毎大会、世界選手権のタイトルを中国を中心としたアジア勢を独占していく状態が20年近く続いている。
テレビで放映するのも中国や日本が中心で、強引とも言えるテレビ用のスケジュールも時差を考慮した結果かもしれない。
そんな世界選手権の個人戦(世界卓球)が東欧のハンガリーの地で開催されている。イングランド発祥の卓球が、ヨーロッパがその勢いを失い、巧緻性で勝り、勤勉な練習を積み重ねるアジアが卓球界の中心となってから、すでに半世紀以上過ぎた。
ピンポンという遊戯が「回転」と「スピード」という凶器的なまでの物理的な要素を身につけた、時に複雑でダイナミックな「卓球」というスポーツになっていく。
世界のトップ選手の全身で打つ強打。そのボールがラケットから飛び出していく時には、初速は時速90kmを超え(野球のバッターボックスでの時間に置き換えれば時速500kmか)、強烈な背筋と上腕と手首が一体となり回転を掛けた時には、重さ2.7g、直径40mmのプラスチックボールは1秒間に150回転すると言われている。
かつてミスター卓球と呼ばれた荻村伊智朗(元世界チャンピオン・元国際卓球連盟会長)が残した名言、「卓球は100m競争をしながらチェスをするような競技」という知的な部分と、瞬発力を要する身体能力が融合する競技に卓球はなっている。
スポーツとはある種、その民族のメンタリティーが如実に出るものだ。創造性を駆使し、そこに価値観を求めるスウェーデンやフランスの卓球、堅実であるがパワーを重視する東欧の卓球、ドイツの卓球はその中間にある。
そして同じアジアでもそれぞれの国は相当に違う卓球スタイルを見せる。中国の戦略に長けた卓球。技術をギリギリまで高め、ミスのない守備を身につけている。まるで鄧小平の「黒い猫でも白い猫でもネズミを取る猫が良い猫だ」という言葉のように、中国卓球にあるのは得点のプロセスの美学ではなく、得点するという結果のための合理性だけだ。近年はその高度な戦術の中に圧倒的なパワーを組み込んでいる。
韓国や北朝鮮の卓球は「パワー」だ。地獄のような訓練を課し、フットワークとフォアハンドの威力によって、相手を圧倒し、得点を狙う超攻撃卓球だ。
そして日本は、中国、韓国、ヨーロッパからの良いところ取りを狙う。かつては、日本のフットワークと型にはまったプレーと戦術は「ステレオタイプ的な卓球」と批判されたが、現代の日本卓球はすっかり変貌を遂げた。まず男子の卓球は水谷隼や丹羽孝希に代表されるように、パワーでは欧州、中国、韓国に及ばないために、創造性とスピードを求めた。女子は中国のコーチに教わることが多く、速さと回転を重視するが、伊藤美誠のような独特なスタイルを築いている選手も出現している。
そしていつしか創造性だけでハードワークを嫌うヨーロッパの卓球は、幼少期から技術を積み重ね、ミスを減らしていくアジアの卓球に勝てなくなってしまった。
ところが、今回のブダペスト大会で男子の卓球に異変が起きている。準々決勝では許シン(中国)を破ったフランスのゴーズィと、李尚洙(韓国)を下したスウェーデンのファルクが準々決勝で対戦するので、ヨーロッパ選手のメダルが決定している。これは2011年のボル(ドイツ)以来のメダルとなる。
特にゴーズィのプレーは創造性にあふれ、何をするかわからない「ファンタジスタ」卓球である。ファルクはフォアにスピードの出る表ソフトを貼り、ドライブ主流の男子卓球に完全に逆行したプレースタイルを貫いている。
世界の卓球は、やはりこういうヨーロッパの卓球が強くないと盛り上がらない。
男子ダブルスでは、 ロブレス/イオネスク( スペイン/ルーマニア)と アポロニア/モンテイロ(ポルトガル)が準決勝に進み、メダル獲得となった。スペイン選手とポルトガル選手のメダルは世界選手権史上、初の快挙となる。また、この2ペアは準決勝で対戦する。ヨーロッパ選手のダブルスの決勝進出は、2005年上海大会のドイツペア以来、14年ぶりのことだ。
エースの張本智和がトーナメントから姿を消した日本だが、丹羽孝希が日本チームのシングルスでの最後の光となっている。世界的に「予測不可能な卓球」と言われる丹羽はアジアのファンタジスタとして、中国の 梁靖崑と対戦する。