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中国リポート

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 すでに卓球競技の全予選が終了している北京五輪。男女86名の出場枠には、「三者委員会特別招待推薦枠」と呼ばれる予選免除の出場枠が男女ひとつずつある。三者委員会は国際オリンピック委員会(IOC)、各国オリンピック委員会連合(ANOC)、国際卓球連盟(ITTF)の三者によって構成され、各国のNOCから三者委員会へ送られた特別参加申請の中から、男女ひとりずつの選手を選出する。そして男子のアギレ(パラグアイ)、女子のトミー(バヌアツ)がこの出場枠を獲得し、晴れて北京の地を踏むことになった。

 女子で出場枠を獲得したプリシラ・トミーは、現在世界ランキング865位。8月8日の北京五輪開幕式では、福原愛(ANA)と同様、バヌアツ五輪代表選手団の旗手を務める。総人口20万人余りの南太平洋の島国・バヌアツが、卓球競技へ代表選手を送り込むのは初めてのことだ。
 このトミーを指導しているのが、中国から派遣された孫洪義コーチ。バヌアツ国家チームは孫コーチのもと、中国でも強化練習を行うなどして長足の進歩を遂げ、昨年サモアで行われた第13回南太平洋運動会ではトミーが女子団体とシングルスの2冠に輝いた。6月11日には駐バヌアツ中国大使の叢武(ツォン・ウ)氏がバヌアツ国家チームの練習場を訪れ、選手たちを激励したと報道されている。

 中国はなぜ南太平洋の小さな島国に卓球のコーチを派遣したのだろうか。
 もともと南太平洋地区は台湾と国交を結んでいる国々が多く、台湾にとって外交政策上、重要な地域となっていた。しかし、1990年代後半から中国が巨額の援助投資でこれを切り崩しにかかり、現在では中国と台湾の外交相手国の数は拮抗(きっこう)している。このような、中国と台湾の「引き抜き合戦」は、南太平洋の国々の自立を阻むものだという批判も少なくない。
 そんな中でバヌアツは、1982年に早々と中国と国交を樹立した、南太平洋地区でも親中派の国のひとつ。2004年にボオール首相が突然台湾との国交樹立を宣言し、中国がただちに全ての援助を停止すると警告、結局首相が交替するというひと幕もあったが、これまでに中国はバヌアツに対して多額の援助を行ってきた。医療団や教員、そして卓球のコーチという人材派遣もその援助の一環。卓球王国・中国にとっては、卓球のコーチもまた外交上のカードに成りうるのだ。

 そういった経緯を考えていくと、バヌアツのトミーに三者委員会の推薦枠が与えられたことにも、やや政治的なものを感じなくはない。ちなみに男子で推薦枠を獲得したアギレのパラグアイは、現在南米で唯一台湾との国交を保持している国だが、ルゴ次期大統領が中国との国交樹立を示唆する発言をしている。北京五輪での推薦枠がパラグアイに与えられたのも、外交上は中国にとって絶好のタイミングということになるが…。

Photo:バヌアツ五輪代表選手団の旗手を務めるプリシラ・トミー(写真提供:ITTF)