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 彼は苦しそうだ。

 Tリーグが一般社団法人として4月に船出し、昨日は参加を検討している企業への説明会と、記者会見が開かれた。
 そこで参加チームの応募要項や入会審査基準が発表された。入会金と年会費を合わせれば初年度に3500万円が必要となり、チーム運営費の目安を2億円以上という高いハードルを示した。
 この高いハードルを現時点で超えていけるのは、業績の良い企業だけだ。全国に根付いていく地域密着型のクラブ組織の構想はどこに行ったのだろうか。

 「今、Tリーグを作る意義と卓球界へのメリットは何ですか? 日本リーグとの違いは何でしょう」と記者の質問に対して、松下氏は以下のように答えた。

「まず企業名を表に出せることが参入チームにとっては大きい。放映や試合会場での露出などのプロモーション活動はリーグとしてしっかりやっていきたい。その中で地域と密着することを条件にしているので、企業のCSR(企業の社会的責任)としての活動が企業のチームにとって大きなメリットになる」

「企業がチームを持って、かりに1億円かかっていたとしたら、Tリーグで(興行として)稼げば、それがゼロになる。卓球クラブの収支のバランスが良くなっていく。選手のセカンドキャリアにとってもメリットがある。将来的にはアジアのチャンピオンズリーグを作っていきたい。卓球は過去にピンポン外交などをやってきましたが、こういう活動で貢献していきたい」

「今の環境では、選手が後輩たちに自分の経験を伝えることができないが、Tリーグではそれができるようになる。1983年以降の世界選手権に出た日本代表は52名いるけれども、その中で卓球界で指導しているのは17名しかいない。3分の2の方は現場にいない。中国のようにトップ選手が現場に残れるのは大きなメリット。
 Tリーグのクラブが地域に貢献して、子どもから高齢者まで卓球はできるので、地域の方の健康寿命を伸ばすことに貢献したり、地域のコミュニティーを作ることで地域貢献はできると思う」

 ここだけを聞けば、このTリーグが企業主体になりそうな雰囲気に思える。また、目線がトップ選手目線とも言える。当初、Tリーグ構想を打ち出した時に、企業よりも興味を示していたのは地方のクラブの人たちではなかったか。
 「おらが町のクラブでTリーグへ!」と全国の卓球愛好者は熱くなったはずだ。
 しかし、上記の松下氏のコメントでは、地域のクラブと言うよりも、企業主体のリーグにも聞こえる。そこを見透かして記者の人は質問したのだが、回答は違う方向に行ってしまったのは否めない。

 これは「地域密着」から「企業密着」への変節だろうか。
 もともと「プロリーグ」を作りたかった松下氏からすれば、変節ではないだろう。ところが、JリーグやBリーグのような企業名を外した地域主導の組織を横目に、だんだんとスタートするべき日だけが迫ってきている状況で、企業のお金に頼るしかなくなったのではないか。まずスタートありきの状況の中で、2億円予算のハードルを越えられるのは企業だけだ。松下氏は非常に現実的な方向を走っているのだ。
 もちろん、彼の中にはTプレミアの下に、ピラミッド形の地域リーグを作るという考えがあるのに、その部分に言及しているコメントが少なすぎ、言葉足らずで、「企業主体」の印象を与えてしまった。

 数年以上も、日本卓球協会の中で「プロリーグ」を検討してきた松下氏。日本リーグとの共存共栄という課題を突きつけられつつ、孤立無援状態に見える状況で奮闘してきたのも事実。はたから見ても「協会をあげてTリーグを応援しよう」というふうには見えない。
 
 しかし、「Tリーグの意義は?」と問いかけられた時に、言葉だけでもいいから、日本卓球界の将来ビジョン、卓球というスポーツをピラミッド構造にして、全国津々浦々にすべての卓球ファンが楽しめるクラブを作るという壮大なビジョンを語ってほしかった。 (今野)
  • Tリーグの松下浩二代表理事