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 明日、3月3日に水谷隼の書籍『負ける人は無駄な練習をする』が全国で発売される(場所によって前後)。これは芸能人がゴーストライターを使って、チャチャッと書いている本とは訳が違う。
 1年前に「水谷隼の勝利の法則」を上梓した時に、車の中で「ねえ隼、本を発行しておいて何だけど、自分の名前で本を出すのってどんな気分?」と聞くと、笑顔はなかった。いつものように口もとを少しだけゆるめ、「この本はまだぼくの言いたいことのほんの少しの部分だけですから」と言ったのだ。
 さすがチャンピオン。200ページくらいの本じゃ、彼自身の引き出しを開けたことにならないのか。「じゃ、次の本を作ろう」と切り出すと。「それ早すぎでしょ」と返された。だが夏くらいから2冊目の本のための打ち合わせが始まった。

  時にはロシアから帰ってきて休むことなく、池袋の喫茶店やファミレスでしばしば会った。
 そして年末に会った時のこと。こちらでいくつか質問を用意していた。その中に、他の人から聞いた「チャンピオンの異常性」についての質問があった。「異常なほどの性格や思考方法がなければチャンピオンになれないのか」という質問だった。
 ところが会ってすぐに水谷は「今野さん、チャンピオンというのは異常者なんですよ」と自分で言い出した。「それはあまり良い意味にはとらえられないね。まるで変質者のようだ」と笑うと、「異常なほどの執念がないと試合では勝てない。ぼくは自覚している異常者です」と言う。シンプルだけど名言だ。以心伝心だった。「それ書こうよ。チャンピオンの異常性について」とお願いした。

 水谷隼という不世出のチャンピオンの脳みそと神経はどうなっているのだろう。トップ選手は自分の感覚を言葉にするのは苦手だ。特に現役時代はそういう機会もない。そして現役引退後に、講習会などで一生懸命、自分の技術を解説する。しかし、それは現役時代の感覚を思い浮かべながら後付の理由をつけているだけなのだ。
 ビッグマネーを稼ぐ水谷は、本で儲けようとはしていない。時間のかかる執筆作業、編集者との共同作業に時間を割くのは、自分の感覚を表現することが「自己確認」になるからだと言う。自分のその時その時のメモのように印刷物に残しておくことに意義を感じているからだ。

 本を一緒に作っていく過程で見えたのは、水谷のクレバーな頭脳と妥協しない卓球への思い、批判されようとも曲げない合理的な練習や思考だった。
 勝つ人には勝つだけの理由がある。そして負ける人には負ける理由があり、無駄な練習をしてしまう行動形態がある。本書を読むと、水谷がチャンピオンであり続ける理由がわかる。 (今野)

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