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中国リポート

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 中国囲碁界を代表する棋士に、聶衛平(ニエ・ウェイピン/じょう・えいへい)という人がいる。1952年生まれで、幼くして囲碁に才能を発揮し、現代中国のプロ棋士第1号となった人物だ。囲碁界の日中対抗戦「日中スーパー囲碁」では11連勝を記録し、中国囲碁協会から「棋聖」の称号を与えられた。

 …なぜ急に囲碁の人物が中国リポートに登場したのか?
 実は世界選手権ロッテルダム大会後に、この聶衛平がブログに書きつけた文章が、ちょっとした話題を呼んでいるからだ。「棋聖」というにはあまりに過激、かつ痛快なその文章を少し紹介してみたい(一部を抜粋)。

「卓球の観客席の黒幕」

 私はひとりのスポーツファンとして、国内で最も有名な某テレビ局(注:CCTV)のチャンネル5(スポーツチャンネル)をよく観ている。しかし、目に入ってくるものは、たいていふたりの選手とひとつの球がピンピンポンポン、またそれが際限なく長い。ピンポン球の行ったり来たりを延々と何時間も流している。どこが面白いのか、どこに芸術性があるのか、まったく理解できない…。

 生放送に録画に再放送、さらに大会の大小を問わず、リーグ戦から選手権に至るまで、卓球の放送時間が長いのは一目瞭然だ。果てには国家チームの代表選考会まで、中継車を飛ばして生中継する始末だ! そんなやり方が通用するなら、囲碁の練習の対局も、国家の貴重な予算を費やして生放送してくれるのか?

 この前やっていた、卓球の世界選手権とかいうものを何回か観たが、9千人は入りそうな体育館に観客は9人だけだった。一番多いときでも90人、観客席の上のほうはぐるりと黒い幕で覆われていたのだ。
なんでこんなインチキをするのか? 黒幕の後ろにいるのは一体誰なんだ??


 …早い話が、棋聖は彼の愛する囲碁がCCTV(中国中央電視台)でほとんど放送されず、卓球ばかり放送されているのが我慢ならないのだ。ちなみに観客が9人というのは、よほど大会の序盤だったか、客席の片側にしか観客を入れなかった試合を誤解したようだ。大会終盤は少なくとも5千人以上は入っていた。

 このブログが発端となり、中国では「卓球がその人気に比べて放送時間が長すぎるのではないか」という論争が起こった。聶衛平の弟子の常昊氏は「チャンネル5は卓球チャンネルに改称すればいい」と発言。CCTVのスポーツ局主任が、中国卓球協会の副会長のひとりである江和平氏だったため、「卓球をえこひいきしているのでは?」と報道するマスコミもあった。
 もちろん江和平氏はこの論調に反論。「卓球の放送時間が長いのは、単純に視聴率が高いから。中超(サッカーの超級リーグ)は視聴率が高くても0.3%、囲碁は0.12%でしかない。ロッテルダム大会男子決勝の王皓vs張継科戦は視聴率が2.18%だった」と述べている。中国は各地方局の放送を衛星で受信できるため、チャンネル数が非常に多く、王皓vs張継科戦の2.18%は視聴率としてはかなり高い。中国全土で2700万人が見た計算になるという。

 卓球が今でも国民的な人気スポーツなら、棋聖から思わぬ論争をけしかけられることもないはず。卓球にかつての人気がないことを証明する論争でもある。
 それにしても、日本の卓球ファンにしてみればうらやましい話。今はネットでも様々な試合が観られるようになったが、以前は年に1回の全日本選手権の放映を、どれほど心待ちにしていたことか…。

Photo上:ロッテルダム大会男子決勝の様子
Photo下:大会第2日目、メインアリーナの3階席に張られた黒幕。この裏側には…、観客席があります