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【大舞台になればなるほど力を発揮できる希なメンタル】

 愛ちゃんこと、福原愛選手は決して天才ではなかった。
 これは卓球関係者の一致した見方だ。その身体能力やスピード、筋力、どれをとっても愛ちゃんは「普通の域」だった。強いて言えば、指先の感覚や技巧性、反射神経では非凡なものを持っていたと思うが、アスリートとしての条件は決して「天才の域」ではなかった。

 小さい頃から卓球が大好きで、負けず嫌いの性格ゆえに、苦しい練習を継続してできる能力には長けていた。ちょっと試しただけですぐにマスターできる、卓越した感覚を持つ選手が天才だとすれば、愛ちゃんは天才ではなかった。
 その代わりに、習得するまで、納得するまで練習をやり続ける「継続の天才」だったかもしれない。幼少の頃からの繰り返しの練習や常に強い人と実戦を重ねた結果、愛ちゃんは類い希な「予測能力」を身につけた。

 そして、愛ちゃんのもっとも特筆すべき点は「メンタル」だった。それは大舞台になっても緊張せずに、その舞台を楽しめる能力。ここ一番で力を発揮できるメンタルが彼女に数多くのメダルをもたらした。

 その代表的な試合を5つ挙げてみる。
 ひとつ目は、2008年世界団体で、負けたらメダルから遠のく韓国との試合でラストで文玄晶に逆転勝ちをした試合。
 2つめは、同年の北京五輪の香港戦で単複で2点取った試合。
 3つ目は、2010年世界団体のメダルを決める準々決勝の韓国戦で、ラストで勝利し、4時間54分という死闘にピリオドを打った試合。
 4つ目は、2012年ロンドン五輪の女子団体準決勝でシンガポール戦のトップで分の悪かった馮天薇を破り、日本卓球界初のメダルに近づけた試合。
 5つ目は、2012年1月の全日本選手権の決勝で石川佳純に勝ち、念願の初優勝を決めた時。
 それらに共通しているのは窮地に追い込まれている中での愛ちゃんの絶対的な強さだった。それは生まれ持った才能だったのか。それとも物心ついた時からテレビカメラに追いかけられ、常に誰かが注目している状態でも平常でいられる、「異常状態への適応力」だったのか。

【相手のパワーボールを台の上でツーバウンドさせる超絶テクニック】

 小柄な体ゆえに、パワーに頼る卓球でもなく、特別足が速いわけでもない。福原愛の卓球は、変化とピッチの速さの卓球だった。卓球の形で言うと、シェーク異質攻撃型というスタイル。シェークハンドラケットにフォア側には裏ソフトという回転系のラバーを貼り、バック側には粒の高い表ソフトを貼っている。このバックのラバーは速さと変化を併せ持つラバーだった。
 小柄なので、台から離されては不利なので、なるべく台について、ボールが台にバウンドした直後に連打していくのが得点源だが、もうひとつの武器はバックブロックだった。やや粒の高めのラバーを使用し、世界的に攻撃選手が使用しているケースは珍しい。さらに硬めのラバーなので、コントロールが非常に難しかった。
 ある選手が愛ちゃんと同じラバーを貼って打ったところ、ボールがすべて直線的に飛び、ネットを直撃したという。誰もがコントロールできない難しい用具を使いこなすことで、愛ちゃんは他の選手が追随できない変化速攻を作り上げ、相手のパワードライブをバックブロックで相手の台の上でツーバウンドさせる超絶なテクニックを見せた。
 
 ドライブというのは強烈なトップスピンがかかり、普通にラケットに当てると上方向に飛んでいってしまうボールなのだが、愛ちゃんはそれを小さく止める技術と感覚を身につけた。これはセンスもさることながら、繰り返し行った練習の賜物だっただろう。

 卓球での速いラリー戦では、トップ選手は瞬間的に反応し、左右に跳ぶ。ボールが飛んでくる時間は0.2秒から0.3秒なので、人間の反応速度を超える。しかも、愛ちゃんの脚力では、5cm、10cm届かないこともあるだろう。
 しかし、愛ちゃんはそれを優れた予測能力でカバーして、速いラリーを自分の得意な領域に変えてしまった。それさえも、生まれ持った才能ではなく、積み重ねた努力の結果であった。
 福原愛という希代の選手は、「アスリート的な天才」ではなく、「努力する天才」「継続の天才」だった。 (今野)


別冊『福原愛 LOVE ALL』
https://world-tt.com/ps_book/extra.php?lst=2&sbct=0&dis=1&mcd=BZ047
  • 2008年世界選手権団体の韓国戦ラストで文玄晶に勝ち、涙する福原さん

  • 2012年ロンドン五輪の女子団体準決勝のトップで、馮天薇に勝った福原さん