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中国リポート

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 トウ亜萍が世界選手権にデビューした1989年、女子卓球はよりパワフルな方向へ進みつつあった。87年世界選手権ニューデリー大会で優勝した何智麗(中国/現:小山ちれ)、そしてこの89年ドルトムント大会で優勝した喬紅(中国)は、恵まれた体格を生かした威力ある両ハンドドライブで世界の頂点に立った。
 そんな中で頭角を現してきた16歳の少女・トウ亜萍。その身長はわずかに150cm。これは公称だったから、実際にはもう少し低かったようだ。プレースタイルはフォア裏ソフト・バック粒高ラバーの異質速攻型。では、トウ亜萍のプレーを、三つのキーワードで紹介しよう。

1.すばやい戻りからの連続スマッシュ

 前陣でのすばやい動きから「ゴムまりのようだ」と評されたが、常に細かいステップを踏んでいたので、本当にゴムまりのように弾んで見えた。とにかく戻りが抜群に早く、したがって打球のピッチも非常に早かった。ヨーロッパの選手とは、ワルツとロックというくらいピッチの差があった。身長の低い選手に対しては、両コーナー、特にフォアサイドを切って有利な展開に持ち込むのがセオリー。しかし、トウ亜萍を前にすると、左右に揺さぶられるのはいつも相手選手のほうだった。
 決定打はミート打ちとスマッシュが主体。卓球を始めて1年間は徹底的に基礎技術をやり込んだというだけあって、スマッシュにもまず凡ミスは出ない。そして要所で混ぜる、巧みな逆モーションの流しドライブは、相手をあざ笑うかのようにノータッチで抜けていった。

2.魔術師のようなフォアサービス

 トウ亜萍のサービス練習の練習量は相当なものだったようだ。第1球目攻撃であるサービスを徹底的に強化し、“魔術師”と形容されるほど巧みな変化サービスを駆使した。
 また、中国の女子選手の中で、フェイクモーションを多用した最初の選手でもある。それまでにも中国では、手首を曲げて戻す一連の動きの中で、横回転と逆横回転のサービスを出し分けるモーションの工夫はあった。しかし、たとえば下回転を出したあとにラケットを上に引き上げ、上回転に見せるような意図的なフェイクモーションを使ったのは、トウ亜萍が最初だったのだろう。このフェイクモーションを交えたアップダウンサービスから、少しでも返球が浮けばすかさず3球目強打を叩き込んでいった。

3.バック粒高面で時間をコントロール

 抜群のピッチの早さを誇るトウ亜萍とはいえ、すべてのボールを強打するわけにはいかない。左右に大きく動かされれば、不利な展開になる場面も出てくる。無理に攻撃すると不利になる場面では、バック面に貼ったツブ高ラバー(変化系表ソフトに近い、ややツブの低いもの)での巧みなカット性ショートを使い、ラリーを一旦リセットして再び有利な展開に持ち込んでいった。また、相手が中陣に下がった時にはうまくバック面でのドロップショットを使い、相手がようやく返してきたボールを打点の早いスマッシュで打ち抜いた。

 これらの多彩な技術を支えていたのは、苦境に陥るほど燃える彼女のファイティング・スピリット。勝負所でスマッシュを決めたあとに「シャーッ」と拳を固めて叫ぶ姿は、まさに「闘神」だった。
 トウ亜萍のプレーを見たことがない方は、ぜひ一度観てほしい。卓球というスポーツの持つ限りない可能性を、改めて感じることができるはずだ。

Photo上:91年世界選手権千葉大会でシングルスに初優勝
Photo中:96年アトランタ五輪でも単複優勝。表彰台の真ん中でも、両隣の陳静、喬紅より頭ひとつ低い
Photo下:中指に遊びがあり、レシーブ時には二本差しに近くなる独特のグリップ

※数回のラリーではありますが、卓球王国DVDライブラリーの
D-001『TABLE TENNIS BEYOND IMAGINATION! 1985~2000スーパープレー』
D-011『世界のスーパースターアクションDVD』
にもトウ亜萍のプレーが収録されています