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 世界の卓球ではヨーロッパの弱体化が深刻な問題である。ツアーの結果によるトップ16人が参加するT2や12月のワールドツアー・グランドファイナル(GF)には、ヨーロッパからは男子3人だけ。女子はゼロ。GFには中国女子から10名がノミネートされ、日本からも女子は4名がノミネートされ、女子では16名中、中国と日本で14名を占めている。完全に卓球が「アジアのスポーツ」となっている。この状況で、スポンサーがつくかどうかも微妙だ。
 ヨーロッパ選手がワールドツアーになかなか参加できずに、世界ランキングを上げられない理由はある。お金の問題だ。
 ヨーロッパ選手は生活の基盤がドイツのブンデスリーガやロシアリーグ、フランスリーグなどのクラブのチーム戦。まともにツアーに参戦していたら「本業」のリーグ戦の出場は相当タイトなものになる。
 ボル(世界7位)やオフチャロフ(同12位)などのヨーロッパのトップ選手でも、協会が遠征費をすべて出せない。そのために彼らが世界ランキングを上げるための試合参加経費を卓球メーカーなどが補填する。ゆえに、彼らはワールドツアーなどでは協会代表ウエアではなく、自分の契約メーカーのウエアを着て出場する。
 また、ヨーロッパではプロコーチで生活するのも大変なので、指導者の人材不足に陥り、それが弱体化に拍車をかけている。卓球のアジア化はITTF(国際卓球連盟)にとっても、卓球の将来のためにも何のプラスもない。加盟協会が226となり、競技団体の加盟協会数としてはトップになった卓球。グローバルスポーツを標榜するにもかかわらず、その実態はグローバルではなく、アジアスポーツに傾いている。
 世界ランキングを重視すればするほど、お金を出せる日本、中国と、お金がないヨーロッパとの格差は広がっていくだろう。

 近年の日本の躍進にはいくつかの理由がある。
 ひとつは有望な子どもたちを育成してきた全国各地の熱心な指導者たち。ボランティアの人もいれば、プロコーチの人もいる。それをサポートしてきた日本卓球協会。この指導体制がヨーロッパのそれを遙かに凌駕している。
 そして、もうひとつの理由はトップ選手の環境を作っている資金だろう。かつては選手が世界選手権に参加するにも自己負担金があったが、それはすでに昔話。今や、トップ選手の遠征費は協会が負担し、自費参加と言われる選手たちも所属するチームやスポンサーが拠出する。本当の意味で自費参加する選手は数少ない。
 日本選手は企業や学校が選手をサポートし、トップ選手にはスポンサーがいくつもついており、活動費で困ることはなく、逆に女子のトップ選手のように専任のコーチ、マネジャー、フィジカルコーチが遠征にも帯同し、国際大会には数十人の日本選手団が移動する。世界最強の中国よりもはるかに大きなサポートマネーが日本を支えている。
 しかし、これらのお金は永遠のものだろうか。東京五輪が終わっても、これらのお金が支えてくれるのだろうか。それは予見できない。

 世界ランキングの支配による選手への縛りの強さ。しかし、世界ランキングを得るためには豊富な資金が必要。それを出せるのは中国と日本だけ。ポイントを得るためにツアーに出ても、賞金は少ない現状。
 世界ランキングによる支配と、それに出場することが選手の生活、そして収入と時間をタイトなものにしていく事実。この二律背反に、世界の卓球が苦しんでいる。この現実をITTFは直視しているのだろうか。
 知的でスピード感のある素晴らしいスポーツ、卓球。日本での卓球人気も高まっている。
 さらに卓球が生涯スポーツとして人々に愛され、プロスポーツとしてもステイタスを高めるために、越えるべき現実と目指すべき理想を明確にしなければならない。