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世界ジュニア選手権大会

 年甲斐もなく、優勝の興奮のせいだろうか、フランスの友人とホテルのレストランで祝杯を挙げたのに、夜眠れず、今原稿を書いている。
 世界ジュニア選手権は2回目の神戸大会から取材して、今回で7回目になる。感動的なシーンはいくつもある。リンツ大会の男子団体優勝。しかし、この時、中国は北京チームが代表だった。水谷、岸川、高木和という日本チームも強かった。本当の中国代表とやらせてみたかった気持ちもある。
 カイロ大会で劇的なシングルス優勝を果たした松平健太。そして、今回、女子団体で見事な優勝を果たした日本。エースの石川佳純が2点取り。トップの相手の朱はジャパンオープンで福原などのシニアを連破し、決勝まで進んだ強者だ。石川は出足から本当に落ち着いていた。やはり今まで数多くの大舞台を踏んできた選手だけに、相手の動きや緊張度を見ながら、うまくミスを誘い、要所では思いきりのよい攻めで快勝。4番のユース五輪金メダリストの顧玉ティンには飲んでかかるような戦いで、相手がナーバスになっていると見るや、スタートからの隙のない先行ダッシュで、一気に突き放した。
 石川は以前は攻撃のテンポが単調になることもあったが、今回気がつくのはレシーブでも、ブロックでもわずかにタイミングをずらしたり、ボールを殺したり、伸ばしたり、ナックルドライブを混ぜたりという多彩な技を駆使しつつ、勝負所では本来の思いきりのよい攻撃を見せた。どうしても体は大きくなく、ボールの威力にも限界はあるが、天性のボールタッチを生かしたひとつのスタイルを表現した。
 森薗も素晴らしい試合をした。1ゲーム目は完全に相手のボールの威力に面食らい、なすすべもなくノータッチで抜かれていたが、2ゲーム目から徐々に反応していく。最後は競り合いで敗れたが、完全に顧のパワーボールに体が反応し、相手の回転のかかったドライブを表ソフト面での変化ブロックで沈め、打球点の早いドライブを打ち込んだ。敗れたものの、この2番の森薗の戦いが流れを止めずに、良い形で3番の谷岡につなげたのは間違いない。
 3番の谷岡はエリートアカデミーの申し子とも言える選手で、以前よりもカットと攻撃のコンビネーションが巧みになり、攻撃に安定感が出た分、猛烈に切れたカットが生きていた。岸監督が言うように、「日本女子の新しいカットマンの形」に突き進んでいる。
 岸監督も選手をうまく乗せていった。ピリピリとした厳しさはまわりに与えず、しっかりチームをまとめ、選手が気持ちよくプレーできる雰囲気を作った人だろう。謙虚な人柄でITTFのインタビューで「ずっとこの日を待っていました。今まで5回も中国に負けて、相手の優勝するシーンだけを見てきたので、こんなすばらしい日はない。夢のようです」と応えた言葉に、通訳していてこちらもジーンと来た。
 この優勝は日本全体の勝利だろう。日本卓球協会も選手にチャンスを与え、サポートしてきた。特に谷岡はエリートアカデミーで手塩にかけて育てている。石川はミキハウスという強力な母体で日々練習し、強くなった選手だし、森薗も青森山田で6年間、自らに激しい練習を課し、小さい体というハンディを猛練習で補って、ここまで強くなった。母体だけの手柄でも、協会だけのバックアップだけでもない。母体と協会が融合した形での、日本独自の大きな成果とも言えるだろう。
 もちろん、その向こうには、才能ある選手を伸ばしている草の根の指導者が全国にいることを忘れていけないだろう。日本の卓球の潜在的なパワーが結集し、実を結んだ結果だ。日本は強大な中国卓球協会のやり方の真似はできない。日本独自のやり方が確かにあることの証左だろう。 (今野)