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中国リポート

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 06年11月、上海にほど近い江蘇省通州市に中国卓球通州国際訓練基地が着工、来年には完成の予定だ。これまでの国内だけの強化に留まらず、海外選手との合同合宿や海外の若手選手の育成など、卓球の国際的な発展を目的としていることに注目したい。

 04年8月のアテネ五輪の後、中国の卓球雑誌『ピンパン世界』04年9月号に掲載されたコラムで、国家チームの蔡振華総監督(当時)は次のように述べている。
「卓球という競技の発展という面から言うと、今回の結果(韓国の柳承敏が優勝したこと)が全面的に悪いとは言えない。多くの卓球をよく知らない人たちは、卓球では中国が圧倒的に強いと思っている。このような状況が続けば、世界的な規模で競技者が次第に減少し、卓球という競技は衰退していってしまうだろう」。

 そして先月、第6回城市運動会を視察に訪れた蔡振華は、再び以下のようなコメントを残している。
 「08年の北京五輪以降、我々は“狼(おおかみ)”を育てなければならない。以前は、海外にもレベルの高い選手がたくさんいたが、我々の継続的な努力によって、もはや“狼”は姿を消しつつある。競争があるというのは中国卓球界にとっては歓迎すべきこと。国際卓球界の発展のために、中国はより良い貢献ができるはずだ」

 ライバルを自らの手で育てる、とは何という余裕だろうか。しかし、中国が国際大会で上位を独占する現在の状態が続けば、世界的に卓球の人気は低下していくだろう。それは国内でも同じことで、05年世界選手権上海大会でもメイス(デンマーク)やボル(ドイツ)が敗れたあと、会場のボルテージは下がってしまった。「強すぎる中国」の上位独占は、中国でも卓球の人気低迷を招いている。
 今シーズンの超級リーグから外国選手を締め出したことなどを見ると、北京五輪のような国家事業の前には、国際卓球界への貢献も一時停止してしまうようだ。“狼”を育てると言っても、穿(うが)った見方をすればそれは野生の狼ではなく、手なずけられた狼かもしれない。
 しかし、国際訓練基地の建設などの具体的なアクション、そしてただ漫然と勝利に酔うだけでなく、常に先を見据えている首脳陣の姿勢はさすがと言うほかない。

 ヨーロッパでも、元世界チャンピオンのシュラガー(オーストリア)が若手育成の一大拠点として、「ヴェルナー・シュラガー・アカデミー」を建設する計画を打ち出している。世界規模での若手選手の“集合訓練”が、国際卓球界のスタンダードになっていくのかもしれない。

Photo上:中国卓球界の実務上のトップ、精力的な活動を続ける蔡振華
Photo下:今年9月に成都で行われた女子ワールドカップ。最終日、しかも王楠vs.張怡寧という黄金カードにも関わらず客席は寂しい。参加16選手中、中国選手が13人では…