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 先日放送された、NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』の『石川佳純スペシャル』で、石川佳純は東京五輪の代表レースで平野美宇と激しく争った1年間の苦しみや葛藤を、カメラの前でさらけ出していた。それは視聴者が通常聞くことのないトップアスリートの本音。番組最後のお決まりの「プロフェッショナルとは?」という問いかけに明確には答えなかった石川だが、その答えは月刊『卓球王国』最新号のインタビュー「石川佳純という生き方」で読むことができる。

 石川はインタビューで「プロは勝つことが仕事なので、楽しく勝てることもあるけど、苦しく辛いことを乗り越えて勝たなければいけない。ただ、その過程を楽しみたいですね」と語っている。それこそが「プロフェッショナルとは?」という問いかけへの答えではないだろうか。

 卓球は至近距離での究極の対人競技と言われている。2.7mの距離で相手の表情が見え、緊張状態での相手の手や指の震えまで読み取ることができる競技なのだ。そこで勝ち上がり、全日本チャンピオンになり、五輪でメダルを獲るような選手というのは、卓球という競技の中でのメンタリストとも言えるほど心理戦に長けている人たちだ。歴代の全日本チャンピオン、世界チャンピオンという肩書きを持つ人たちを取材すると、強烈な自我を持ち、自己顕示欲、自己陶酔、ナルシズムなどの様々な部分が常人とは違う人が多い。

 逆の言い方をすれば、そういう選手でないと、全日本選手権の決勝の舞台や、世界や五輪の舞台で自分の力を発揮できないとも言える。彼らは卓球という競技を離れても、常に行動や決断を「勝敗」という物差しに置き換え、群れを作らずに一匹狼的な行動に走ることが多い。
 ところが、石川佳純に何度インタビューしても、彼女からギラギラした強烈な自我を感じることがない。トップアスリート、五輪メダリストとしてのプライドを纏っているはずなのに、ストイックな選手生活を過ごしているはずなのに、彼女自身はそれを他人に見せることはない。

 13歳での全日本選手権で史上最年少のベスト4進出の記録を作った石川。よく言われるような「天才的なサウスポー」だった。当時は四天王寺羽曳丘中に通い、ミキハウスの練習場で腕を磨いていたが、「中高の時には、『今日の練習、終わり』と言われると真っ先に帰っていました」という彼女が、五輪代表を視野に入れた時から練習の虫に変身する。「(五輪に出る人は)みんなすごい才能があるのに、プラスすごい努力をしている。それについていくために、『人の10倍の練習をする』とプロになった19歳の時に決めたんです」と最新号のインタビューで語っている。

 天真爛漫な卓球少女だった石川は高校卒業後、アスリートとして苦難の道を歩み始めた。しかし、いつも彼女には笑顔があった。コート上での凛とした厳しい表情と、コートを離れた時の礼儀正しさと笑顔のギャップが、卓球ファンのみならず一般の人々を惹き付けているのかもしれない。中国には『純蜜』と呼ばれるファンのグループがあり、中国語に堪能な彼女は絶大な人気を誇っている。
 
 卓球界からは近年、石川をはじめ伊藤美誠、平野美宇、早田ひなというように明るいイメージで、ストイックでありながら卓球を楽しんでいる雰囲気を放つ、いわゆる「CM映え」するような選手が次々に輩出されている。これは福原愛さんからの系譜だ。男子選手の活躍はもちろんだが、現在の卓球人気に彼女たちが果たす役割は大きい。
 27歳の石川は卓球を始めて20年目を迎えている。このアニバーサリー・イヤーを東京五輪で迎えるはずだったが、1年間の延期となった。それさえも石川はポジティブに受け止めて、代表レースで疲弊した心身を回復させる時間だととらえている。奥深い卓球の世界で生きてきた石川は、すでにその奥義を悟っているのだろうか。

 「やればやるほどわからない(笑)。卓球はやればやるほど難しい。『卓球がわかった!』と言っている人は本当は卓球をわかっていないと思うんですよ。卓球は難しいですよね。うまくなるのも難しい。でも、今は本当に楽しいです!」(石川)

 取材の時でも細かな配慮を見せながらも、自然体で明るく振る舞う石川。 9月14日には「2020 JAPAN オールスタードリームマッチ」で久しぶりにコートに立つ。華麗なる石川佳純のプレーが今から楽しみだ。
  • 「苦しく辛いことを乗り越えて勝たなければいけない。ただ、その過程を楽しみたい」と語る石川佳純