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中国リポート

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●北京市出身の男子選手
盧啓偉・王大勇・楊玉華・范長茂・滕義・陳志斌・張雷・王涛・熊柯・楊子(ヤン・ツー/シンガポール)・唐鵬(香港)・侯英超・閻安
※荘則棟(5歳で江蘇省揚州市から転居)


 北京市出身の主な男子選手は、上記のような顔ぶれになる。北京市卓球チームが発足したのは1956年。国家体育運動委員会(現在の国家体育総局)の初代主任である賀竜元帥が、全国から優秀な卓球選手を集めてチームが発足。実質的には国家チームと言っていい顔ぶれで、発足から10年あまりは全国大会でも無類の強さを誇った。

 そして北京市チームが生んだ伝説のチャンピオンが、1961・63・65年世界選手権優勝の荘則棟だ。出生地は江蘇省揚州市だが、両親とともに5歳で北京市に移住。揚州市で卓球を始めたわけではないので、北京市出身とさせていただこう。幼い頃は体が弱く、5歳の時でも15kgしかない痩せた子どもだったというが、15歳で北京市のジュニアチャンピオンに輝き、1958年に国家ジュニアチーム入り。フォアの攻撃とバックショートという「左推右攻(左押し・右打ち)」の中国式ペン速攻とは違う、「両面攻(両ハンド攻撃)」スタイルを独自の工夫で磨いていく。
 
 荘則棟は61年北京大会で男子団体・シングルスの2冠を制して国民的英雄となり、63・65年大会も制して3連覇を達成。65年大会決勝の李富栄戦については、「上層部から『荘則棟が勝つ』という命令が下りました。いろいろな人から3回目の優勝は『李富栄が負けてくれた』と指摘されましたが、それは事実です」と自ら語っているが(卓球王国2003年8月号)、それまで荘則棟は李富栄に対して圧倒的に分が良かった。公平な条件で対戦しても3連覇の可能性は高かっただろう。外国選手に手の内を見せないように、あるいは強いチャンピオンを誕生させて中国の国力を示すように、上層部が中国選手同士の勝敗を決める「勝利者操作」が日常的に行われていた時代だ。

 2013年2月に亡くなった荘則棟の激動の人生については、ここではとても書ききれない。1974年に国家体育運動委員会(現:国家体育総局)のトップ(主任)にまで上り詰めながら失脚し、80年から山西省チームで指導するようになった時、発した名言。「練習をナショナルチームの2倍することです」と荘則棟が提案した時、「私たちはいつ寝るんですか?」と驚く選手たちに彼はこう言った。「生きている時にずっと寝ていたら、あなたがたは死んだ時に何をするんですか」。大企業の管理職が言ったら猛烈なパワハラになりそうだが、何という迫力だろうか。卓球王国編集部でも未だに(冗談で)よく使われている。

 それから少し下の世代では、『幻惑の縦回転サービス』でもお馴染みの楊玉華(日本名:大倉峰雄)は、83年世界選手権東京大会の男子複銅メダリスト。東北福祉大に留学後、全日本学生4連覇と圧倒的な強さを見せた。楊玉華から3〜4歳年下の范長茂と滕義も、いずれも中国代表で活躍。右ペン表ソフトの范長茂は83年東京大会の男子団体優勝メンバーで、後にドイツ・ブンデスリーガでもプレーし、現在はもともとの母体である八一解放軍チームの男子監督を務める。右シェークフォア表ソフトの滕義は、85・87年世界選手権男子シングルス3位、87年男子ワールドカップ優勝。ぎこちないバックハンドと、長身を屈めるようにして打つフォア表ソフトの強打が印象的な、天才肌のプレーヤーだった。

 近年の選手では、96年アトランタ五輪銀メダリストの王涛がいる。「パンダ」の愛称で親しまれ、小柄で太鼓腹の体躯でありながら、打球センスは抜群。バック面の表ソフトから繰り出す「七色のバックハンド」と、左腕独特のシュートドライブで世界の頂点に迫った。劉偉と組んだ混合ダブルスでは世界選手権3連覇を達成しているが、同一ペアでの混合ダブルス3連覇は世界卓球で唯一の記録。長身で美人の劉偉の横で、少々遠慮した様子で立っていたのを思い出す。現在は八一解放軍チームの総監督で、軍人としても少将の要職にある。

 昨年、全中国選手権で39歳にして「19年ぶりの優勝」を飾った侯英超は、Tリーグでは木下マイスター東京の守護神。中国スーパーリーグでは2006年まで北京銅牛でプレーした。馬龍も所属していたクラブで、ちなみに当時監督だった閻永国の息子さんが閻安だ。北京銅牛はこのシーズンを最後に甲Aリーグに降格し、現在に至るまでスーパーリーグには北京市のクラブは登録されていない。2018年から中国卓球協会の副会長を務める張雷(93年世界選手権男子団体・ダブルス2位)のお膝元だけに、北京市をスーパーリーグの檜舞台に戻せる、地元出身のチャンピオンの登場が待たれるところだ。

◎北京市男子明星隊 MEN’S BEIJING ALL STARS
先鋒 侯英超
次鋒 范長茂
中堅 滕義
副将 王涛
大将 荘則棟


・数多くの名選手がいる中で、あえて全員「正胶(表ソフト)」の使い手を選ばせてもらった。右シェークバック表ソフトカットの侯英超、右シェークフォア表ソフト速攻の滕義と左シェークバック表ソフト速攻の王涛、そして右ペン表ソフト速攻の范長茂と荘則棟。速さとテクニックを兼ね備えた強豪チームだ。
  • 1960年代に中国の国民的英雄となった荘則棟。まさに不世出のチャンピオン

  • フリーハンドを体に巻きつけるような独特のスイング。真似した人も多かった

  • 右シェークフォア表ソフト速攻の滕義。世界選手権は2大会連続3位

  • 15年スーパーリーグプレーオフで、解放軍チームのベンチに入った范長茂

  • 95年世界選手権での王涛(左)/劉偉のプレー。この大会で3連覇達成

  • 張雷は中国卓球協会の副会長。選手時代は日本のサンリツでもプレー

  • 今も現役バリバリの侯英超。3位に入った06年ITTF・WT・グランドファイナルでのプレー

  • 08年北京五輪で、故郷に錦を飾ったヤン・ツー