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 ワールドツアーに大挙して参戦する日本選手団の活動の根底にあるのは、「世界ランキング至上主義」だ。日本代表選手のみならず、自費参加の選手が多いのは、所属団体に活動資金があるから。そしてオリンピックのみならず、世界選手権の代表選考基準に世界ランキング上位者の推薦が明記されているため、選手や母体は躍起(やっき)になってワールドツアーに参戦していく。トップ選手になると1年で十数大会に出場する。
 つまり、1・プロリーグがない(スケジュールが空いているためにツアーに参戦しやすい)、2・派遣する協会や母体からの経済的な補助を受けられる、3・世界ランキングが選手を選考する基準となっている、という3つの理由がある。

 一方、ヨーロッパ選手は対照的で、1・生活基盤はプロリーグで、毎週のように試合がある、2・協会が派遣するほどの潤沢な予算を持っていないし、母体スポンサーもそこまで予算がなく、プレーする基盤のクラブは逆にツアー出場で選手が疲弊することを嫌う、という背景がある。

 世界王者の中国はどうか。
 彼らのプレー基盤は国家チームでの集合訓練と、1年のうち約3カ月間で行われるスーパーリーグだ。ワールドツアーはすべて協会派遣のみで、自費参加はない。中国卓球協会は世界ランキングを全く参考にしない。世界選手権やオリンピックの派遣選手は協会がすべて決定するか、世界選手権の時には「直通○○」という選考会をやるのみ。
 協会が選手の実力を計るのは、世界ランキングや国際大会での実績と言うよりも、国家チーム内での実力や成績なのだ。ツアーに出れば上位を独占することが多く、世界ランキング自体が派遣選手を決める協会がコントロールできるのだから意味がないのだろう。

 こういった事情によって、日本選手だけが熱心にツアーに出るようになった。以前はジュニアサーキットやU21(21歳以下)の試合もレーティングポイントに加算されたので、日本選手はツアーはもとより、ジュニアサーキットやU21にも出まくり、海外の関係者からは「日本選手はマイレージプレーヤー」と揶揄(やゆ)された。つまり、航空会社のマイレージカードのように移動距離でポイントを獲得していたこともあった。もちろんある程度の強さがなければ、マイレージもたまらないのだが・・・。

 さて、本題に戻ろう。
 従来の世界ランキングの盲点は、レーティングがあるために強い選手はすべてのツアーに出なくてもランキングを維持できたことだ。レーティングポイントは一度獲得すると減ることはなく、消失するのはボーナスポイントのみ。試合に出ないでランキングから消えたとしても、またツアーに復帰すれば、すぐに以前のランキングを取り戻すことができる。ベテランになったトップ選手や中国選手でも、要所要所でのツアーに出れば、自分のランキングを維持できた。
 一方、2018年1月からの新ランキングでは、過去1年間の上位8大会のポイントの合計でランキングが決まる。つまり、なるべくツアーなどに多く出てポイントを獲得することが、世界ランキングを上げるためには重要となる。

 このシステムはテニスのランキングシステムと似ている。狙いは、トップ選手をなるべく多くのツアーに出させることだ。ITTFとしては各地のツアーにトップ選手が出てほしい。各地のスポンサーや冠スポンサーの獲得にも影響するからだ。
 しかし、テニスと違うのは、前述したように多くの卓球選手、特にヨーロッパ選手がプロリーグを生活の基盤にしていることだ。ツアーに参戦するほどの経済的なバックボーンが選手にあるのか。プロリーグとの両立が選手たちを悩ませることになる。

 また、日本選手の過剰なほどのツアー参戦は減るのだろうか。
 そうはならないだろう。世界ランキングが第一優先の選考基準がある限り、ツアー参戦は積極的に行われ、派遣の予算がある限り、「経験のため」という目的でジュニアサーキットやチャレンジシリーズなどへの若手の参戦は続くだろう。もちろん、それは選手にとって悪いことではない。
 
 世界ランキング至上主義は、日本にとっては避けられないやり方とも言える。現状では、日本は分厚い選手層を持っていて、中国のように協会がビッグゲームの代表を決めることは不可能だからだ。自由競争が原則なので、協会が一方的に日本代表を選ぶと選考に外れた選手や母体からクレームも来るだろう。その母体からの不満を解消するために、世界ランキングによる選考は必要不可欠のものとなっているからだ。世界ランキングが、自由競争による公平さの象徴的なシステムなのだ。

 新ランキングによって選手のポジションは大きく変動している。男子の1位はツアーにも多く出ているオフチャロフで、世界チャンピオン、五輪チャンピオンの馬龍はツアー参戦も少なく、1位から7位に落ちた。女子でも馬龍同様、試合数の少ない五輪チャンピオンの丁寧は3位から21位に落ちている。
日本選手の1月の主だった世界ランキングは以下の通りだ。※( )は前回のランキング

●男子
丹羽孝希  6位(8)
松平健太  10位(15)
張本智和  11位(17)
水谷隼   13位(7)
大島祐哉  19位(25)
上田仁   28位(34)

●女子
石川佳純  4位(5)
伊藤美誠  5位(9)
平野美宇  6位(6)
早田ひな  11位(14)
加藤美優  13位(18)
森さくら  17位(32)
佐藤瞳   19位(14)
橋本帆乃香 28位(21)

 日本選手はおしなべてランキングを上げている。これは今までのツアー参加数が多いからだ。例外的に水谷が7位から13位にランキングを落としているのは、この1年間はロシアリーグやT2などの試合が主で、ツアー参戦が少なかったからだ。今後、日本の水谷を含め、中国選手もツアーへの参加を増やしていくことが予想される。数大会のツアーを経て、世界ランキングは落ち着いたものになっていくだろう。
 また、日本でのTプレミアの開催や、T2などの試合がどのように影響を与えていくのか。新しい世界ランキングのシステムは今後の選手の活動形態を徐々に変えていくかもしれない。 (今野)
  • 最新の世界ランキングで1位に立ったオフチャロフ

  • 女子の世界ランキングで1位となった陳夢