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中国リポート

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 これまた少々古いニュースで恐縮ですが、一時中国のマスコミを騒がせていた、「ロンドン五輪・男子シングルス決勝は勝利者操作だった!」という話題をお伝えしましょう。ことの発端は、10月25日に中国・CCTVの番組『開講le(口+拉)』に出演した劉国梁総監督が発した言葉。学生たちの前で、ゲストが講義を行うスタイルの番組なのだが、総監督の発言を大まかに要約すると、下記のとおりになる。

「2012年のロンドン五輪で、張継科は史上最速での大満貫(五輪・世界選手権・ワールドカップでの優勝)を達成し、ひとつの記録を作りました」
「ロンドン五輪から、先にシングルスを行い、次に団体戦を行う試合方式に変わりました。シングルスで敗れた選手は大きなショックを受け、メンタルのコントロールが非常に難しいということは予測していた。若い張継科や馬龍にそれができたかというと、きっと無理だったでしょう。それならば、すでに五輪を2回経験している王皓のほうがいい」
 「私は王皓に言いました。『皓、しっかりやるんだぞ。決勝で張継科に負けるのは光栄なことだ。そういう気持ちで戦わなければいけないぞ』。そして、実際に王皓は決勝で張継科に敗れましたが、団体戦ではチームの中心として、張継科ともダブルスを組み、優勝を勝ち取った。彼は本当に勇気があり、個人よりも周りの利益を考えられる人間です」


 この劉国梁総監督の発言を受けて、一部のマスコミやネットでは「劉国梁、ロンドン五輪決勝で勝利者操作が行われたことを暴露!」というニュースが駆け巡った。確かに劉総監督の発言は、「張継科が決勝で負けると、続く団体戦に影響が出る。決勝では張継科を勝たせて、大満貫の最速記録を達成させ、団体戦への影響が出ないようにする」という内容にも読み取れる。

 劉国梁総監督はこの報道を受け、「今まで勝利者操作をしたことは一度もない。もし王皓に負けろと命令したことがあったとしたら、彼は私を恨み、海外でプレーすることを選んだだろう」と全面否定。誤解を受けたことに対し、「いくつかのマスコミは言葉を断片的に解釈し、よく事情を知らない卓球ファンを間違った方向に導いた」と語っている。当人の王皓もまた、「勝利者操作という報道は、ぼくや劉監督、そして継科に対する侮辱だ。ぼくはある人々のうがった見方がひどくおかしかったし、同時にとても憤慨した。劉監督はぼくのプレッシャーをやわらげるために、その話をしてくれたんだよ」とコメントした。

 実際に2012年ロンドン五輪前のCCTVの番組では、劉国梁総監督のこんなコメントが放送されている「王皓には『君にとってベストの結果は、張継科に負けることだ』と言っている。そう考えられなければ、チャンスはないと」。この独特の言い回しが、いかにも劉国梁総監督らしい、プレッシャーの軽減法なのだ。……誤解されてもしかたない気もするが、少なくとも公(おおやけ)の場で勝利者操作を語るほど、彼は迂闊(うかつ)な人間ではないだろう。
  • すぐれた「言葉力」で選手を操縦する劉国梁総監督

 11月30日〜12月7日に上海・閔行体育館で開催される第12回世界ジュニア選手権の中国代表メンバー。続けて女子チームの代表6名を紹介しましょう。過去11大会で、一度も女子シングルスの優勝を逃したことはない中国。決勝戦を振り返ってみても、08年大会でA.ゾルヤ(ドイツ:当時)、10年大会で石川佳純(日本)が決勝に進出しているものの、ともに準優勝。その他の大会はすべて中国勢同士の対決だった。今大会もシングルスに6名をエントリーし、上位独占を狙う。

