは大きな目標です。ただ、何十回もオリンピックのことを聞かれてこれからも何十回も聞かれると思うとうんざりします。周りが作りたがるドラマにぼくは乗っかりません」
自分を応援しているファンへの感謝は忘れていないが、いつもオリンピックについて聞かれることにうんざりしている様子だ。これから熾烈な国内の代表選考レースが始まるが、しばらくは王者・水谷は「だんまり」を続けるかもしれない。その意味でも、今回のインタビューは意味のあるものだった。
◎卓球少年の本音「全部本心だと思われるので難しいです」 一方、ブダペスト大会で期待されつつメダルを逃し、悔し涙に暮れた張本智和。今月の27日に16歳を迎える卓球少年もまた、本音を語っている。
●張本「大会前に指をケガして直前まで良い練習ができなかったので、気持ちが落ちていて、メダルを目指すような精神状態じゃなかった。でも、ドローでやる気が出てしまって、逆にそこでバランスがおかしくなった。
状態は良くないのにチャンスはある。そういう中でフレイタス(ポルトガル)に勝って、自分の調子が良いのか悪いのかわからないまま、このままいけばいいかと思ってしまった。終わってみれば、そういう状態でベスト4に入るのは難しいですね」
●張本「(昨年の)ジャパンオープンで馬龍に勝ったから、もう誰にも負けないだろうと思われるのは一番苦しかったですね」
また、今までテレビの前で「東京五輪では金メダルを獲りたい」と言い続けてきた彼の本音はこうだ。
●張本「言わないと注目されないので、言わなければならないけど、それが全部本心だと思われるので難しいです」
15歳にして自分への過度な期待を背負い、それを今まで勝利でふるい落としてきた張本には変化が見えている。これは卓球少年が大人に変わっていく当然のプロセスでもある。 テレビや試合などの囲み取材では絶対口にしない、二人の「王者」の本音は実に興味深い。
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