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中国リポート

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 現在、中国国内で最も人気のあるスポーツ選手といえば、陸上の劉翔(アテネ五輪110mハードル金メダリスト)とバスケットボールの姚明が双璧。中国が実績を残していないスポーツでパイオニアになったことが、彼らに人気が集まる理由だろう。欧米の強豪選手と堂々と渡り合い、勝利を収める姿が中国国民を熱狂させるのだ。
 一方で卓球は国技としての敬意を払われてはいるが、中国チームの上位独占は中国国内でも卓球人気の低迷を招いている。王励勤や張怡寧は確かに知名度は高いが、スポーツ選手としての人気では劉翔や姚明には及ばない。スウェーデンというライバルに恵まれた王涛・孔令輝・劉国梁のほうが、人気の面ではずっと上だっただろう。

 しかし、北京五輪という一大イベントが迫ってくれば話は別だ。誰だって五輪では、自分の国の選手が金メダルを獲得する場面が見たい。強ければ強いほど、勝利が確実であればあるほど良い。五輪の舞台で国民が求めるのは、リスキーなチャレンジャーではなく、確実に勝利を収めるチャンピオン。卓球人気の低迷を招いていた中国の絶対的な強さが、逆に中国卓球チームにとっては追い風となり、メディアの注目を集め、多くの企業スポンサーを引きつけている。
 今年3月、四川長虹電器が中国卓球チームと大型スポンサー契約を結んだのも、北京五輪を前に例年以上の注目を集めるであろう世界選手権ザグレブ大会を睨(にら)んでのこと。5月のザグレブ大会では、中国選手たちは胸と背中に大きな「長虹」のロゴが入ったウェアで登場し、テレビでは連日のようにその活躍が伝えられた。広告活動が規制される北京五輪が始まるまでに、少しでも中国卓球チームを活用してマーケティングを行おうというわけだ。

 中国卓球協会でも、この北京五輪前の上昇ムードを利用していくつかの改革を行ってきた。そのひとつが2006年の世界選手権ブレーメン大会から行われている、「直通不莱梅(ブレーメンへ直通)」「直通薩格勒布(ザグレブへ直通)」と銘打った国家チーム内の代表選考会。男女とも時期をずらして2回ずつ行われ、代表チームのウェアを着た選手たちが真剣モードで試合を行い、ハイレベルなラリーが続出する。試合の模様はテレビで放映されるため、スポンサーの企業にとっても宣伝効果は高い。

 今から約4年前、中国卓球チームの蔡振華総監督(当時)は、インタビューの中で「最近中国の経済力も上がってきているし、10年前とはかなり違う。すべてのスポーツの基盤は経済と密接な関係があるし、経済的な基盤があればもっといろいろなことができる(卓球王国03年7月号P.27)」と述べた。そして中国卓球協会は今、着々と経済的基盤を築きつつある。
 現時点ではまだ、北京五輪前の“特需”という印象も拭(ぬぐ)えないが、北京五輪が終わり、いくつかのスポンサーとの契約が終了する2009年以降、中国卓球協会がどのような戦略を進めていくのか。ぜひ注目していきたい。

Photo上:06年ブレーメン大会の中国代表ウェア。前回、説明を忘れていましたが、右胸に入っているYC(=YuChai/玉柴)のロゴが玉柴機器。07年ザグレブ大会では、大型スポンサーの長虹にウェアから追い出されてしまった…
Photo下:05年上海大会で、優勝した王励勤に群がる中国の報道陣。五輪ではフロアに下りられる報道陣の数は限られるが、メディアから卓球へ、熱い視線が注がれるだろう