[中国女子]
劉高陽 リウ・ガオヤン
 1996年6月13日生まれ(18歳)
左シェーク両面裏ソフトドライブ型・WR31

陳幸同 チェン・シントン 1997年5月27日生まれ(17歳)
右シェーク両面裏ソフトドライブ型・WR47

王曼昱 ワン・マンユ 1999年2月9日生まれ(15歳)
右シェーク両面裏ソフトドライブ型・WR50

朱朝暉 ジュ・チャオフイ 1996年2月16日生まれ(18歳)
左シェーク両面裏ソフトドライブ型・WR82

陳可 チェン・クー 1997年3月26日生まれ(17歳)
左シェーク両面裏ソフトドライブ型・WR108

何卓佳 ハ・ジュオジア 1998年10月25日生まれ(16歳)
右シェークフォア裏ソフト/バック表ソフト前陣攻守型・WR93

※WR=2014年11月ITTF発表の世界ランキング

 左シェークドライブ型が3名、右シェークドライブ型が2名というのは男子チームと同じで、そこに今や希少となった右シェーク・バック表の何卓佳を加えた陣容。6名のうち何卓佳を除く5名はすでに中国超級リーグで活躍しており、劉高陽は13勝、朱朝暉は11勝、王曼昱は10勝を挙げている。最も実績を残しているのは、今年8月のユース五輪でも金メダルを獲得した劉高陽。前回大会は優勝を目前にしながら、顧玉ティンの優勝への執念に屈したが、今年は劉高陽も最後の世界ジュニア。国際大会での経験では他のメンバーを一歩リードしている。この劉高陽に朱朝暉、陳可を加えたサウスポートリオが優勝戦線を引っ張る。

 しかし、中国リポート担当が最も注目しているのは、前回14歳で3位に入った王曼昱。全中国選手権・団体の結果をお伝えした際にも紹介したが、170cmを超える長身でバックハンドが非常に強い。フォアの打ち合いになるとまだ攻めの遅い部分があるが、今年の韓国オープンでは馮天薇(シンガポール)とゲームオールの接戦を演じており、すでに相当な実力の持ち主。丸顔に小さな眼、失礼ながらあまり迫力ある風貌ではないのだが、超級リーグの大舞台でも「相手に勝てないと思ったことは一度もない」とハートの強さを感じさせる。黒龍江省・チチハル市の決して裕福ではない家の出身で、「家族に楽な暮らしをさせてあげたい」というのも大きなモチベーションになっているという。

 また、今回の世界ジュニアはバタフライ製のプラスチックボール(継ぎ目あり)で行われる。国家2軍チームの選手たちは、昨年12月からすでに練習の使用球をプラスチックボールに切り替え、回転量と飛距離が落ちるプラスチックボール対策として筋力アップに取り組んできた。その成果が今大会で発揮されるのか。それとも前回大会の男子シングルスを制した張禹珍(韓国)のように、中国の堅城を崩す選手が現れるのか。例年にも増して見どころの多い大会だ。
  • ユース五輪女王の劉高陽、3回目の出場でVなるか

  • 秘めた闘志、王曼昱

  • ガオーッ(?)。世界ランキングを47位まで上げている陳幸同

 11月30日〜12月7日まで、中国・上海の閔行体育館で開催される第12回世界ジュニア選手権。各大陸を巡回しながら開催される世界ジュニア、中国での開催は意外にも初めて。主催協会はシングルスに最大6名(通常は4名)、ダブルスに最大3ペア(通常は2ペア)をエントリーできる。まず男子代表の6名からご紹介しましょう。

