男子シングルス準々決勝、4試合がそれぞれのコートで行われる中、一番最初に終わった試合がコートの雰囲気を変えた。直前の男子ダブルス準々決勝で、あと一歩のところでメダルを逃したプレテア(ルーマニア)が奮起。時折3球目の一発ドライブも交えながら、于何一のパワードライブを中陣で何本でも受け止め、反撃の機会をうかがう。
最も会場を沸かせたのは、プレテアが2ゲームを先取した3ゲーム目、10ー9でのラリー。于何一の左右へのドライブ攻撃に、時に倒れ込みながらもフィッシュでひたすらしのぐ。最後は根負けした于何一が打ちミス。両手を大きく広げたプレテアはまるで勝者のようで、「ここからが大変だぞ」と思ったのだが、なんとこのまま押し切ってしまった。フェンスを跳び越えてコーチに抱きつくプレテア、観客席からダッシュするチームメイトたち。まさにお祭り騒ぎだった。
プレテアの攻めは打球点はそれほど早くないし、中陣でのしのぎは冷静に前後に揺さぶれば、十分に打ち抜けたはず。しかし、于何一はプレテアが作り出した場の雰囲気に呑まれ、真っ向勝負をしてしまった。試合のたびにイエローカードをもらう「悪童」だが、中国選手の気迫とオーラに圧倒される選手が多い中、「中国にはこういう勝ち方もあるのか」と感じた。技術や戦術以外の部分で揺さぶりをかけるのだ。
向鵬に何度突き放されても追いすがり、最終ゲーム終盤まで追いつめたタッカルのプレーもすごかった。驚異的に堅いバックのブロックでひたすら粘り、フォアに回されると鮮やかなカウンターで打ち抜く。驚異的な守備力を披露していた。