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 今回のマンガでの私の役割は登場人物の台詞や説明文が主だが、もうひとつの役割としてマンガ家さんに提供する資料の作成がある。卓球を知らないマンガ家さんにとって、卓球のプレーを違和感なく描くことは難しい。特に難しいのはグリップだ。そこで、マンガ家さんが描いた絵の構図に合わせて私がポーズをとった写真を貼り付けて送る作業が必要となった。プレー場面のほとんど全コマなのでおびただしい数にのぼり、大変ではあったが、手だけとはいえ私の一部が荻村伊智朗や田中利明として描かれるのだから、これほど楽しいことがあろうか。自然と笑みがこぼれた。

 また、歴史ものなので、登場人物の顔や服装、建物などできるだけ史実に忠実に描いてもらいたい。当然ながらそんな資料をマンガ家さんが持っているわけがない。マンガ家さんどころか、おそらく世の中で私しか持っていないものすらある。

 ということは、それらを正しく描こうがデタラメに描こうがそれを判別できる読者などほとんどいないので、無意味な努力にも思えるが、それらが作品の迫力となって必ずや読者に伝わると信じて調べた。実はそれは言い訳で、本当の理由は、調べればわかるかもしれないものを調べないで描くのは気持ちが悪いというだけのことである。

 ある本に載っている参考文献を手に入れて、さらにその本に載っている参考文献を手に入れたりしているとキリがなく「これ以上見つからないでくれ」と思うことさえあった。困ったことにAmazonなどで意外に簡単に手に入ってしまうのだ。新しい資料が見つかると嬉しいやら苦しいやらであった。

 こうして入手した本に出てくる写真を元に描いてもらった。たとえば、初代国際卓球連盟会長のモンタギューが出てくる場面は、モンタギューの自伝「THE YOUNGEST SON」に収められていた家や家族の写真をもとに描いてある。日本で最初にピンポン球を製造した人物については「セルロイドハウス横浜館」というセルロイドの博物館のような施設に問い合わせ(そんなのがあるのだ!)、永峰清次郎という人物であることを突き止めた。その情報を元に、SNSなどを使ってそのお孫さんお二人を探し当て、当時の写真を入手した。

 卓球そのもの以外の描写にもこだわった。たとえば、1938年の世界選手権で審判がマイクを使ってアナウンスする場面では、当時の動画にぼんやり映っているマイクの形から、それがフィリップス社の4211型という製品であることを骨董品のウェブサイトで特定し、鮮明な写真を入手するといった調子だ。

 こんなことをしているので、書くよりも調べている時間の方がはるかに長く、さっぱり進まずに3年もかかってしまった。いくら苦労して正確に描いても面白くなければ意味がないわけだが、こうした努力も通常の面白さとは別の価値を生んでいるものと信じている。

〜制作秘話3(8/3掲載予定)に続く

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