[中国男子]
于子洋 ユ・ズヤン
 1998年5月23日生まれ(16歳)
左シェーク両面裏ソフトドライブ型・WR32

梁靖崑 リァン・ジンクン 1996年10月20日生まれ(18歳)
右シェーク両面裏ソフトドライブ型・WR61

呂翔 リュ・シャン 1996年8月9日生まれ(18歳)
左シェーク両面裏ソフトドライブ型・WR144

王楚欽 ワン・チューチン 2000年5月11日生まれ(14歳)
左シェーク両面裏ソフトドライブ型・WR220

劉丁碩 リウ・ディンシュオ 1998年1月13日生まれ(16歳)
右シェーク両面裏ソフトドライブ型・WR164

薛飛 シュエ・フェイ 1999年1月10日生まれ(15歳)
右ペンホルダー両面裏ソフトドライブ型・WR199

※WR=2014年11月ITTF発表の世界ランキング

 左シェークドライブ型が3人、右シェークドライブ型が2人、そして右ペンドライブ型が1人という陣容。今回の代表メンバーからは外れたが、9月のワールドツアー・南米遠征に帯同した朱誠も左シェークドライブ型なので、男子2軍チームは左腕が多い傾向にある。男子2軍チームの劉国正監督が期待をかけているのは、今年6月のジャパンオープン荻村杯を制した于子洋。すでに世界ランキングを32位まで上げ、今大会でも有力な優勝候補のひとりだ。一方で、呂林(92年バルセロナ五輪複優勝)の息子である呂翔や、王楚欽は将来性という点ではやや物足りない。

 昨年の全中国運動会で馬龍と大打撃戦を繰り広げた梁靖崑は、前回は優勝した張禹珍(韓国)に競り負けてベスト16止まり。逆三角形の体躯で、身体能力の高さはピカイチだが、プレーを見ているとまだメンタルが発展途上の感がある。ジャパンオープンでは髪を派手な金色に染めて登場し、チームメイトと談笑することもなく、イヤホンをして観客席にひとり座っていた。恵まれた素質を生かして、1軍チームの主力選手になれるかどうか、今大会がひとつの試金石になる。

 そして、ペンドラファンにとっては楽しみな存在が薛飛。抜群のフットワークと、バランスの取れたフォームから繰り出す連続フォアドライブは、ペンドラならではの魅力。裏面打法も巧みで、劉国梁監督に「同じ年頃だった時の王皓よりレベルが高い」と言わしめている。やや攻めが遅い点が気になるが、これまで世界ジュニアに出場してきた呉家驥、鄭培鋒、范勝鵬というペンドライブ型の選手たちが伸び悩む中、正真正銘の「王皓2世」の称号を手にしたい。
  • 于子洋は世界ランキングを32位まで上げている

  • 超級リーグではたびたび大物食いも見せる梁靖崑

  • 左シェークドライブトリオのひとり、呂翔

 少々古いニュースになるが、中国代表として世界選手権に出場したふたりの女子選手が、10月に相次いで結婚式を挙げた。11年世界選手権ベスト8の范瑛と、09年世界選手権混合複3位の常晨晨だ。

 安定性と変化を兼ね備えたカットプレーで、外国選手には無類の強さを誇った范瑛は、上海市男子チームのメンバーとして活躍した高欣と結婚。07年ユニバーシアードでは優勝を果たし、国家チームにも在籍したことのある選手で、現在は上海で貿易会社を経営している。10月19日に旦那さんの地元である上海、11月1日に地元・江蘇省鎮江市で結婚披露宴を行い、陳夢と曹臻が「伴娘(花嫁の介添人・ブライズメイド)」をつとめた。
 上海での披露宴には、上海卓球界の重鎮である徐寅生・陸元盛・施之皓、鎮江での披露宴には地元出身の秦志ジェン(現国家男子チームコーチ)、鄔娜(97年世界3位)などが出席し、ふたりの門出を祝った。

 そして10月26日には、常晨晨が同じ遼寧省鞍山市出身の陳冠良さんと挙式。陳さんの職業はパイロット。劉詩ウェン、李暁霞、郭躍、馬琳といった遼寧省出身の選手たちも出席し、盛大に結婚を祝った。
「人との縁について、もともと私はそんなに信じていませんでした。でも、私たちの出会いは、“運命”というものがあることを教えてくれた。『一生』という言葉は、一生の長さを考えれば簡単には口にできないけれど、訪れる日々をともにしっかり過ごしていきたいと願っています」。『大江網』には常晨晨の披露宴での言葉が紹介されている。

