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 こうした調査をしている中で、実は史実そのものにも怪しいところがある事実に直面した。資料によって情報が食い違うのだ。たとえばラバーが発明されたエピソードとして、1902年のある日、E.C.グッドというイギリス人が薬局でつり銭皿を見てそのゴムマットをラケットに貼ることを思いつき、そのラケットを使って大会で楽々優勝したというのが定説だったが、本によってはA.C.グッドと書いてあったり、薬局ではなく銀行と書いてあったりする。おまけに、どうしたわけかそのE.C.グッドなる人物の写真が一枚もない。同時代の人物の写真は普通にあるのにだ。

 そこで、アメリカの卓球史研究家であるチャック・ホイ氏に問い合わせたところ、ホイ氏自身が2007年に書いた論文が送られてきた。それによると、E.C.グッド伝説には何の根拠もなく、それどころか1901年にフランク・ブライアンという人がラバー貼りラケットの特許を出していて、1902年に発売している証拠文献があるので、ラバーの発明者はフランク・ブライアンだという。E.C.グッドの写真がないのも当然で、実在した証拠がない人物だというのだ。

 卓球史など完全に事実関係がわかっているのだろうと思ったら全然そうではなく、いまだに新事実の発見が続いていたのだった。卓球の歴史マンガを書くということは、そうした際限のない深い沼に足を踏み入れる行為であることを知って、愕然とした。

 チャック・ホイ氏がラバー発明についての論文を発表したのは、ITTF(国際卓球連盟)が発行している「テーブルテニスコレクター」という会報だった。さっそくそれらをITTFのウェブサイトで閲覧して驚いた。もともとこの会報は名前の通り、古いラケットなどのコレクターどうしの情報交換の場だったらしいのだが、それが高じて、今では世界最先端の卓球史研究の場になっていたのだ(2017年から実態に合わせて誌名が「テーブルテニスヒストリー」に変わった)。

 ここからさらに私の生活は大変なことになった。なにしろこの会報はすべて英語なので、英語の達人ならぬ私には読むのに恐ろしく時間がかかるのだ。あちこち拾い読みをすると、後から否定された情報だったりするので、新しい号からくまなく読まなくてはならない。そもそも卓球はイギリスで生まれたので、誕生時期の他の参考文献もすべて英語だ。

 それらの中でマンガの役に立つのはほんの一部だが、それがどこに書いてあるのかは読んでみないとわからないので読むしかない。辞書を引きながらいかにも卓球マンガの役に立たなそうな文章に意味を書き込んだりしていると、いったい何のためにやっているのかと、目的を見失いそうになることもしばしばなのであった。

〜制作秘話4(8/5掲載予定)に続く〜

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