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合宿中の練習に歓声が沸き起こる

 9月12日(水)、宮城県塩釜市の塩釜ガス体育館で行われている卓球男子ナショナルチームの合宿は3日めを迎え、公開練習とそれに続けて中高校生を対象とした講習会が行われた。
 合宿初日の10日(月)に行われた公開練習のときよりも取材陣は少なめだったが、講習会があるためか観客は初日より多く、500人ほどが二階観客席に陣取った。

 午後2時半、ひとしきり体をほぐし終わった選手たちが軽く体育館をランニングし始めると、観客から拍手が起こった。ナショナルチームの練習が見たくて待ちきれない様子だ。ランニングをしただけで拍手されるというのは選手もなかなかない経験だろう。

 軽いランニングが終わると、田中礼人フィジカルコーチの号令の元、約20分間の筋力トレーニングが行われた。ステップを踏みながら床のロープを跨ぐトレーニングでは、2チームに分かれてバトンを使ったリレーで会場を沸かせた。故意か観客を意識してか、松平健太選手が大胆なステップの省略を見せたりして自然とコントのようになり、観客を大いに楽しませた。卓球では超絶的に速い動きを見せる丹羽孝希が意外にも足が遅いのは有名な話だが、こうしたトレーニングにおいても遅いのだろうか。倉嶋監督に聞くと「遅いです(笑)」とのこと。卓球は不思議だ。

 台についての練習が始まると、それまでの和やかな雰囲気は一転し、ウォーミングアップのワンコース練習からどよめきが起こった。凄まじい打球音とシューズが擦れる音、選手が出す気合の声、そして早回しかと思うような異常な弧を描いて相手コートに吸い込まれるボール。
 観客の視線は地元出身の張本智和の練習に集中したが、ファインプレーに大きな拍手が送られる一方、惜しいミスには遠慮のない「あー⤵」という嘆きの声が起こる。選手にとっては練習でも、観客にとってはショーなのだ。こうした普段の練習とは別の種類の緊張感を感じるのもこの合宿の目的のひとつなのだろう。

イジられキャラの上田仁と、練習後の握手

 この日の練習は、ウォーミングアップのラリー15分の後、各自が決めた課題練習7分半を相手と交代で6回ずつ正味90分というスケジュールだった。休憩は途中で5分入れただけだ。長すぎる休憩にすると体が動かなくなるため(倉嶋監督談)とのことだ。

 練習は午後4時半に終わったが、森薗政崇と張本が残り、それぞれ田添健汰、松山祐季を相手に練習を続けた。最後には張本だけになり、講習会が始まるぎりぎりまで練習を続けていた。初日と同じ光景だ。練習のペアは毎回倉嶋監督が決めているそうだが、張本とペアになった選手はこの調子で延長練習に付き合わされるのだろう。強いわけである。

 講習会には地元の小中高生が120人ほどが集まった。8台の卓球台にナショナルチームの選手やコーチがひとりずつ着き、子供たちが順番に1分間ずつの指導を受けるシステムだ。
 ただし人気抜群の張本だけは全員と打てるように「ひとり3球」に限られた。「張本はとても頭がいいので、3球見ればアドバイスができます」という倉嶋監督の説明には張本も思わず苦笑いした。

 各台での指導が始まると、意外に遠慮がちな子供たちの様子を見かねた倉嶋監督が「アドバイスもらわずに勝負を挑んでもいいんだからねー。上田仁になら勝てそうでしょ?」と高度なジョークを飛ばしたが、子供たちならずとも少々高度すぎた。よりによってなぜ上田仁(全日本社会人3連覇)なのか倉嶋監督に聞いてみると、イジられキャラなのだという。あの、スーパーフォアハンドドライブの上田仁がイジられキャラだとは。試合だけ見ていてはわからないものだ。

 今回の公開練習を通して、練習が終わる度に相手と握手をする光景が目についた。試合後に握手するは当然としても、練習後の握手というのは見たことがなかったので倉嶋監督に聞くと、特に指導したわけではなく自然に定着したものだという。海外の選手はこれが普通なので、それが広がったのかもしれないとのこと。おそらくそうなのだろう。

 イジられキャラだと聞いて勝手に親近感を増した上田にも握手の件を聞いてみると、母体の実業団チームでも定着しているという。ナショナルチームに選手を出すような母体には広がっているということなのだろう。この習慣を取り入れて、形だけでも「ナショナルチーム風」にしてみるのもよいのではないだろうか。 
(卓球王国コラムニスト・伊藤条太)
  • ウォーミングアップに励む男子選手

  • 地元の子どもたちを集めて講習会を行った

  • 講習会での倉嶋監督

  • 地元のヒーロー、張本へのチャレンジマッチ