 今回のふたりの結婚披露宴には、現役の国家女子1軍チームの選手も数多く出席しているが、11月21〜25日には主力の6選手(李暁霞・丁寧・劉詩ウェン・朱雨玲・陳夢・武楊)を除くメンバーで総当たりのリーグ戦を開催。下位の選手は2軍チームへの降格が待っている。「ウェディングドレスにあこがれるのは、まだまだ先だぞ」という国家チーム首脳陣の声が聞こえてきそうだ。
  • 抜群のカットセンスを誇った范瑛。現役終盤は右ひじの故障に泣いた

  • 常晨晨は超級リーグからも引退し、ラケットを置く

 ドイツで行われた男子ワールドカップ決勝で、優勝を決めた直後にフェンスを蹴破り、張継科。賞金4万5千ドルを全額没収され、その行動は中国でも大いに物議をかもした。中国の大手ポータルサイト『新浪』の卓球サイトでは、「張継科がフェンスを壊したことをどう思うか?」というアンケートをネット上で実施。その結果、「何も悪くない、激情にあふれているのは良いこと」が35.7%(8,448票)、「あまり良くはない、理解はできるが少しやり過ぎだ」が32.0%(7,575票)、「良くない、いかなる場合も取るべき行動ではない」が31.5%(7,443票)と見事に票が割れた。「国際卓球連盟による賞金の没収を支持するか」という質問に対しても、「支持する」が51.3%(11,507票)、「支持しない」が48.7%(10,929票)と真っ二つに割れている(票数などは11月11日現在)。

 その張継科、今回の全中国選手権では、大会初日から注目の的(まと)になった。観客からは「そのフェンスはけっこう硬いから気をつけろよ、張継科!」「張継科、ずいぶんフェンスにやさしくなったな!」等々のヤジも飛んだと伝えられている。
 大会前半の団体戦ではおとなしいプレーで、団体準決勝の上海市戦で若手の趙子豪に敗れた時も、特に変わった様子はなかった張継科。しかし、男子ダブルス決勝で、マスコミや観客に格好のネタを提供してしまった。馬龍と組んだペアで許シン/樊振東ペアと対戦し、第5ゲーム6ー7とリードされたところで、張継科が台上バックドライブをミス。その直後、張継科がふてくされたように放り投げたラケットが、卓球台の上でバウンドした。主審からはすかさずイエローカードが提示され、観客のブーイングが会場に響いた。

 決して良いマナーとは言えないが、ヨーロッパ選手なども、ミスをした時にラケットを放り投げることはよくある。張継科の「ラケット投げ」も、台に叩きつけるような乱暴な投げ方ではなかったが、いかんせん事を起こすタイミングが良くない。多くのマスコミに取り上げられる結果となってしまった。

 国家チームの劉国梁総監督は、男子ワールドカップの閉幕後に「我々は必ず張継科のあの悪いクセを更正させ、自分の感情をコントロールする術(すべ)を学ばせる」とコメントしている。しかし、今のところ国家チームからは、何の処罰も下されていない。2006年アジアカップ決勝で王皓に負けた陳杞がラケットを投げ、フェンスを蹴った時は1週間の農村での労働や、罰金などの処罰を受けている。張継科の男子ワールドカップ決勝での行為は完全に確信犯であり、周囲に与える影響も大きい。陳杞より重い処罰を受けてもおかしくないところだが……。「下手に処罰して、ふてくされてやる気をなくしたら元も子もない」というのが周囲の本音か。

 現役引退後も、コーチなどで国家チームに残る意志はないと聞く張継科。男子ワールドカップでの2回目の優勝で、ダブル「大満貫(五輪・世界選手権・ワールドカップでの優勝)」にリーチをかけ、残るは16年リオデジャネイロ五輪。ロンドン五輪での優勝後、劉国梁総監督や肖戦コーチは張継科のモチベーションを高めるのに苦心していたが、リオ五輪で優勝したら、張継科ももう卓球界に未練はないかもしれない。
  • 14年男子ワールドカップで優勝を決めた直後の張継科

