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世界卓球ブダペスト大会

 女子ダブルス決勝の2-2で迎えた5ゲーム目、9-9でその「事件」は起きた。

 早田ひながサービスを出した。「私がサービスを出したけど、ボールの軌道も変わらず、ネットの白線にも触れずに、相手もミスをしたという表情になったのに、急にネットインになった。選手たちもネットじゃないと思っていたはず。運がなかった。でも運も実力のうち」と早田は振り返る。

 中国の孫穎莎のレシーブがオーバーミスをした直後に、王曼昱が手を上げ、早田のサービスがネットインだとアピール。その直前に副審も手を上げていたが、それに抗議する日本ペア。オーロラビジョンに映しだされるスローモーションでは、明らかにネットインしていない正規のサービスだった。しかし、抗議は通らず。10-9になるはずの状況で、ノーカウントの9-9として試合続行。日本のベンチからの要求でタイムアウトになった。

 「審判も中国系だったので、審判は日本と中国系は避けてほしかった」と伊藤は言う。「自分たちが10-9になっていたら、次の中国ペアのチキータが来ても返せたと思う。あそこでのタイムアウトが良かったのかなと思います。それまで私たちのほうが冴えていたし、中国の二人だけだったら9-9からの1本はないけど、あそこでタイムアウトを取ったから、(ベンチの指示で)次を回り込んできた」(伊藤)。

 明らかにこの9-9からの1本を、精神的にも日本ペアは引きずった。決勝が終わり、表彰式になっても日本ペア、特に伊藤の顔には笑顔はなかった。怒りが収まらなかったのだろう。その後の記者会見や囲み取材でも質問はその時の1本に集中していた。

 彼女たちの怒りのクールダウンには時間がかかった。その後にテレビの収録があり、さらに小誌・卓球王国は恒例の「メダリストのインタビュー」をお願いしていた。
 場所を選手団のホテルに移して、レコーダーを向けた時には多少怒りは収まっているようにも見えた。もちろん、悔しくてもその1本は返ってこないし、優勝ペアと再戦できるわけでもない。そしてこのペアはもちろん銀メダルに満足せず、かといって愚痴を言うでもなく、その思考をポジティブに切り替えようとしていた。

 伊藤は冷静に言葉を選んだ。「言いたいことはたくさんあります。決勝は悪くはなかった。5ゲーム目の9-9は重要ではあるけど、2-0から2-2にしてしまったのが良くなかった。自分たちにも余裕がなかった。2-0になった時にもう1ゲーム取りたかった」 「気持ちは切り替えられる。中国オープンでぶつかった時、さらに頑張れるかなとプラスに捉える。『絶対勝ってやる』という思いを胸に頑張れる。次は見てろよ、と」。

 早田も言葉をつないだ。「完敗じゃないし、勝負で負けた感じではない。こんな負け方はない。力はほぼ出せたし、負けたけどうまくいっていた部分が多かったので、もやもやした気持ちをどこにぶつけたらいいかわからない」

 インタビュー直前の表彰式や囲み取材で笑顔もなく、怒りの表情だった伊藤美誠の表情がいつしか変わっていた。帰国する日本選手団だが、翌日の早朝に次の国際大会、セルビアオープンに早田は向かう。「この悔しさを胸に毎日を頑張っていける気がする」。早田ひなも顔を上げ、前を向いていた。
 
 ふたりを次号の表紙に予定していたのだが、表彰式での憮然とした表情では難しかった。そこであえて、表紙用にホテルのロビーで撮影を懇願し、ふたりは快くメダルを胸に賭けてくれた。そして、ようやくいつもの「みま・ひなスマイル」を見せてくれた。

 伊藤美誠と早田ひな。逃した金メダルの価値は大きなものだった。しかし、この二人が得たものは金メダルよりも重いものかもしれない。その経験が二人をさらに成長させることは間違いないだろう。

*メダリストインタビューの詳細は5月21日発売号で掲載
  • 女子ダブルス決勝後の会見、ふたりの表情は硬かった

  • 女子複決勝5ゲーム目、9ー9での早田のサービス