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世界卓球ブダペスト大会

 本人は「自分の実力不足」と語ったが、百戦錬磨の水谷隼でさえ、世界戦の中でのわずかな流れをつかめずに勝機を逃す。
 1、2ゲーム目に完璧な出足を見せたのは水谷だった。警戒していた 鄭栄植のサービスをコントロールし、ブロックからのカウンターが決まっていた。3ゲーム目の4-1でリード。そこから5-5となるが、6-6からのカウンターが決まり、7-6とした。しかし、そこから3本連取され、試合の流れは変わっていく。
「2-0でリードしていて、3ゲーム目も4-1でリードしていて、序盤でリードして『これは勝てるな』という手応えがあったのに、そこから逆転負けしてしまったのが悔やまれる。 3ゲーム目を逆転で落として、まだ2-1なのに0-3で負けているような心境になった」(水谷)

 続く4、5ゲーム目は防戦一方になり、ブロックもカウンターもミスが出る。相手の鄭は絶好調に近い感じで、当たりまくった。特にラリーが鄭のバックドライブから始まると水谷はなかなか得点できない。6ゲーム目を水谷が取り、最終ゲームに水谷が流れを引き寄せるかと思ったが、出足で鄭がリード。5-10から8-10まで追い上げるのが精一杯だった。落としたゲームではすべて出足でリードされてしまった。
 
 「最初から最後まで相手のサービスには苦労したし、6ゲーム目、相手のサービスが台から出て、自分のパターンになったけど、7ゲーム目にも相手サービスが台から出ると思ったら、しっかり短く出してきた。序盤でリードできなかったのが悔やまれる。もう1試合はしたかった。ベスト16は自分の最低目標だったので悔やまれる。
 今は試合が終わったばかりで先のことは考えられないけど、この敗戦は後で生きてくると思う。3、4ゲーム目は無理してしまった。自分が押されている中で、無理してカウンターをして、ミスをしてしまったけど、1本ブロックして自分のラリーになるまで我慢をするべきだった。
 シングルスでメダル獲得できなかったのは心残りだけど、それも自分の実力で世界のレベルは高い。今大会、身体がついていかなかった。打った後の戻りも全然ダメだった」(水谷)

 すべては3ゲーム目だった。リードしながら逆転で落としたことで、水谷は心理的に動揺し、試合の流れは完全に鄭に傾いていった。

 水谷自らが「最後の世界選手権個人戦」と位置づけたブダペスト大会。シングルスのみ出場の水谷の世界戦はこれで終わった。
 流れをつかめなかったことも実力かもしれないし、本人は身体のキレがなかったことを認めているが、水谷の力が極端に落ちているわけではない。来年の東京五輪の代表が決まるまで8カ月ある。ワールドツアーも、T2ダイヤモンドもある。丹羽孝希とのシングルス枠を巡る戦いは今回の敗戦で終わったわけではない。
 日本の卓球史に名前を残し、「日本卓球の顔」である水谷隼の集大成は東京五輪ではないのか。敗戦による心のダメージと身体の復調があれば、この男はまだまだ戦える。
 水谷が戦うべき相手は、自分に限界を作ろうとする彼自身だ。(今野)