 11月2〜9日、湖北省黄石市で行われた全中国選手権。男子シングルスは樊振東、女子シングルスは朱雨玲が優勝。ともに男女団体決勝では準優勝に終わった悔しさを晴らすタイトルとなった。男女シングルス準決勝以降の記録は下記のとおり。

[男子シングルス]●準決勝
樊振東(解放軍) 4ー1 尚坤(上海市)
馬龍(北京市) 4ー3 方博(山東省)
●決勝 樊振東(解放軍) 7、ー8、1、ー11、5、10 馬龍(北京市)

[女子シングルス]●準決勝
丁寧(北京市) 4ー0 武楊(山西省)
朱雨玲(四川省) 4ー1 李暁丹(山西省)
●決勝 朱雨玲(四川省) 9、10、ー6、ー11、6、5 丁寧(北京市)

 男子シングルス決勝は第2シードの樊振東と第3シードの馬龍の対戦となり、樊振東が団体準決勝に続いて馬龍に競り勝った。敗れた馬龍が、決勝後に次のようなコメントを残している。「樊振東はこの一年でさらに大きく成長している。自分にとっても、彼との試合はこれからもっと厳しいものになっていくだろう。第6ゲームに10ー8でリードしながら、そのチャンスを活かせなかったのが痛かった」。第1シードの許シンは準々決勝で方博に0ー4、第5シードの王皓も同じく準々決勝で馬龍に1ー4で敗れ、準決勝に進めず。第4シードの張継科は故障により、男子シングルスを棄権した。張継科のブロックからは今年のジャパンオープンを制した16歳の于子洋が勝ち上がったが、準々決勝で尚坤に敗れてベスト8止まり。

 女子シングルス決勝は、朱雨玲がゲームカウント1ー0とリードした第2ゲーム、3ー8のビハインドから12ー10と逆転したのが大きかった。優勝候補の筆頭にも挙げられていた劉詩ウェンは、ベスト8決定戦で北京市の小柄なパワーヒッター・盛丹丹にまさかの苦杯。朱雨玲にとっては、対戦成績で分が悪い劉詩ウェンが勝ち上がってこなかったことも有利に働いた。
 男子ダブルスは許シン/樊振東、女子ダブルスは丁寧/劉詩ウェンという、2年後のリオ五輪も見据えた代表選手ペアが優勝。許シン/樊振東は決勝で、張継科/馬龍に4ー2で勝利した。混合ダブルスは北京市チームの閻安/盛丹丹が優勝を飾っている。
  • 全中国選手権で初優勝の樊振東(写真は14年アジア競技大会)

  • 朱雨玲も全中国で初のタイトル(写真は14年アジア競技大会)

 大変長らくのご無沙汰、誠に失礼を致しました。休眠状態だった中国リポート、少しずつ再開していきたいと思います。まずは昨日閉幕した全中国選手権の話題から。

 かつてはトップ選手のほとんどが欠場する年度もあり、大会のレベルが年によってまちまちだった全中国選手権。4年に1回の全中国運動会とはレベルの差が大きかったが、近年は国家チームの主力選手が顔を揃え、安定してレベルの高い大会になりつつある。今年度もトップ選手で欠場したのは女子の李暁霞くらいで、世界ランキングのトップ選手が湖北省・黄石市に集結し、熱戦を展開した。

 男子団体を制したのは上海市。準決勝の山東省戦で、17歳の右ペンドライブ型・趙子豪が張継科を0ー2からの大逆転で破る金星を挙げ、山東省に3ー0で快勝。準決勝のもうひと試合は、樊振東・周雨・徐晨皓という若手トリオを揃えた解放軍が、北京市を3ー0で撃破。トップで樊振東が馬龍に3ー2で競り勝ち、試合の流れを引き寄せた。上海市と解放軍の対戦となった決勝、詳細なスコアはないが、結果は下記のとおり。

