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中国リポート

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 卓球の試合には、エッジボールとネットインがつきものだ。ネットインならば、よほど短く落ちない限りは返球できるケースも多いが、エッジを返球するのは至難の業。球史に残るような激戦の、最後の最後でエッジがつき、あっけない幕切れを迎えることも少なくない。
 また卓球選手ならば、自分の、あるいは相手の打ったボールがエッジかサイドか、判定に納得のいかない思いをした経験があるだろう。北京五輪の男子シングルス4回戦では、「Mr.フェアプレー」を地で行くようなパーソン(スウェーデン)とサムソノフ(ベラルーシ)の両選手が、エッジかサイドかの判定で大もめにもめ、結局ノーカウントにして再開という前代未聞の事態も起きている。
 卓球台の「角(かど)」は数えきれないほどのドラマを生んできた。多くは悲運のドラマである。

 中国語では卓球のエッジのことを「擦辺球(ツァビェンチィウ)」と言う。「辺を擦る球」だから、日本人でも一読して意味がわかりやすい。そして中国ではこの言葉には、政治や法律の分野で意外な用法がある。法律や規定の隙間を突いて何かを行うことを、「打擦辺球」と言うのだ。「打法律擦辺球」「政策擦辺球」などと言うこともある。法律の網の目をかいくぐり、クロかシロかで言うとギリギリでシロ、というところを狙う様子を、エッジかサイドか微妙だがギリギリでエッジ、という卓球のエッジボールになぞらえたものだ。卓球が中国人の生活に深く根付いていることが伺えるようで興味深い。

 実際の用例として、4月5日の北朝鮮による弾道ミサイル発射に対し、中国国防大学の張召忠少将が自身のブログで「北朝鮮はエッジボールを打った」と発言している(日本国内でも報道された)。「決議1718(国連安保理が北朝鮮にミサイルの発射中止を求めた決議)には、ミサイルに類する飛行物体に関しては明文化されていなかった。衛星がその良い例だ。今回の北朝鮮は巧みにそこを突き、エッジボールを打った」というのがその主な内容。「擦辺球」の用例としては実にわかりやすい。

 それにしても、卓球のエッジボールは不運と諦めるほかないが、こんな物騒なエッジボールは勘弁願いたい。卓球界では多くの名選手を輩出しながら、今なお国際社会への門戸を閉ざし続ける北朝鮮。今回のミサイル実験は、エッジボールと言うよりも、予測のつかないボディハイドサービスと言ったほうが適当かもしれない。

Photo:1973年世界選手権決勝の最終ゲームで、15-15から3本のエッジと1本のネットインをねじ込み、優勝を掴んだキ(希+おおざと)恩庭。…文章とはあまり関係ありませんが