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中国リポート

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 国際卓球連盟によって帖雅娜・林菱が五輪への直接出場権を剥奪され、張瑞の五輪予選通過が保留とされたのは、3人とも代表として出場する香港特別行政区のパスポートを持っていなかったためだ。
 香港特別行政区のパスポートを取得するためには、7年以上の在住によって「永久居民」のIDカードを取得しなければならない(IDカードは居留証で国籍とは別)。帖雅娜・林菱・張瑞の3名が中国香港に移籍したのは、2001年10月の全中国運動会の後で、「7年以上の在住」という要件に数カ月足りなかったのだ。2000年に移住した男子チームの李静と高礼澤は、昨年末に滑りこみセーフでパスポートを取得している。

 しかし、振り返ってみると2004年アテネ五輪・卓球競技の中国香港選手団で、「7年以上の在住」という要件を満たしていたのは男子の梁柱恩と女子の桑亜嬋だけだった。男子ダブルスで銀メダルを獲得した李静と高礼澤、女子シングルスに出場した帖雅娜・林菱・柳絮飛の3人は、まだ香港特別行政区のパスポートを取得していなかったにも関わらず、「(今後例外を認めない)特赦」という形で国際オリンピック委員会から出場が許可された。

 この「特赦」が今回の混乱を招いたという感は否めない。特に林菱は01年世界選手権で中国代表として2位に入り、移住から3年に満たないうちに中国香港代表として五輪に出場している。IOC憲章では、世界選手権大会などで一方の国を代表した後で国籍を変更した場合、「このような変更もしくは取得の3年後までは新しい国を代表してオリンピック競技大会に参加してはならない(第5章Ⅱ規則46細則2)」。もちろんIOCの裁量によって、例外は認められるのだが、国籍取得から3年はおろか、移住してから3年も経っていない選手をなぜ「特赦」の対象にしたのだろうか。
 その上、(例外を認めない)特赦によって04年アテネ五輪に出場したことが、今回の北京五輪でも再び特赦を引き出した形になっている。なぜ特赦が特赦を呼ぶのか。張瑞にしてみれば、帖雅娜・林菱と移住した時期がほぼ同じにも関わらず、「アテネ五輪に出場していない」ことで出場資格が認められないとしたら、納得できるはずがあるまい。激戦の連続となったアジア大陸予選は、彼女にとって一体何だったのか。

 アジア大陸予選が終わった後に自動出場権を取り消した国際卓球連盟の行動も不可解だったが、今回の国際オリンピック委員会の裁定はさらに不可解で、なんとも後味が悪い。パスポート取得が五輪出場の条件で、しかも前回の出場が特例であったのなら、今回は断固として「No」ではないのか。なぜふたりが「Yes」でひとりが「No」なのか。

 香港オリンピック委員会の霍震霆(ティモシー・フォク)会長は、香港の大富豪の一族。父親の霍英東(ヘンリー・フォク/2006年没)氏は北京五輪招致にも大いに貢献した人物で、これまでに中国スポーツ界へ8億香港ドル(約121億円)以上を寄付したと言われる。もちろんそれは氏の善意によるものだが…。もし今回の出場資格問題が、香港ではなく、たとえば南太平洋の島国で発生したとしたら、IOCは部分的とはいえ「Yes」と言ったのだろうか。

Photo:04年アテネ五輪で、中国香港唯一のメダリストとなった李静/高礼澤も、本来は五輪への出場資格はなかった
Photo:張瑞、五輪出場の鍵はわずか1カ月でその手をすり抜けていった