●男子団体決勝
 〈上海市 3ー2 解放軍〉

○許シン 3ー0 周雨
 尚坤 1ー3 樊振東○
 趙子豪 1ー3 徐晨皓○
○許シン 3ー2 樊振東
○尚坤 3ー1 周雨

 上海市のエース・許シンがきっちり2勝を挙げ、ラスト尚坤が周雨とのサウスポー対決を制して、3時間40分の熱闘に終止符を打った。長くチームの屋台骨を支えた王励勤がチームを去りながら、団体のタイトルをつかんだ意義は大きい。
 ちなみに団体メンバーの許シン、尚坤、趙子豪の3名はいずれも上海市にある曹燕華卓球学校の出身。許シンは江蘇省徐州市、尚坤は山西省運城市、趙子豪は江蘇省南京市の出身と生粋の上海っ子はいないのだが、名門・上海の復活を願う曹燕華(83・85年世界女子チャンピオン)校長の熱意が実を結びつつある。

 一方、女子団体を制したのはダークホース・黒龍江省。21歳の車暁曦と15歳の王曼昱、ふたりのパワーヒッターを軸に優勝候補を連破した。準決勝の北京市戦では、車暁曦が丁寧を3ー0で破るサプライズ。そして決勝の四川省戦では、3番で「福原愛選手の(元)コピー」こと王シュアン(王+旋)が勝利して4番につなぎ、王曼昱がなんと朱雨玲にストレート勝ち。最後までチームの勢いはおとろえず、初優勝を飾った。
 昨シーズンの超級リーグでも10勝を挙げた王曼昱は、長身で非常にリーチが長い。強烈な両ハンドのパワードライブを放つが、ボールタッチは柔らかく、強引な打ちミスもない。これで体ができてきたら、一体どこまで強くなるのか。底知れぬスケールの大きさを感じさせる選手だ。

 個人戦の結果も続けてお伝えします…。
  • 男子団体優勝の立役者、許シン(写真は14年アジア競技大会)

  • 王曼昱(ワン・マンユ)は将来の世界女王か?(写真は13年世界ジュニア)

 9月11日、中国卓球協会は9月27日〜10月4日に韓国・水原(スウォン)で開催される第17回アジア競技大会・卓球競技へのエントリーメンバーを発表した。各種目への出場選手は下記のとおり。

[男子団体]張継科、馬龍、許シン、樊振東、周雨
[女子団体]丁寧、劉詩ウェン、朱雨玲、陳夢、武楊
[男子シングルス]許シン、樊振東
[女子シングルス]劉詩ウェン、朱雨玲
[男子ダブルス]馬龍/張継科、許シン/樊振東
[女子ダブルス]朱雨玲/陳夢、劉詩ウェン/武楊
[混合ダブルス]樊振東/陳夢、周雨/武楊


 男子でエントリーされた5名は、王皓が国際大会の第一線から退きつつある現在、ほぼベストの陣容。16年リオデジャネイロ五輪の主力となり、さらにシングルスの代表枠2つを争う張継科、馬龍、許シンの最強トリオが出場する。その一方で、張継科や馬龍を男子シングルスにエントリーせず、シングルス初出場の許シンと樊振東を送り込んできた。

 張継科と馬龍がシングルスに出ないというのは、「(現時点では)このふたりが、リオ五輪のシングルスの最有力候補」とお墨付きをもらったようなもの。これで許シンと樊振東が燃えないはずがない。そして17歳の樊振東を4種目にフルエントリーさせたのは、「これで4冠を獲るくらいでなきゃ、最強トリオを抜いてリオ五輪に出るのは無理だよ」という劉国梁総監督からのメッセージとも読み取れる。アジアのトップクラスを相手に4種目を戦い抜くのは相当厳しいが、樊振東ならひょっとしたら……という気もする。

 女子は元五輪・世界女王の李暁霞が欠場。今シーズンの超級リーグでも、チームを優勝へと導いた李暁霞。リオ五輪への最短ルートにいることは間違いないが、一方で体のあちこちに故障を抱えている。現役後期のトウ亜萍や張怡寧のように、これからリオ五輪まで大会出場をセーブしながら、じっくり調整していくのではないか。
 男子の樊振東のように、女子で「試練」を与えられているのは劉詩ウェン。これまで何度も痛恨の敗戦を経験し、彼女にとって大きな課題である団体戦では、丁寧とともにチームを引っ張り、内容を伴っての優勝が求められる。女子ダブルスでカットの武楊と組ませ、若手最強ペアの朱雨玲と陳夢をぶつけるあたり、なかなか念が入っている。一方で女子シングルスに、劉詩ウェンに相性の悪い朱雨玲を出させたのは、劉詩ウェンにタイトルを獲らせて自信をつけさせようという親心……というのは深読みしすぎか。

 現在、男子は広東省広州市、女子は広東省中山市でアジア競技大会に向けた集合訓練を行っている国家卓球チーム。韓国開催のアジア競技大会といえば、02年釜山大会の女子団体決勝で、中国が北朝鮮に敗れた一戦が思い出される。実はアジア競技大会の16回の歴史の中で、中国が7種目完全制覇を達成したのは、78年バンコク大会と前回の2010年広州大会の2回のみ。中国にとって「世界選手権より難しい大会」とも言われる。女子チームの孔令輝監督は騒音訓練などを行い、準備に余念がないようだ。
  • 樊振東、持ち前のスタミナで4種目を戦い抜くか

  • 大きなプレッシャーの中、大会を迎える劉詩ウェン

☆☆☆ 2014中国卓球クラブ超級リーグ 女子プレーオフ決勝 8.10 ☆☆☆
※3番ダブルスと5番シングルスは3ゲームズマッチ。1・2・4番の第5ゲームおよび3・5番の第3ゲームはすべて7点先取で行うため、「7−4」「9−7(ジュースの場合)」と表示

〈山東魯能 3ー1 八一冀中能源〉
○李暁霞 4、11、ー14、6 劉曦
○陳夢 6、4、8 木子
 陳夢/顧玉ティン ー8、ー6 郭躍/曹臻○
○李暁霞 8、ー9、5、ー9、7ー3 木子

★山東魯能は2011年シーズン以来、3年ぶり5回目の優勝

 超級リーグ女子プレーオフ決勝は、山東が八一に競り勝ち、優勝を果たした。
 両チームは昨シーズンのプレーオフ決勝でも対戦し、八一が3ー1、3ー0で2連勝して優勝を決めていた。山東の李暁霞は、第1戦で木子、第2戦で郭躍に連敗。エースの重責を果たすことができなかったが、今回は苦しみながらも劉曦と木子を破り、優勝の原動力となった。「この2シーズンはビッグゲームに向けた調整などもあって、超級リーグではあまり良いプレーができなかったから、今シーズンは必ず優勝したいと思っていた。プラスチックボールでの打球はまだ不安定だけど、ある意味では私に新しい刺激をもたらしてくれるかもしれない。これもまたひとつの挑戦だから」(李暁霞:出典『新浪体育』)

 CCTV(中国中央電視台)で女子決勝の解説を担当した李暁東(元中国チーム総監督)は、李暁霞を次のように称賛している。「技術について言えば、李暁霞はすでに張怡寧や王楠を上回っている。スピードとパワー、回転のコンビネーションにおいても、そして女子卓球の男性化という点でも、非常にすぐれた選手だ」。山東魯能の超級リーグでの5回の優勝に、いずれも主力選手として貢献してきたが、これは張怡寧の優勝4回を上回る超級女子の最多記録だ。

 2番で木子を破り、チームに貴重な勝利をもたらした陳夢も喜びのコメントを残している。「超級リーグで初めてのタイトルを獲得できてとてもうれしい。これはチームワークの勝利です。故障や病気を克服して、準決勝と決勝でチームに2勝をもたらした暁霞姐(李暁霞)のプレーには本当に感動した。私はまだ多くのことを彼女から学ばねばなりません」(出典『華奥星空』)。
 山東魯能の男女アベック優勝は2010年シーズンに続いて4年ぶり2回目。甲A以下の下部リーグにも、山東魯能から多くの選手たちが参戦しており、育成型の名門クラブとして、超級リーグでは唯一無二の存在感を放つ。今シーズン、2番手の陳夢は19勝16敗とやや負けが込んだが、3番手の顧玉ティンが12勝(12敗)を挙げたのは心強い。来シーズンも優勝候補の最右翼となるチームだ。
★★★ 2014中国卓球クラブ超級リーグ 男子プレーオフ決勝 8.9 ★★★ ※会場は山東省微山県
※3番ダブルスと5番シングルスは3ゲームズマッチ。1・2・4番の第5ゲームおよび3・5番の第3ゲームはすべて7点先取で行うため、「7−4」「9−7(ジュースの場合)」と表示

〈山東魯能 3ー0 江蘇中超電纜・紫砂〉
○張継科 9、ー3、9、ー7、7ー4 オフチャロフ
○ハオ帥 ー7、6、7、8 崔慶磊
○ハオ帥/方博 8、7 張超/林晨

 超級リーグ男子の2014年シーズン、チャンピオンチームは山東魯能!

 勝敗を分けたのは、トップの張継科とオフチャロフの一戦だった。ともに相手の台上バックドライブを、鋭いカウンターのバックドライブで狙い打ち、締めつけあうような息苦しい試合展開。最終ゲーム、オフチャロフが4ー0とスタートダッシュをかけ、勝利まであと3点(第5ゲームは7点先取)としたが、ここから張継科が驚異の7点連取で逆転。山東は続いて好調のハオ帥が単複で2点を挙げ、江蘇を圧倒した。

 張継科の最終ゲームでの7点連取からは、彼の勝負師としての天性がプンプン匂ってくる。0ー4からフォアストレートへのカウンタードライブで打ち抜くと、フォア前のサービスで相手の台上バックドライブを誘い出し、大きく空いたバッククロスを攻めて確実に得点。5ー4と逆転すると、フォア前へのアップ系サービスでオフチャロフの台上バックドライブのミスを誘って6ー4。最後はオフチャロフのバックミドルへ、回転量の多い台上バックドライブを送り、オフチャロフのミスを誘った。勝利を焦るオフチャロフとのコントラストは、あまりに鮮やかだった。

 「オフチャロフは確かに高いレベルに到達しているし、卓球に対しても熱いものを持っている。東京での世界卓球で負けてから、ぼくはその敗戦をあらゆる角度から分析し、反省した。今日、最終ゲーム0ー4から逆転できたことで、自分の価値をさらに高めることができたと自負している」(張継科:出典『新浪体育』)。山東魯能の郭刻歴監督は「継科はチームを率いて多くの難関を乗り越え、ついに頂点に到達した。彼には感謝しているよ。今日の第1試合でも、もし彼が最終ゲームに逆転してくれなかったら、完敗を喫していたかもしれない」と述べている。

 逆転負けを喫したオフチャロフは、自身のフェイスブックに早速コメントをアップしている。「張継科との試合は、信じられないような、痛恨の逆転負けだった。でも、ぼくは本当にチームを誇りに思っている。ぼくらのチームが決勝に行くなんて、誰も予想していなかっただろう。おめでとう、山東魯能!」(オフチャロフ)。オフチャロフは試合後、北京に移動してから飛行機を乗り継ぎ、インド洋のリゾート地・モルディブへ。奥さんのメルストレムさんと、少し遅いハネムーンを過ごしている。